トラックがデータも運ぶ!日野自のデジタル司令塔は社外から招いたIT戦略家
日野自動車は10月にデジタル戦略の司令塔となる「CDO(最高デジタル責任者)」のポストを新設した。就任したのはヤマトホールディングス(HD)やイオンでIT戦略担当の執行役員を歴任した小佐野豪績(ひでのり)氏。CDOを設置する国内企業はまだ少なく、2019年度では業種全体で4・2%だ(日本情報システム・ユーザー協会のまとめ)。小佐野氏に日野自のデジタル戦略の方向性などを聞いた。
―CDOを新設した背景は。
「各部門のデータを横串で見るため、さらにデジタル化に経営の意思を反映するために(デジタル関連のトップを)一本化した。確かに設計、生産、販売、整備といった各部門はITを起点につながってはいる。しかしデータ同士のつながりはなかった。まず社内の各部門のデータを標準化しつなぐ。それによりサービスを一元化できるようにし、顧客に対するデジタルソリューションの質を上げる。トータルで見る以上、セキュリティー対策も一元化する」
―トラックメーカーならではのデジタル戦略は。
「トラックだけがサプライチェーン(供給網)の『製・配・販』の間を横断してる。トラックは荷物だけでなく『データも運ぶ』ようにする。当社としてはエンドユーザーまでつながりたい」
―具体的には。
「まず直接の顧客であるトラック・バス事業者がいる。さらにその先の荷主やバス利用者も顧客として含める。設計や生産部門の取引先には部品メーカーや架装メーカーがいる。整備領域でも協力会社と情報共有を進める。社内だけでつながってはだめ。社外ともつながる必要がある。すべての荷物は必ず最後は個人に行き着く。そこも見据えたデジタルを考えている」
―デジタル人材をどう育成しますか。
「社内だけの力では育てられない。スタートアップなど社外との連携を積極化する。『データを活用して…』というのは概念ではなく具体化が必要。日野自がデータを提供して社外と連携し、いち早くソリューションを開発する。顧客接点が少ないメーカー側の当社の人材も、デジタル化によるマネタイズ方法を身に付けられる」
―日本企業がデジタル化を進める上での鍵は。
「自前主義にこだわらず、できる分野からどんどん外部と連携することだ。すると足りないデータや課題に気づける。データの価値を皆が認識していても、使わなければ新しい気づきは得られない。(データ活用で)この10年、GAFA(米IT大手4社)に負けたのはアウトプットがなさ過ぎたからだ。データを使わず妄想していても何も進まない。データを“含み利益”で終わらせてはいけない」
【記者の目/「多対多」サービス創出カギ】
日野自はデジタル化による顧客接点の拡大に力を入れる。それも従来の日野自と運送事業者の「1対1」だけではなく、物流網全体に関わる事業者全体を巻き込んだ「多対多」によるデータ活用を狙っているようだ。小佐野CDOは「物流現場はまだまだ課題がある」と話す。データ活用の効用を最大化するサービスを創出し、日野自の成長戦略につなげる。(日下宗大)