「冷徹かつ迅速な判断で」低成長事業を切り離すパナソニック。持ち株会社化の行き着く先は?

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質問に答える津賀社長(左)、楠見次期社長(右)(17日=東京都内)

「素直な心で衆知を集め、未知なる未来へ挑戦する」。パナソニックの津賀一宏社長が、経営者の心構えとしてきた言葉だ。最大の当期赤字を計上した2012年から約8年。22年4月に持ち株会社(HD)化するという大きな指針を示した。各事業の経営責任を明確化し、専門性を高めて競争力を磨く。新型コロナウイルスという大きな逆風下で、巨艦を成長軌道に乗せられるか。(大阪・園尾雅之、同・錦織承平)

構造改革の集大成 白物・空調・設備集約

「事業の競争力強化には『専鋭化』が不可欠。大胆な権限委譲を行い、自主責任経営を徹底することで、これを加速していく」。17日、都内で会見した津賀社長は、自身が進めてきた構造改革の集大成として掲げたHD化の意義について、熱弁を振るった。事業領域を絞り込み、専門性を高めることで、他社がまねできない競争力を作る。こうした取り組みを「専鋭化」という独自のキーワードで説明した。

現在七つあるカンパニー制を再編し「パナソニックホールディングス」の傘下に各事業会社を設置する。特に白物家電、空調、電気設備などの事業は、1社に集約して「パナソニック」の社名を引き継ぐ。これに、業務用システムの「現場プロセス」、電子部品の「デバイス」、電池製品の「エナジー」を合わせ、計4社を新たな基幹事業会社に定めた。

一方、新体制の組織図では、車載機器の「オートモーティブ」、テレビなどAV機器の「スマートライフネットワーク」、水廻りや建材などを含む「ハウジング」といった事業を、基幹事業より一段下に置いた。かねて成長の柱と目されてきた車載事業は成長軌道に乗り始めた米テスラ向けなどの電池事業を分離。家電事業は赤字続きのテレビなどAV機器を切り出す一方、コロナ禍で存在感が高まった空調・空質事業と旧松下電工の電気設備事業を融合する。

ガバナンス 信賞必罰徹底

基幹事業とそれ以外の事業の区別は今まで以上に明確だ。津賀社長は各社に「専鋭化」と自主責任経営を求める。各事業の環境に適した人事制度などを導入し、事業責任者には「信賞必罰のガバナンスを徹底する」とし、経営責任を強く求める方針を示した。

「パナソニック」の社名を引き継ぐ中核事業会社には、中国・北東アジアを担当する社内カンパニーも取り込む。津賀社長はここ数年、急成長する中国市場での事業展開に熱を入れていた。日本国内では旧松下電工との組織風土の違いから融合が進みにくい家電と住宅設備を一体提案できる巨大市場として、期待を寄せていた。

米テスラ向けの車載電池などは基幹事業に位置付けられた

地域軸と事業軸 連携カギ

コロナ禍の回復が早かった中国は中核事業内に残し、地域軸と事業軸の使い分けを今後、検討していく。

津賀社長が用意した新たな舞台で、何を描くか。そのバトンは次期社長の楠見雄規常務執行役員に引き継がれる。楠見氏はプラズマテレビや欧州白物の撤退、角形車載電池でトヨタ自動車と共同会社設立など、低収益事業の方向付けに辣腕(らつわん)を振るってきた。

各事業の責任を明確化する新体制について、「生意気な言い方になるが、我が意を得たり」とその必要性を認める。成長が見込めない事業に対しては、「冷徹かつ迅速な判断でポートフォリオから外していく」と切り込んだ。「頭は切れるが、遠慮がない」と評される楠見氏の性格が早くも垣間見えた。

津賀社長は就任以来、事業部制の復活やカンパニー制の導入など、組織改革を続けてきた。HD化の話自体もこれまで何度も俎上(そじょう)に上っていたが、既存体制で解決を図ってきた。今回、導入に踏み切った理由について津賀社長は「大きな会社は分割しないと深い議論や決定ができない。だが分割が多いと効率が悪くスピードが上がらない。このバランスの実現に向けて、辿り着いた答えだ」と明かす。HD体制で、巨艦を「未知なる未来」へ導くことができるか。

「第1種全熱交換形換気システム」で使われる全熱交換ユニット。中国市場を中心に高性能な換気システムのニーズが高まっている

売上高目標10兆円撤回

組織改革を重ねた結果、HD制に移行して長期的な収益成長を目指すことを決めた津賀社長。在任の約8年半で、転換点となった年がある。15年4月から16年3月までの1年だ。前年の14年3月には売上高10兆円達成の目標を掲げ「過去に何度もはじき返された因縁の10兆円なので何としても達成したい」と意気込んだ。創業100周年の節目でもある19年3月期に達成すれば、津賀社長の当初任期の最終年に有終の美を飾れるはずだった。

続く15年3月には目標達成のため、1兆円の投資枠を発表。前後して国内外の車載電池工場への投資を決め、スペイン車載機器メーカーのフィコサインターナショナル、米冷凍冷蔵設備のハスマンなどの買収も進めた。

だが、16年3月期の決算発表を前に10兆円の目標は撤回する。中国の景気後退、情報通信デバイス市場の縮小といった環境変化もあり、期初に掲げた売上高目標8兆円を約4500億円も下回ることが分かったためだ。

津賀社長は「10兆円の目標はすべての従業員で成長を考えようというメッセージだったが、実績として表れるには時間を要する」と説明。同年の株主総会でも「舌の根も乾かぬうちに(目標を)変えた」と反省の弁を述べた。

営業・当期益を重要視

19年3月期までの3年間の中期計画は「利益成長重視」とし、営業・当期利益のみの目標を設定。長期的な収益成長を果たす方針に転換した。

とはいえ、大きな目標を早期に撤回したことは従来のパナソニックにない津賀改革の柔軟さを示した。津賀社長は13日の社長交代会見で「もっと収益を伴う成長をやりたかったが、簡単でないと学んだ。しっかり仕込みながら足元を固めることも必要だ」と述べた。

楠見次期社長とHD制という新体制に実現を託す。

日刊工業新聞2020年11月18日

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