5日で九州一周の特急「36ぷらす3」発進!観光需要創出なるか
JR九州は16日、周遊型の新たな観光特急「36ぷらす3」の運行を始める。沿線の食や車窓、停車駅でのもてなしを楽しみながら、毎週5日かけて九州を巡る。新型コロナウイルス感染症による社会環境の変化や少子高齢化の進展で、移動需要の減少は不可逆的。JR九州は早くから、乗ることが目的となる列車を作り、沿線活性化につなげてきた。アフターコロナを見据えると、観光は地方の鉄道、公共交通の維持に重要な役割を担うことになる。(小林広幸)
幹線走行
特急36ぷらす3はJR九州が手がけてきた従来の観光列車「D&S(デザイン&ストーリー)列車」とは一線を画す。新幹線・特急停車駅から観光地へのアプローチではなく、幹線を走行する“九州一周”。車両は一つでも、食事や地元のもてなしなどコンテンツ開発は5コース分だ。
全車がグリーン車で座席と個室の計105席。イベント用車両やビュッフェも設けた。水戸岡鋭治氏がデザインした車内は伝統工芸の大川組子を採用し、一部を畳敷きとするなど和が基調。漆黒の車体には金色の装飾で豪華さが演出された。
その誕生は相当難産だった。JR九州は以前から“九州一周特急”を構想していたが、いざ実現に動いても、コンセプトが固まらない。水戸岡氏は「次は3世代が一緒に旅をできる列車を作りたい」との思いを抱いていたが、青柳俊彦社長は「(訪日客やファミリーなど)万人が楽しめる列車にしたい」と注文した。
販売方法も課題だった。食事付き席の設定や旅行会社への訴求に苦心した。時刻表に載る定期特急として、駅の窓口で買えることも外せなかった。各地に魅力ある観光列車が登場する中、鉄道事業本部営業課の堀篤史担当課長は「パイオニアとして負けられない。D&S列車を次のステージに」との思いで、取り組んできたと話す。
高速道路網の整備で鉄道離れが進んだJR九州は、列車を使った観光需要の創出に活路を見いだした。堀課長は「D&S列車単品でなく(出発駅までの新幹線・特急を売る)“足づけ”で収益に貢献している」と説明する。地域の魅力を発見、発信する列車の運行は最大の地域貢献策でもある。青柳社長は「(完成した列車を)どう活用してもらえるかは地域次第だ」とも話す。
復興のシンボル
自然災害の多い九州では、観光列車は被災地復興のシンボルになる。8月、熊本地震から4年ぶりに全線開通した豊肥線では、D&S列車「あそぼーい!」が、ほぼ満席で運行。週末の阿蘇ににぎわいをもたらしている。
一方、7月の九州豪雨により肥薩線・八代―吉松間は甚大な被害を受け、再開が見通せない。同線区はSLの運行などで需要の創出が努められてきた。深刻な赤字で、費用対効果だけで見ると復旧は厳しいが、観光には重要なルートでもある。
コロナ禍を経た移動需要の変化に対応するため、鉄道各社は一層の需要創出が必要になりそうだ。観光列車はその有力な候補の一つとも言える。新機軸を打ち出したJR九州の挑戦が鉄道ネットワークの将来を切り開く。