トヨタの新型「MIRAI」を徹底解説!これまでの反省から何が変わった?
トヨタ自動車が、第2世代となる燃料電池車(FCV)の新型「MIRAI(ミライ)」を発売した。生産能力を初代と比べ10倍に向上。燃料電池(FC)システムは商用車などに幅広く転用できるように全面改良し、本格普及の第一歩と位置付ける。一方、普及には水素ステーションなどインフラ面の整備も欠かせない。トヨタは“仲間づくり”で周囲を巻き込み、新型ミライをスタート地点とした「水素社会実現」を旗印に掲げる。
「新型ミライは、本格的な水素普及への出発点としての使命を担う車だ」―。トヨタの前田昌彦執行役員は断言する。その覚悟を裏付けるのが、生産能力の大幅な引き上げだ。
2014年に発売した初代ミライの累計販売台数は1万台程度。普及を阻んだ要因の一つが、生産面のボトルネックだった。発売当初は生産が追いつかず納期が長期化。生産能力を年3000台に引き上げたが、田中義和チーフエンジニア(CE)は「あまりにも効率が悪かった」と振り返る。商用車などからもニーズがあったが、乗用車用に開発したFCシステムは転用が困難。「将来に向けた兆しはつかめたが、まだまだ力が及ばなかった」(前田執行役員)。
反省を生かし新型は性能向上に加え、さまざまなモビリティーへの転用を前提に開発。車台からFCシステムの設計、レイアウトまでを一から見直した。FCセルは薄型化し初代の370枚から330枚に削減。出力を1割超高めつつ軽量化、小型化し量産性を確保した。
デザインや走行性能といった「クルマ本来の魅力」にも、こだわった。航続距離は従来比1・3倍の850キロメートル。発電時に取り込む外気から粒子状物質(PM)2・5などを除去して排出する「マイナスエミッション」という新たな付加価値も提案する。価格は初代の670万円(消費税抜き)に対し、新型は約645万円(同)と性能向上しつつもコスト減を実現した。田中CEは「乗りたい車がたまたまFCVだったと評価される車ができた」と自信を見せる。
水素普及で“仲間づくり”
菅義偉首相が所信表明演説で「50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言したのが10月。前田執行役員は「(温暖化ガスを実質ゼロにする)カーボンニュートラルに政府が言明したことは非常に大きい」と、環境車の需要は加速度的に拡大するとみる。
カーボンニュートラルの機運は、日本にとどまらず欧州や中国など世界で高まっている。トヨタは環境規制の強化を見据え、FCVのほかハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)など、環境車を拡充。前田執行役員は「あらゆる国の顧客が規制に合った最適なクルマを選べる」と力を込める。
だが、環境車だけでは、自動車のカーボンニュートラルの達成は難しい。カーボンニュートラルに向けては、自動車の生産から使用、廃棄までの全体で二酸化炭素(CO2)排出量を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」、ガソリンや電気がつくられる工程も含めて燃費を評価する「ウェル・ツー・ホイール(W2W)」など、新規制対応が不可欠だからだ。
FCVでは走行中は水しか排出しないが、燃料となる水素の製造過程などでCO2が発生すれば、カーボンニュートラルとはならない。つまり、エネルギーの供給側と利用側が一体で取り組まなければ、LCAやW2Wの実現は不可能と言える。前田執行役員も「水素インフラの整備も含め、国やステークホルダーと連携・協調することが必要だ」と指摘する。
このため、トヨタは業界横断の仲間づくりを推進。7日には岩谷産業や川崎重工業など88社が参加する「水素バリューチェーン推進協議会」を発足すると発表した。水素の製造・貯蔵・運搬、FCV普及の課題である水素ステーションの整備を促進し、水素利用の拡大と新たな環境規制対応の両立を目指す。