菅首相の打ち出した新目標、”脱炭素”技術の現在地は

  • 0
  • 1
環境省と経団連が脱炭素に向けた連携で合意した。小泉進次郎環境相(右)と杉森務経団連副会長

菅義偉首相が26日、就任後初となる所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする新目標を打ち出した。気候変動に対する危機感が高まる中、経団連は脱炭素社会の実現に向けた活動「チャレンジ・ゼロ」を始めたほか、各企業もすでに対策に乗り出している。菅首相の表明は経済界のこうした動きを後押ししそうだ。

経済界と環境省が活動けん引

経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は26日、菅首相の表明を受け「わが国の今後のポジションを確立する英断であり高く評価する」とのコメントを出した。

経団連と環境省は9月、脱炭素社会の実現に向け、両者が緊密に連携していく方針を盛り込んだ合意文書を交わした。環境と成長の好循環を目指して定期的に意見交換し、企業のイノベーションや投資の促進などで協力する。経団連の杉森務副会長(ENEOSホールディングス会長)は「脱炭素社会に向けたイノベーションの創出、ESG(環境・社会・企業統治)投資の呼び込みにしっかり取り組んでいく」としている。

これに先立つ6月、経団連は脱炭素社会に向けた活動「チャレンジ・ゼロ」をスタート。賛同企業は、脱炭素社会につながるイノベーションに果敢に挑戦するなどとした「チャレンジ・ゼロ宣言」をし、具体的な取り組みを公表する。9月時点で154の企業・団体が参加。関連技術の開発や普及、金融支援の事例を集めて情報発信している。中西会長は「チャレンジ・ゼロの枠組みを活用し、イノベーションを通じた脱炭素社会の早期実現に一層果敢に挑戦していく」とした。

経済同友会は7月、30年の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を40%にすべきだとする提言をまとめた。石村和彦副代表幹事(AGC取締役)は「高い目標だが政策誘導と民間の継続的な投資があれば達成は十分可能だ」としている。経済界の脱炭素社会への活動をリードする。

自動車 車の低炭素化を期待

18年度に日本全体の二酸化炭素(CO2)排出量の18・5%を占めた運輸部門。うち86・2%を占めた自動車の低炭素化への期待は大きく、各社も取り組みを積極化する。

ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)など電動車では、トヨタ自動車が25年までに年550万台、日産自動車が23年度までに年100万台以上の販売を目指す。ホンダは30年に世界販売の3分の2を電動車にする目標を掲げ、2日には50年に企業活動で排出するCO2を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現する目標も示した。

日産自動車が21年に投入予定の新型EV「アリア」

足元では先行するHVに続き各社からEVの新型車投入が予定され消費者の選択肢を広げる。100年に1度の変革期とともに地球温暖化など複雑に絡み合う課題に対応する。

航空・海運 排出削減へブレークスルー

国内におけるCO2排出量の1%弱を、それぞれ航空と海運が占める。両業界はともに技術革新を伴う積極的な施策で排出量削減に向けて歩みを加速している。

航空は国際航空運送協会(IATA)が50年までの半減を目標に掲げる。省エネルギー型機材への更新や、バイオジェット燃料の採用拡大が核だ。

航空移動は一部の活動家から“飛び恥”ともやゆされた。日本航空(JAL)は6月の株主総会で、赤坂祐二社長が「実質ゼロを目指す」と公約。取り組む姿勢を明確に示した。

海運は国際海事機関(IMO)が50年までの半減、今世紀中のゼロを目標とする。減速航海の拡大による省エネ化や船型最適化、液化天然ガス(LNG)のような代替燃料への転換を進め、将来の燃料電池を動力とする電動船実現につなげる。技術のブレークスルーは不可欠だ。商船三井は、水素とCO2からメタンを合成する「メタネーション技術」で、船舶燃料のCO2排出ゼロを達成する構想も抱く。

建設 建物消費エネ―収支ゼロ

ゼネコン各社は建物で消費する1次エネルギーの収支ゼロを目指した「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の普及促進などで、温室効果ガス削減に取り組む。

大成建設のZEB実証棟

鹿島は30年に新建築物で運用段階のCO2を国の省エネ基準値に比べて30%超の削減を目指す。竹中工務店はZEB拡大で、同社設計建物の運用時のCO2排出量を18年比で30年に40%減、50年に100%減の長期目標を設定している。

大成建設は14年に「ZEB実証棟」(横浜市戸塚区)の運用を開始。都市型オフィス向けにZEB普及を推進する。

清水建設は3月、オフィスビルの使用電力を100%自給自足するオフグリッド運用を国内で初めて実施、ZEBの提案に弾みを付ける。大林組もZEBの技術開発・実用化のほか、建設現場の省エネ化、ゼロエミッションに取り組む。

電力 化石燃料に抜本対策

化石燃料を使用した火力発電は日本のCO2総排出量の約4割を占めており、抜本的な対策が求められる。こうした中で、国内26カ所の火力発電所を持ち、発電電力が国内の3分の1を占めるJERAは、50年時点で国内外事業のCO2排出を実質ゼロにするビジョンを打ち出した。火力発電のアンモニア混焼や水素混焼により達成する道筋を描く。

アンモニアや水素の混焼をめぐっては電力各社も研究開発を進めている。洋上風力など再生エネの主力電源化と合わせ、火力発電のゼロエミッション化の取り組みが加速しそうだ。

ただ、アンモニアは製造コスト、水素は運搬技術などに課題があり、技術開発の進展が前提となる。

アンモニア混焼の実証が進む(IHI)

鉄鋼 鉄鋼3社で国家プロ

日本製鉄など鉄鋼3社は、製鉄所からのCO2の排出量削減に向けた国家プロジェクト「COURSE50」を推進している。鉄鉱石の水素還元などにより、CO2排出量を約30%削減する技術を開発する。30年頃の実機化を目指す。一方、JFEホールディングス(HD)は鉄鋼事業でのCO2排出量を、30年度に13年度比20%以上減らす目標を設定した。生産量変動などを踏まえない総量削減として注目される。

神戸製鋼所は、グループの生産工程での30年度の目標を、追加策を講じない場合の量(BAU)として13年度比110万トン削減とした。日鉄は30年の目標と50年のビジョンを年度内に策定する。

「COURSE50」の試験高炉の計器室を視察する梶山弘志経済産業相(手前、10月1日=代表撮影)

日刊工業新聞2020年10月27日

関連する記事はこちら

特集