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国が旗振り役となる洋上風力発電、日本が世界に追いつくために必要なこと

国が旗振り役となる洋上風力発電、日本が世界に追いつくために必要なこと

浜館公園(秋田県由利本荘市)から臨む沖合(秋田由利本荘洋上風力提供=風車はイメージ)

洋上風力発電が事業化に向けて動きだした。2021年半ばにも長崎県五島市沖で実施する事業者が選ばれ建設に着手する見通しだ。秋田、千葉県沖の4区域でも早ければ21年内に事業者が決まる。これに先立ち、経済産業省と国土交通省は洋上風力の産業力強化に向けた官民協議会を立ち上げ協議を始めた。年内にも産業ビジョンを公表する見込みだ。再生可能エネルギーを主力電源化するための切り札として、洋上風力が位置付けられている。(編集委員・川口哲郎)

再生エネ、主力電源化 脱炭素は世界的な流れ

「わが国でも再生エネを産業と捉えて、その競争力を強化していく必要がある」。7月17日、梶山弘志経産相は閣議後会見でこう力説した。非効率石炭火力のフェードアウトを表明した2週間後だ。脱炭素化の世界的な機運を受け石炭火力を縮小すると同時に再生エネを主力電源化するパッケージの政策だ。

日本での再生エネは固定価格買取制度(FIT)の12年開始により太陽光発電が先行して導入拡大した。陸上の風力発電は山がちの地形のために立地が限られ、普及ペースが鈍かった。

欧州に目を転じると再生エネの主力は風力だ。電源構成別で石炭火力を抜いて第2位にある。特に洋上風力は英国が累積発電容量995万キロワット、ドイツが同745万キロワットに達する。四方を海に囲まれる日本はわずか同2・1万キロワットだ。

洋上風力が後れを取る大きな理由の一つは、海域利用に関する統一的なルールがなかったことだ。発電事業を行うには30年間といった長期間の占用が必要だが、都道府県の許可は通常3―5年と短期のみ。海運や漁業など先行利用者との調整の枠組みもなかった。

このため「再エネ海域利用法」が19年4月に施行された。国が洋上風力を実施できる「促進区域」を指定し、公募により事業者を選定して30年間の長期占用を可能にした。関係者による協議会も設置して地元との調整も円滑化した。

市場拡大 国が旗振り役

法整備が進む中、政府は洋上風力の投資拡大とコスト削減の好循環を生むべく議論を重ねている。論点の一つが、洋上風力発電の導入目標だ。市場拡大の見通しがないと投資に踏み切れないという民間の声を受け、国が旗振り役を担う。

海外は野心的な目標を掲げており、30年までに英国は最大3000万キロワット、米国は2200万キロワット、韓国は1200万キロワットを設定。日本のポテンシャルは大きく、日本風力発電協会(JWPA)によると年平均風速毎秒7メートル以上、水深10―50メートルの条件で1億2800万キロワット。このうち「3分の1は実現できる試算」(JWPA)という。

従来、電力系統の運用では再生エネの接続が制限される課題があり、送電線利用ルールの見直しも議論される。発電コストの低減も大きな課題だ。先行する欧州は1キロワット時当たり10円を切っているが、日本のFIT価格は同36円。JWPAの見立てでは投資の進展や研究開発の活性化、スケールメリットなどによって同8―9円は目指せる水準という。

商社・建設 参入へタッグ

産業拡大には物理的なインフラ整備も求められる。一つが拠点港だ。風車部材の組み立て、積み出しを効率的に実施するための岸壁、風車部材を仮置きするヤードなどを備えた専用港を計画的に作る必要がある。

また風力関連産業の誘致も重要だ。風力タービンは現在、スペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー、デンマークのMHIヴェスタス、中国のエンビジョンなどが独占。国内市場が形成されなかったため日立製作所などが風車生産から撤退。洋上風力製品を海外に頼らざるを得ず、調達の時間や距離、コストの課題がある。

洋上風力発電設備は部品数が1万―2万点と多く、事業規模は数千億円に至るとの試算もあり、関連産業への波及効果が大きい。発電機、増速機、軸受などのパーツ類はもともと産業の基盤が国内にあり、サプライチェーン(供給網)を築くことは十分に可能だ。

海域利用法施行後、全国14区域が候補地に選ばれている。長崎県五島市沖は19年12月に促進区域に指定され6月から事業者の公募を始めた。12月に公募を締め切り5カ月程度の評価を経て事業者が決まる。秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(南北2区域)、千葉県銚子市沖も7月に促進区域に指定され、年内にも公募が始まる見通しだ。公募で決まるのは1事業者のみ。既存の風力発電事業者だけでなく大手電力会社、商社、建設会社などがタッグを組み、チームとして事業参入を狙っている。

インタビュー/レノバ副社長・須山勇氏 事業地域の振興に貢献

レノバ、コスモエコパワー(東京都品川区)、東北電力、JR東日本エネルギー開発(東京都港区)が出資する「秋田由利本荘洋上風力」(秋田県由利本荘市)は、促進区域に選ばれた秋田県由利本荘市沖のプロジェクトに名乗りを上げる。現地に常駐し合同会社代表として陣頭指揮を執る須山勇レノバ副社長に、選定に向けた取り組みを聞いた。

須山勇レノバ副社長
―地域との関係づくりをどのように進めてきましたか。

「5年前から市役所や県庁、漁業、建設業、飲食業、観光業や関心の高い住民などと、非公式も含め100回を超える会合を重ねている。この地域で活動しているのは我々だと理解を得ている。意識としては外から来るのではなく『地元になる』。30年を超える事業になるので責任を持って地域振興に貢献したい」

―事業の実施能力について強みや課題は。

「どこよりも確実に早く作りあげるための細かい検討が進んでいる。選定されれば即座に動きだせる体制だ。東北電力、コスモエコパワー、JR東日本エネとそれぞれ役割分担できている。一つのパッケージとしてまとめ上げていくことが、これから必要となる」

―価格対応が選定の大きな要素です。

「大事なのは単に安くではなく、海域での気象条件などにも合わせ安全性、安定性を担保しながらコストを具体的に削ること。社内に数十人単位の洋上風力エンジニアリング部隊を持ち、さらに拡大する準備をしている」

―調達は海外に頼らざるを得ませんか。

「風車は海外の大手メーカーが優位だが、部品、材料、保守は国内企業が担うだろう。全国合わせて何兆円という市場が立ち上がれば国内のインフラも整う。海外からも投資が増え、知見も得られる。そのためには市場が見えなければならず、国全体で目標を立てることで進むだろう。個人的には野心的な目標にして良いと思う」

日刊工業新聞2020年9月9日

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