南国フルーツの安全を守る「蒸熱処理装置」、鹿児島に世界トップシェア企業あり
日本の食卓を彩る果物の種類は近年、格段に広がった。例えば、マンゴーやパパイヤといった南国産のフルーツ。生産国から輸出される際の植物検疫に欠かせない特殊な装置を通じて、従業員70人足らずの中小企業が食の安心・安全を下支えする。三州産業(鹿児島市)は「蒸熱処理装置」で世界トップシェアを誇る。
葉たばこ生産で培われた熱管理技術
蒸熱処理装置とは、南方系フルーツに寄生するミバエ類の卵や幼虫を、殺虫剤を使わずに、蒸気と熱の力で殺虫する装置。日本や韓国、中国、オーストラリア、ニュージーランド、欧州連合(EU)など輸入検疫が必要な国に青果を輸出する際に必要となる。もともとは米国で開発された処理技術だが、普及しないまま、長らく薬剤による処理が検疫の主流だった。だがその残留による発がん性が問題視されるようになるなか、1980年代にピーマンの殺虫処理に蒸熱処理を用いることを検討していた沖縄県から開発企業として白羽の矢が立ったのが同社だった。
「蒸熱処理には害虫を確実に殺虫する効果が求められる一方、果物の鮮度には影響を与えてはなりません。そのためには庫内の温度を0.1度単位でコントロールする必要があります。葉タバコの乾燥機を手がけていた当社にはこうした熱管理に関する基本技術の蓄積がありました」。
高﨑征忠社長がこう語るように、鹿児島からグローバルニッチトップ企業が誕生した背景には地理的・歴史的背景がある。鹿児島県をはじめとする九州地方は葉タバコの産地。同社は終戦直後に「葉たばこ生産資材供給組合」として生産者が資金を出し合う形で設立されたからである。
ニーズを反映した開発姿勢
初号機の開発から40年あまり。東南アジア産果物の日本向けの輸出量の増大に伴って、フィリピン、タイ、台湾、中国、さらにはベトナムやパキスタン、カンボジアなど10の国や地域で導入され検疫の現場を支えてきた。
導入側のニーズを反映した装置開発も普及の弾みとなった。市場での輸出量が少ない初期段階は装置導入に二の足を踏む国が少なくなかったことから、まずは少量の青果物に対応するため部分的に運用し、その後、処理量の拡大に対応できるようユニットを増設できる仕様とした。イニシャルコストだけでなく、ランニングコストも抑えられるきめ細かな開発姿勢が、販売拡大につながっていった。
商用化に至るには長期間を要する特殊な商形態も、競合メーカーがほとんど存在せず、高い市場占有率の背景にある。まず相手国の検疫局に試験装置を納入し、効果検証を重ね、正式な輸入解禁に至るには最低でも2年から3年を要し、商用機の本格輸出が始まるのはさらに数年後。安定軌道に乗るには息の長い装置ビジネスだからだ。
世界に広がる導入機運
そしていま。同社のビジネスは新たな局面を迎えている。これまで日本に輸出される果物の検疫用に同社の装置が用いられてきたが、2019年、カンボジアから韓国に輸出されるマンゴーの検疫処理に初採用されたのだ。カンボジア産マンゴーは今年に入り、中国も蒸熱処理を検疫処理の一部として採用したことから、導入機運が急速に高まっているという。
くしくも今年は国連が定める「国際植物防疫年」。世界の食料の大半は植物由来だが、うち、20%から40%が病害虫の被害で失われている。日本でも海外旅行者の増加などによって、植物防疫の重要性がさらに高まるなか、同社は農林水産省が認定するオフィシャルサポーターの1社として、植物防疫の取り組みの重要性について発信する社会的な役割も担っている。