“非富裕層”が進学断念の要因は「親が子どもに望む学歴の低さ」。新社会人が問う格差問題の解決策

日刊工業新聞社主催、フレッシャーズ産業論文コンクールから

  • 288
  • 102

「フレッシャーズ産業論文コンクール」(日刊工業新聞社主催、経済産業省・日本商工会議所など後援)は、次世代の産業界を担う人材の育成を目的に、1978年に創設された新社会人対象の論文コンテストです。第43回(20年度)のテーマは、「あすの社会、あすの企業、あすの私を考える」で、I部(大手企業)とII部(中堅・中小企業)併せて計94社・759編の応募がありました。今回、多くの応募の中からⅠ部第一席、経済産業大臣賞を受賞した、富士通九州システムズ(福岡市博多区)吉村純弥さんの論文「非富裕層が進学を諦めない社会を目指して」を紹介します。社会的な格差が深刻化しつつある中、新社会人はどのような解決策を示したのでしょうか。

私の家庭は母子家庭。奨学金で大学へ進学

私の家庭は母子家庭で、昔から決して裕福ではなかった。いわゆる母子寮で生活していた私は、同じ母子家庭の幼なじみが多くいた。彼らは全員大学へ進学していない一方で、私は母が必死に働いて養ってくれたおかげで奨学金を借りて大学へ進学することができた。

非富裕層であるにもかかわらず、幸運にも私は進学を実現できたが、一般に非富裕層は大学へ進学したくてもそれを断念することが多い。その要因は二つあると考える。一つ目の要因は、社会で広く知られている「経済的要因」である。

この要因に対し、政府は以前より対策に取り組んできた。国立大学では、成績や家庭の経済事情に応じた授業料免除の措置や、成績優秀者の奨学金返済を免除などする策を導入している。また2019年には非富裕層を対象に大学の授業料を無償化とする「大学等就学支援法」が成立している。これらのことより、「支援が整備されたことで、貧困を理由に大学への進学を諦めなくていい」との意見を会員制交流サイト(SNS)やニュースで目にする。

しかし、私はその意見に同意することはできない。なぜなら、奨学金を借りて大学へ進学した私は、家族に大きな経済的負担をかけてしまったからだ。例えば、進学したい大学が必ずしも地元にあるとは限らない。遠方にある場合は、子どもが1人暮らしをしなければならない。

私は地元福岡から熊本の国立大学へ進学したが、月2万円の生活費の仕送りを親に負担させてしまった。現在の経済的対策のみでは、大学へ進学することは非富裕層にとって大きな経済的負担となるのである。以上より、現在の経済的要因に対する対策は有効に機能しておらず、新たな取り組みが必要であると考える。

二つ目の要因は「親の子どもに望む学歴の低さ」である。ここで言う学歴とは、どこの大学を出たいかではなく、どの段階の学校まで行きたいかを指す。本要因が子どもの進学を阻む原因だと考える根拠として、私の経験を挙げる。

自身が大学へ進学できなかったことから、母は私に「大学進学を希望するなら進んでほしい」と言ってくれていた。その結果、生活が苦しい中、私は普通科高校に行く決意ができ、大学へ進学しやすい環境で勉強できた。

一方、同じ母子家庭の幼なじみらは、親から技術を身に付けられる工業高校や高等専門学校への進学を勧められていた。その結果、彼ら全員はそれらの学校へ進学し、卒業後に就職した。

以上の経験より、私は親の学歴に対する考えが、子どもの高校選択の意思決定に大きな影響を及ぼすと考える。すなわち、経済的要因にかかわらず、本要因により大学へ進学しやすい環境が構築しにくいのである。 本論では、大学へ進学したい非富裕層の子どもが、それを断念しなくて済むためにはどのような取り組みが必要なのか、これら二つの要因に照らし合わせて考える。

「経済的要因」に妥当性はあるか

本章では経済的要因の妥当性について述べる。現在の経済的支援の効果を確認するために、非富裕層の進学率を見る。

19年11月に内閣府が公表した「子どもの貧困に関する現状」では、16年度の世帯別の子どもの大学等(専修学校等を含む)進学率が調査されている。「全世帯」の73・2%と比較して、非富裕層と想定される「ひとり親家庭」は58・5%、「生活保護世帯」は33・1%と、それぞれ低い結果が出ている。

以上より、政府が大学などへの進学を促す経済的支援を講じたとしても、非富裕層にとって大学などへの進学は難しい問題であると言える。つまり、政府による現在の経済的支援だけではまだまだ不十分なのである。

非富裕層の「親の子どもに望む学歴の低さ」

次に、非富裕層は子どもに望む学歴が低いことを述べる。19年3月に公表された、お茶の水女子大学による17年度の調査研究「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」を見る。

本調査研究では、小学6年生と中学3年生の保護者約12万2000人を対象に「どの段階の学校まで進んでほしいか」という質問を行い、その結果を所得階層別にまとめている。「大学」と答えた人は、富裕層で81・0%であったのに対し、非富裕層で29・3%であり、50ポイントもの差がある。

別の資料を見ていく。19年、ベネッセ教育総合研究所の木村治生氏による研究「低所得世帯の高校生の進路選択」を見る。本研究では高校1年生から高校3年生の2816組の親子を対象に、世帯年収別の希望進路を調査・集計している。

その結果、親が「大卒を希望しない」割合を見てみると、全体では22・7%であったのに対し、年収が300万円以下の世帯では49・1%であった。以上より、非富裕層の親は子どもに望む学歴が低い傾向にあり、本要因は正しいと言える。

企業による奨学金返済支援の努力

本章では経済的要因に対する具体的な対策を提案する。近年、企業が奨学金を肩代わりするなどの奨学金返済への支援が、学生と企業の双方から注目されている。

まず学生側の背景として、奨学金利用者の増加に伴い、卒業後に返済できない人が増えている現状がある。奨学金利用者は96年に大学生の5%程度だったが、14年には20%、さらに16年には50%まで増加している。そのうち9割が返済必要な貸与型であり、その中で返済困難な学生が増えている。近年では「奨学金破産」の文字をニュースで見るようになり、累計で1万件以上にのぼっている。

次に企業側の背景として、売り手市場であり、離職率が増加している現状がある。20年8月に公表された総務省統計局の「労働力調査」で、離職率の推移を見る。

14年は4・6%だが、19年には5・5%まで増加している。そのような中、企業に在籍し続けるほどその分多く奨学金を肩代わりする制度により、離職率を低下させることが可能となる。

私の体験談だが、去年の就職活動の際、あるベンチャーIT企業より「入社時に100万円、3年目に200万円をそれぞれ支給するので、奨学金返済の足しにしてほしい」と提案されたことがある。

これらの活動は近年、動きを見せ始めたばかりである。しかし、この企業の奨学金返済支援が十分な広がりをみせ、従業員が当然のようにその恩恵を受けられる未来が実現できれば、非富裕層の子どもでもそれを見据えた将来設計により、奨学金を気にすることなく大学などへ進学できると考える。

「マンダラートシート」の活用を提案

本章では、親の子どもに望む学歴の低さの具体的な対策を提案する。親は学力が高い子ほど進学させたいと考える。したがって、子どもの学力を向上させる取り組みを提案し、本要因による進学障壁を解決する。

お茶の水女子大による調査研究「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」では、学力下位の地域において高い学力と関連のある取り組みが研究されている。その結果、「児童に将来就きたい仕事や夢について考えさせる」指導、いわゆるキャリア教育が効果を上げているそうだ。

そこで、そのキャリア教育として、私は野球の大谷翔平選手により話題となった「マンダラートシート」の活用を提案したい。まず3×3の合計9マスのマス目を紙に書く。中心には解決したい課題を、その周囲8マスには課題に関連した語句を思いつくままに記入していく。この周囲の8個の語句に対しても、それぞれ同様の作業を行うことで思考を深めていくことが目的となる。

富士通九州システムズでは新人教育の一環で「5年後になりたい自分」をテーマに、マンダラートシートを活用している。いざ実施してみると、テーマに関連する語句8個を思いつくだけで想像以上に大変だった。しかし、現在の自分に不足しているあらゆる要素が明確となり、思考がとても整理された。

また「5年後」という近い将来だったおかげで、書き出したそれらの要素は現在の自分とかけ離れておらず、やる気が出た。書き終えた後に実施した口頭発表も印象的で、声に出すことでさらなるモチベーションにつながった。

以上の経験より、学校でのマンダラートシートの有効な活用方法として「18歳のなりたい自分」をテーマに、授業参観で発表することを提案する。18歳は大学に入学する年齢のため、大学進学までの進路を考える良い機会になる。

また、児童・学生にとって遠すぎない将来であることも良い。さらに、授業参観で用いることで、親へ本人の希望進路を伝える場にもなる。学力向上だけではなく、これらの利点も併せ持つマンダラートシートを学校教育で活用すべきである。

気軽に大学に進学するには

本論では非富裕層の大学への進学における課題について、広く知られる経済的要因に加え、親の子どもに望む学歴の低さを新たな要因として考え、これらの解決策を議論してきた。

最終的な到達点は、所得に関係なく、大学以降も高校までと同じ気軽さで進学できる社会だ。それを実現するためには、政府だけではなく、企業や学校など社会全体の努力が大切なのである。

【参考文献】
・「子供の貧困に関する現状」内閣府 20年8月19日閲覧
・「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」文部科学省 20年8月19日閲覧
・「低所得世帯の高校生の進路選択」木村治生 チャイルドサイエンス第18巻
・「労働力調査」総務省 20年8月20日閲覧
・「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」文部科学省 20年8月20日閲覧

富士通九州システムズ(福岡市博多区)吉村純弥さん

ニュースイッチオリジナル

COMMENT

小川淳
編集局科学技術部
部長

新社会人を対象にした論文コンクールで、経済産業大臣賞を受賞した吉村さんの論文を全文掲載しました。自身の経験をベースに、格差社会と階層固定に対する警鐘と処方箋を論理立てて説明する内容に、驚きました。読者の皆さんはどう受け止めたでしょうか。

キーワード
奨学金 格差

関連する記事はこちら

特集