奨学金返済を肩代わりします…企業が人材確保へアピール
大学生の3人に1人が利用
大学生の3人に1人が奨学金を借りるようになった。その反面、その返済が重しとなり、社会問題となりつつある。そんな中、大学の進学などで借りた奨学金の返済を企業が肩代わりする事例が増えてきた。新社会人にとっては奨学金の返済に追われず、安心して働けるようになる。企業側にとっては、優れた学生の確保に向けたアピールポイントにつながる。
大学の学生向け奨学金は、家計基準などの制限が近年、緩やかになった。その結果、学部生の3人弱に1人が利用する状況であり、今の学生にとって奨学金は身近な存在になっている。ただ、返済義務のない給付型は一部に限られ、利用者全体の9割弱は返済が必要な貸与型だ。
奨学金制度の利用者数186万人(2016年度)の内訳を支援組織別に見ると、政府の日本学生支援機構の利用が7割を占める。企業の財団など公共団体、学校が各1割。営利法人から直接というケースはほぼない。
日本学生支援機構の仕組みでは、返済は学部卒業6カ月後から始まり、月額一定額を15年程度の期間で返すのが一般的だ。17年度からは所得連動型も始まり、収入が少ない時期は返還額の減額や返還猶予で支援する。残念ながら近年は連帯保証人に返還を求めるケースも増えている。同機構では、学生が保証料を支払って利用する機関保証を推奨している。
また、学生の地方就職を奨学金支援によって促す仕組みが10年ほど前から始まっている。自治体から総務省の特別交付税を、地元産業界から寄付をそれぞれ集め、県の「人口減少対策・就職支援基金」を創設。Uターン就職の学生に対し、奨学金返還の一部など、基金で肩代わりする仕組みだ。30県以上で整備されているが、利用上限の各県年100人までまだ余裕があるのが現状だ。
大和証券グループ本社は、社員が学生時代に借りた奨学金の返済を支援する「奨学金返済サポート制度」を8月に導入した。奨学金返済における経済的、心理的な負担を軽くし、社員が安心して働ける環境を整える。あわせて優秀な人材の獲得にも結びつける。
制度は奨学金の返済義務がある社員を対象に、返済資金を無利子で貸し付けすることで、社員の金利負担を軽減させる。返済の開始は、入社6年目からとなる。中田誠司社長は、制度を通じて若手社員の負担を和らげることで、「集中して業務に取り組んでもらいたい」と期待を寄せる。
**イズミ 夏季賞与10万円加算、来春導入
イズミは、19年春に入社する新入社員を対象に、奨学金返済を支援する制度を導入する。卒業後の奨学金返済は新入社員にとって負担が大きい。この負担を軽減し、優秀な人材を長期雇用するため導入を決めた。
制度では、勤務3年目、5年目、7年目の計3回、夏期賞与に10万円ずつ加算して支給する。5月に同制度の導入を公表して以降、「面接時やアンケート実施時に質問をしてくる学生が多い。学生からの評価は高い」(イズミ広報)と反響を実感する。
19年入社とほぼ年齢が変わらない17年や18年に入社した社員からも導入要請があり、今後検討する計画だ。
クロスキャットは17年度に、新卒社員の奨学金返済を支援する制度を始めた。奨学金利用者には冬のボーナスとして一律120万円を支給する。17年度は33人が入社し、16人が利用。18年度は33人のうち20人が利用する予定だ。
特徴は入社1年目の冬の一時金として支払い、例え退職しても返還を求めない点だ。管理統括部人事部の細根宇紘リーダーは、「まとまった金額を支給することで経済的・心理的負担を軽くしてもらう」と説明する。
16年度、同社では採用応募数が目標を大きく下回り、危機感を抱いた。採用の目玉となる一つの案として、制度の導入を進めた。本社移転や企業努力の影響もあるが、16年の採用応募者数180人から、17年は389人、18年は512人と倍増した。
一方で、同制度を利用しない社員を対象にしたアンケートでは、「若い社員へ福利厚生を拡充することは印象は良い」との声もあるが、16年以前の入社社員や奨学金を利用しない社員との不公平感も考慮しなければならない。「意識を持った優秀な人材の採用が本来の目的」(細根リーダー)であり、制度の有無にかかわらず、社員が安心して働き続けられる環境整備を模索している。
眼鏡の製造・販売を手がけるオンデーズ(東京都品川区、田中修治社長、03・5715・3233)は、14年に返済金を毎月の給与に上乗せする「奨学金返還救済制度」を導入した。奨学金返済などに不安があり、給与面を考慮して小売業から給与の高い他職種に優秀な人材が流れてしまう現状を危惧し、制度を始めた。
これまで毎年10人弱の応募があり、そのうち独自の社内試験に合格するのは1、2人。試験は平均レベルの大学入試の過去問題から選び、いかに勉学に励んだかを見るもの。自己PRのプレゼンテーションも実施する。
ただ、応募数自体はまだ少ないという。人事部の小野内晏奈さんは、「採用試験とは別に試験があると身構えてしまう学生が多い。実際の採用選考に影響するわけではないので、ぜひ救済制度にも同時に応募してほしい」と話す。同社はほかにも管理職の立候補制度など、独自の制度をそろえて学生へのアピールにつなげている。
9割弱が返済必要な貸与型
大学の学生向け奨学金は、家計基準などの制限が近年、緩やかになった。その結果、学部生の3人弱に1人が利用する状況であり、今の学生にとって奨学金は身近な存在になっている。ただ、返済義務のない給付型は一部に限られ、利用者全体の9割弱は返済が必要な貸与型だ。
奨学金制度の利用者数186万人(2016年度)の内訳を支援組織別に見ると、政府の日本学生支援機構の利用が7割を占める。企業の財団など公共団体、学校が各1割。営利法人から直接というケースはほぼない。
日本学生支援機構の仕組みでは、返済は学部卒業6カ月後から始まり、月額一定額を15年程度の期間で返すのが一般的だ。17年度からは所得連動型も始まり、収入が少ない時期は返還額の減額や返還猶予で支援する。残念ながら近年は連帯保証人に返還を求めるケースも増えている。同機構では、学生が保証料を支払って利用する機関保証を推奨している。
また、学生の地方就職を奨学金支援によって促す仕組みが10年ほど前から始まっている。自治体から総務省の特別交付税を、地元産業界から寄付をそれぞれ集め、県の「人口減少対策・就職支援基金」を創設。Uターン就職の学生に対し、奨学金返還の一部など、基金で肩代わりする仕組みだ。30県以上で整備されているが、利用上限の各県年100人までまだ余裕があるのが現状だ。
大和証券グループ 返済資金を無利子貸付
大和証券グループ本社は、社員が学生時代に借りた奨学金の返済を支援する「奨学金返済サポート制度」を8月に導入した。奨学金返済における経済的、心理的な負担を軽くし、社員が安心して働ける環境を整える。あわせて優秀な人材の獲得にも結びつける。
制度は奨学金の返済義務がある社員を対象に、返済資金を無利子で貸し付けすることで、社員の金利負担を軽減させる。返済の開始は、入社6年目からとなる。中田誠司社長は、制度を通じて若手社員の負担を和らげることで、「集中して業務に取り組んでもらいたい」と期待を寄せる。
**イズミ 夏季賞与10万円加算、来春導入
イズミは、19年春に入社する新入社員を対象に、奨学金返済を支援する制度を導入する。卒業後の奨学金返済は新入社員にとって負担が大きい。この負担を軽減し、優秀な人材を長期雇用するため導入を決めた。
制度では、勤務3年目、5年目、7年目の計3回、夏期賞与に10万円ずつ加算して支給する。5月に同制度の導入を公表して以降、「面接時やアンケート実施時に質問をしてくる学生が多い。学生からの評価は高い」(イズミ広報)と反響を実感する。
19年入社とほぼ年齢が変わらない17年や18年に入社した社員からも導入要請があり、今後検討する計画だ。
クロスキャット 冬ボーナスで120万円、返還不要
クロスキャットは17年度に、新卒社員の奨学金返済を支援する制度を始めた。奨学金利用者には冬のボーナスとして一律120万円を支給する。17年度は33人が入社し、16人が利用。18年度は33人のうち20人が利用する予定だ。
特徴は入社1年目の冬の一時金として支払い、例え退職しても返還を求めない点だ。管理統括部人事部の細根宇紘リーダーは、「まとまった金額を支給することで経済的・心理的負担を軽くしてもらう」と説明する。
16年度、同社では採用応募数が目標を大きく下回り、危機感を抱いた。採用の目玉となる一つの案として、制度の導入を進めた。本社移転や企業努力の影響もあるが、16年の採用応募者数180人から、17年は389人、18年は512人と倍増した。
一方で、同制度を利用しない社員を対象にしたアンケートでは、「若い社員へ福利厚生を拡充することは印象は良い」との声もあるが、16年以前の入社社員や奨学金を利用しない社員との不公平感も考慮しなければならない。「意識を持った優秀な人材の採用が本来の目的」(細根リーダー)であり、制度の有無にかかわらず、社員が安心して働き続けられる環境整備を模索している。
オンデーズ 独自試験合格者に上乗せ
眼鏡の製造・販売を手がけるオンデーズ(東京都品川区、田中修治社長、03・5715・3233)は、14年に返済金を毎月の給与に上乗せする「奨学金返還救済制度」を導入した。奨学金返済などに不安があり、給与面を考慮して小売業から給与の高い他職種に優秀な人材が流れてしまう現状を危惧し、制度を始めた。
これまで毎年10人弱の応募があり、そのうち独自の社内試験に合格するのは1、2人。試験は平均レベルの大学入試の過去問題から選び、いかに勉学に励んだかを見るもの。自己PRのプレゼンテーションも実施する。
ただ、応募数自体はまだ少ないという。人事部の小野内晏奈さんは、「採用試験とは別に試験があると身構えてしまう学生が多い。実際の採用選考に影響するわけではないので、ぜひ救済制度にも同時に応募してほしい」と話す。同社はほかにも管理職の立候補制度など、独自の制度をそろえて学生へのアピールにつなげている。
日刊工業新聞2018年11月26日