ロスジェネ救済へ「給与資源の再配分」を今すぐ始めるべき理由

連載・ロスジェネ世代論(5)ベクトル 秋山輝之副社長

 就職氷河期は企業が人件費の抑制を目的に新卒採用の枠を絞った。その結果、就職率は50%台まで落ち込んだ。非正規の職に就く人が増えるなど、就職氷河期世代の苦境の端緒となった。組織・人事コンサルタントであるベクトル(東京都港区)の秋山輝之副社長はこのときの企業の判断について「大局的な視点を欠いた」と指摘する。秋山副社長に企業の人事戦略について、就職氷河期の反省と今後のあるべき姿などを聞いた。

高卒の地方採用中止が混乱を招いた


 ―就職氷河期当時、企業の人事戦略にはどのような問題があったのでしょうか。
 問題は大局的な視点を欠いたことに尽きる。特にバブル経済崩壊後に日本人の人件費が高いということで(製造業などが工場を海外に作り)高卒の地方採用を中止させたことがこの世代を混乱させたと思う。その結果、大学生が増えた。一方、大卒の採用数は増えずにむしろ抑制されたことで大幅に就職率が落ち込んだ。企業は当時、大学生が増えていることや、新卒の失業者が大量に生まれることが将来的に社会にどう影響するかなど、日本全体の労働市場を見ずに今年は景気が悪いから抑えるという感覚だけで判断していた。

 ―就職氷河期世代は、企業による能力開発の機会を得にくかったという指摘もあります。
 企業は業績が低迷する中でどのような人材を育てるべきかわからなくなっていたし、製造にしろITにしろサービス業にしろ、現場の実務的な仕事ばかりをその世代に任せた。長期にわたり新卒採用の間口を狭めたため部下が入らず、管理能力も養われにくかった。その結果、実務能力は向上したが、企業の生産性向上につながる企画を考えるといった能力開発はされにくかったように思う。

 ―就職氷河期世代の給与額は他の世代に比べて低い傾向があります。この背景として能力開発の機会を得にくかったことが指摘されますが、どのように分析されていますか。
 個人的には給与額と能力開発の機会の関係は限定的だと思う。給与額の低さの背景は年収の高い大企業の就職率が低いことが大きい。ただ、それだけではなく、成果主義賃金の導入の影響もあると考えている。実際に大企業の社員に限って年代別の給与額を見ても就職氷河期世代は低い。

 ―成果主義賃金の導入は就職氷河期世代の給与額の低さにどのように影響したのでしょうか。
 従来の年功序列型賃金は40、50代で役職につけるが、成果主義賃金によって役職に登用されにくくなった。上の世代が詰まっているということもあるが、名刺上の課長、部長もなくなった。管理職比率が低下した。このため、就職氷河期世代は給与の面でも割を食ったといえる。この世代が60歳になるまでに、60歳以上の給与額を上げないと深刻な問題になる。

低賃金が社会保障制度のリスクに


 ―それはなぜですか。
 一般的に60歳以降の再雇用時には給与が4割程度少なくなるのが現状だ。就職氷河期世代は上の世代に比べて世帯貯蓄や金融資産の保有率が低い。同様のルールのままでは60歳を超えたときに生活が苦しくなり、社会保障制度のリスクになる。

 ―どのような対策が考えられますか。
 例えば50代の賃金を抑えて60歳以降の賃金を上げるといった給与資源の再配分は一定程度必要になるだろう。就職氷河期世代が60歳になる直前に実施するという方法もあるが、雇用施策の突然の切り替えは特定の世代の悲劇を生む。今から始めて影響を見ながら緩やかに移行していく必要がある。企業は社会的責任として取り組むべきだ。

 ―就職氷河期世代の苦境という世代問題の発生を踏まえ、企業の人事戦略は今後どうあるべきでしょうか。
 5―10年後にどのような影響があるかを考えて戦略を打たなくてはいけない。バブル経済崩壊後に長期的な影響を考えずに行った人事戦略をしっかり反省すべきだ。例えば、グローバル競争が激しさを増す中で(日本のような新卒採用市場がなく欠員が出たら即戦力を補充する)欧米式の採用を取り入れるという考えがあるが、取り入れる際にはその影響は鑑みなければいけない。突然、大きくルールを変えると特定の世代が路頭に迷う。企業は今の従業員に対してはきわめて慎重だが、将来の従業員には慎重ではない。特に若者にはとんでもない大改革をしがちだ。

 ―新卒一括採用の是非についてはどのように考えていますか。
 若者にやさしい日本型の採用は残していくべきだ。特段のスキルがない人を失業させてしまうとなかなかはい上がってこれず、社会をネガティブなものに変える。海外のように、景気低迷時には正社員になるまで卒業後5年もかかるような社会は目指すべき姿ではないだろう。しかし、終身雇用の崩壊や若者が当たり前のように転職する流れは止まらない。「せっかく採用した若手が少しの不安で転職してしまう」と嘆く声を企業から聞くが、その要因に、短期間の新卒一括採用によって相互の理解が不足したまま入社しているということがある。このため、大企業に限らず、中堅企業も採用方法や学生との接点のあり方を多様化する必要がある。大学や、従業員や取引先からの推薦こそ重視したり、内定者に入社前から配属職場でアルバイトをしてもらったりといった取り組みがもっと活発になると良いと思う。グローバル競争も踏まえれば、欧米式の採用を一部で実施していく方法もあるだろう。
(聞き手・葭本隆太)
           

【略歴】秋山輝之(あきやま・てるゆき)1973年生まれ。東大卒後、96年ダイエー入社。人事部門にて人事戦略の構築などを担当後、04年にベクトル入社。人事・組織コンサルタントとして150社の組織人事戦略構築などを支援。著書に「実践人事制度改革」「退職金の教科書」がある。



連載・ロスジェネ世代論


♯01 「2040年危機」招くロスジェネの苦境に救済策はあるか(2019年3月15日配信)
♯02 【小林美希】政策と企業の間違いが生んだ「中年フリーター」は“社会問題”(2019年3月16日配信)
♯03 【豊田義博】ロスジェネの苦境の処方箋「“非正規でも安心”が現実策」の根拠(2019年3月17日配信)
♯04 【小杉礼子】ロスジェネの受難に見る「新卒一括採用」の功罪(2019年3月18日配信)
♯05 【秋山輝之】ロスジェネ救済へ「給与資源の再配分」を今すぐ始めるべき理由(2019年3月19日配信)

ニュースイッチオリジナル

葭本 隆太

葭本 隆太
03月19日
この記事のファシリテーター

年齢階級別の給与格差はグラフで見ると一目瞭然でした(連載(1)「“2040年危機”招く「ロスジェネ」の苦境に救済策はあるか」参照)。30代後半から40代の平均給与はこの10年で下がっており、秋山さん指摘のとおり大企業の就業者だけを見てもその傾向は出ていました。本連載は本稿が最終回です。色々な視点から識者の方に問題点や改善策を指摘いただきました。ただ、多くの方は「ロスジェネの苦境に改善策はあるか」を問うと、即座には回答が出せないといった様子でした。それだけ問題は深刻だということだと感じました。本連載が少しでも改善できる道を模索する議論のきっかけになればと思っています。

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