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新型コロナが働き方に迫る“脱一律”の衝撃。「日本型雇用慣行」がいよいよ終わる

新型コロナが働き方に迫る“脱一律”の衝撃。「日本型雇用慣行」がいよいよ終わる

新型コロナの流行拡大は企業組織に“脱一律”を迫る(写真はイメージ)

新型コロナウイルスの感染拡大が、日本の働く環境に甚大な影響を与えている。多くの人が出社を制限され、職場の景色は一変した。雇用環境が大幅に悪化していく懸念もある。「withコロナ・afterコロナ」の社会において、働き方や雇用の環境はどう変化するのか。上場企業を中心に150社の人事制度構築に携わってきた組織人事のスペシャリストである秋山輝之さんに聞いた。

雇用環境はどうなるか

新型コロナウイルスは、これまで以上に雇用や職場に多様性をもたらすと考えています。

まず雇用への影響について。今回のコロナショックは、第一に居酒屋やバーなどの小規模事業者に打撃を与えています。これは製造業や金融業といった大型の産業を直撃した2008年のリーマン・ショック時とは大きく異なる点です。雇用環境に関わる3月の各種調査結果を見ると変化は小さいのですが、飲食・サービス業は雇用統計に表れにくい特性があります。アメリカでは「6週間で全労働者の18%超にあたる3000万件以上が新規失業保険を申請した」という状況が発生しています。世界経済はつながっており、日本の今後の雇用環境も米国の状況と無関係とはいかないでしょう。

そうした中で、どの産業・職種が長期的に影響を受けるかは未知数です。大きく求人倍率が下がる職種の発生が予想される一方で、建設業の施工管理者などは構造的な人手不足を抱えており、求人倍率が下がりにくいとも予想されます。このため、雇用環境は従来以上に一律ではない、多様な変化を見せると想定されます。

職場を変えた二つのこと

働き方の視点で見ると、コロナ感染症を防止するための外出制限は二つの点で日本の職場環境を大きく変えています。一つはテレワークの普及。テレワークは社員の業務状況が見えにくいといった理由で「働き方改革」の中で経営者から導入をためらわれた施策でした。それが強制的に実施された結果、多くから長期的に活用すべきだと賛同を受けたことは、子育て世代が働き続けられる社会の実現に向けて大きな一歩になるでしょう(下グラフ)

一方、より注目すべきもう一つの点は、企業における組織政策の脱一律化を推進させたことです。多くの企業は政府の外出自粛要請になるべく応じるため、全部署一律ではなく、部署ごとの施策を実施しました。可能な部署はテレワーク、そうでない部署はマイカー出社といった具合です。これまで企業はテレワークが活用できる職種をわかっていましたが、導入が困難な部署への配慮や、全社の一体感を損なう懸念からあまり進めませんでした。

つまり今回の外出自粛要請によって日本の企業に染みついていた「特定の部署ではよいが、全社ではできないから導入しない」という“全社一律主義”が強制的に崩されたというわけです。

そう考えると、終身雇用や年功賃金に代表される日本型雇用慣行がいよいよ終焉するきっかけになるとも予想されます。終焉するといわれながら終焉しきれなかった日本型雇用慣行が継続した理由は、全社一律主義にありました。テレワークと同様に、新卒採用の通年化も、初任給の引き上げも、職務型の人事制度の導入も、選択定年制も、この数年、日本企業が悩んできたテーマは、ほぼすべて「全社一律ではできないから導入しない」という状況でした。

今回の企業による脱一律の対応は、今後働き方を全社一律ではなく、部署や職種ごとに適したものに多様化させる大きな一歩になると考えています。

脱一律で具体的に変わること

今後、外出自粛要請が解除されたとき、いったんテレワークは縮小されるでしょう。しかし、テレワークを続けるのか、終了するのか、または部分的に残すのか、この判断は職場ごと、個人ごとに業務の効率性を踏まえて判断されていきます。

その上で、あらゆる施策が、職場やその仕事内容、メンバー構成に基づいてそれぞれ判断されていくはずです。全社一律の休日休暇を協議するといった労使慣行はもちろん、さまざまな決め事が、全社から部署に権限移譲されていくと考えます。いま全社一律でやることが常識のことも、いちど脱一律を当たり前に考えてみると、実は非効率と気付くものがたくさんあるからです(下に一覧)

afterコロナの社会が必要とする組織

これから迎える経済環境は産業・職種別に大きく異なり、企業に求められる人事政策も部門・職種別に大きく異なることが予測されます。企業の人事部門が、働き方のルールや採用の判断、評価や報酬改定などの権限を委譲し、部署最適で職場が考え、仕事に基づき判断する体制づくりをしていく。この職場ごとに効果的な働き方の政策をもつ組織づくりこそが「withコロナ・afterコロナ」の社会が必要とする組織体だと私は考えています。

また、権限を委譲される職場には、労働法規はもちろん、安易な人事政策が重大な失敗を呼ぶことをビジネス常識として学ぶ必要があることも指摘しておきたいと思います。

【略歴】秋山輝之(あきやま・てるゆき)1973年生まれ。東大卒後、ダイエーに入社。人事部門にて人事戦略の構築を担当。2004年ベクトルへ。09年より副社長コンサルティング事業統括。組織・人事コンサルタントとして150社の組織人事戦略構築などを支援。20年4月よりフォーラムエンジニアリングに参画し、エンジニアのキャリアサイトcognavi事業を担当。著書に「実践人事制度改革」「退職金の教科書」など。関連記事は下記。
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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
これまで就職氷河期世代や定年延長をテーマについて解説いただいていた(過去記事・略歴欄にリンク)組織人事のスペシャリストである秋山輝之さんにアフターコロナにおける企業組織のあり方を展望していただきました。テレワークの強制実施がそれそのものの恒常化だけでなく、組織のあり方の多様な面に影響を与えるという指摘は興味深いです。

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