JR東・西が狙う「運賃大改革」、値上げなしで顧客サービスを維持できる?

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新型コロナ感染拡大による社会の行動変容は一過性のものではない(JR品川駅前)

多様な働き方に対応 交通系IC・定期券に時差料金

新型コロナウイルス感染拡大による社会の行動変容は一過性のものではない。東西の大都市圏輸送を担うJR東日本とJR西日本は“アフターコロナ”を見据え、持続可能な都市鉄道を再構築する取り組みを始めた。その核が、国鉄時代から当たり前のように引き継いできたダイヤと運賃制度の見直しだ。人口減少や働き方・ライフスタイルの多様化に対応し、将来にわたって自立的なビジネスモデルを目指す“変革”が迫られる。(小林広幸)

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コロナ前の85%―。JR東の幹部が損益分岐点の目安として示す運輸収入水準だ。2021年3月には定期は85%に達すると予想するも、関東圏・在来線の定期外は80%の想定。深沢祐二社長は「100%には戻らない」と断じる。21年度以降も関東圏の定期・定期外利用は85%で定常状態と推定し、収益を上げるにはコストダウンが欠かせない。

朝ラッシュ時を過ぎると車庫に入る車両も多いJR東日本の山手線

長期的に有望なのが利用の平準化だ。従来は混雑緩和のため、ピーク時に合わせて車両を確保し、駅スタッフや乗務員を手当てしていた。山手線は専用車両を50編成運用しているが、朝ラッシュ時を過ぎると車庫に入る車両も多い。ピークを下げられれば、各所で投入資源を最適化でき、規模縮小に伴うコストダウンが見込める。

すでに「密」回避を目的とした時差出勤が広がり、現状は従来ほどの混雑集中ではなくなった。これを定着させ、分散を促す手法として検討するのが時間差運賃制(ピークロードプライシング)だ。

深沢社長は「運賃・料金でオフピーク利用にメリットが出る仕組みの構築に取り組む」と説明する。まずは来春、交通系IC「Suica(スイカ)定期券」のオフピーク利用に、自社のポイントプログラム「JREポイント」を付与する。

JR東日本はSuicaでオフピーク利用を促進

また「さまざまな働き方が定着する中、よりきめ細かで、柔軟なサービスを提供する」(深沢社長)とし、テレワークで月の通勤回数が減った利用者を念頭に、来春からスイカで同じ区間を繰り返し乗車する場合に、回数券相当のポイントで還元する方針だ。

さらにその先には、従来型定期券の価格を引き上げ、ピーク時間外の利用にリーズナブルな「オフピーク定期券」の導入も視野に入れる。JR東は今夏、本社内に運賃制度変革プロジェクトを立ち上げ、実現に向けて検討を本格化させた。

JR西も21年3月時点の利用水準を、定期がコロナ前の80―90%で近畿圏・在来線が同70%程度と想定。通勤定期は90%に回復するともみるが、この水準では「持続的にサービスを提供することが困難になる」(長谷川一明社長)とし、コスト構造改革は必至。利用平準化を進めるための時間差運賃制にも前向きな考えを示す。

JR西日本も構造改革は必至(吹田総合車両所森ノ宮支所=大阪市)

JR本州3社は発足以来、消費税転嫁を除き運賃引き上げを実施せず、自助努力で公共交通を担ってきた。ただ、人件費の上昇やバリアフリー設備の拡充など社会的要請に伴う費用増、激甚化する自然災害の復旧などで、従来のサービスレベルを維持することは厳しくなりつつある。それでもJR東幹部は「値上げには、社会の強い抵抗がある」と話す。

鉄道の運賃は、原価計算期間を3年間とする総括原価方式で妥当性が審査され、上限運賃を国土交通大臣が認可する仕組みだ。運賃引き上げも簡単に受け入れる状況にはない。

深沢社長は「値上げを念頭には置いていない」と話す。運賃を引き上げると認可上限を超えてしまうが、引き下げを同規模を見込んで行うことで収入ベースの相殺を狙う。あくまで収入増ではなく、コスト削減効果を狙う改定に理解を求める考え。長谷川JR西社長も「新しいルールを作っていくことが必要。国交省に問題提起したい」と意欲を見せる。

安心・安全のため新型コロナ対策を徹底(JR西日本)

早期に実現を目指したいところだが、制度設計では課題も多い。オフピーク利用の判定を、入場と出場のどちらにするかや、利用区間・方向、連絡定期など。単純に時間で区切る「昼間回数券」とはイメージが異なる。

私鉄との競合関係にも影響する。JR西は主要路線が並走し、戦略的な運賃で火花を散らしてきた。長谷川社長は「競争力を失い、私鉄に転移があるかもしれない」とも話す。すでに昼間利用にポイントを付与する仕組みも運用済みで、首都圏とは環境が違う。

またオフピーク利用を訴求する先も、個人ではなく、多様な働き方を導入する主体は、あくまで企業だ。通勤手当や定期券を支給する雇用主に、経費節減などのメリットを提案していかないと、普及が見込めない。鉄道会社が社会を巻き込んで時差出勤のムーブメントを作れるかが、成否のカギを握りそうだ。

終電繰り上げ 保守間合い確保

JR東は21日、21年春のダイヤ改正時に実施するダイヤ見直しの概要を発表した。1時前の運転終了、終電から初電まで“保守間合い”4時間の確保を目指した。終電繰り上げは17線区で実施し、山手線では最大20分前倒す。初電も5線区で繰り下げる。一部線区では終電前に列車を増発し、差し引きの削減規模は運行区間短縮を含めて68本。影響は全利用者の1%に満たないという。

JR西はすでに9月、深夜帯ダイヤ見直しの詳細を公表している。大阪駅発の終電では、京都行き新快速が25分前倒しの0時発に、姫路行き新快速が20分前倒しの23時40分になる。削減規模は12線区48本。東京発新大阪着の最終新幹線からの乗り継ぎは、姫路まで到達できたのが、西明石までに短くなる。

安全で安定的な運行を支える保守現場では人手不足や高齢化によって、その持続性が揺らいでいる。労働環境の改善とともに、大型機械の導入で生産性向上を図るには、保守間合いの十分な確保が課題だった。集中工事で工期短縮も可能だ。

JR西はコロナ前に検討を表明し、21年春のダイヤ改正での実施に向けて準備を進めてきた。JR東は深夜時間帯の利用があることを理由に見送っていたが、コロナ禍で深夜の利用が4割減と減ったことが後押しして、来春の実現に至った。

来春から17線区で終電繰り上げ(JR東日本の自動改札機)

日刊工業新聞2020年10月22日

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