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電子部品・半導体商社、安定成長へ新モデルはEMS?農業?

エレクトロニクス技術商社業界では継続的な成長に向けて、電子部品や半導体などの販売だけに頼らない新たなビジネスモデルを確立する動きが加速している。顧客企業の成長鈍化といった外的要因に左右されない事業構造を築き、収益の安定化を狙う。主力事業を活用したサービス展開や異業種への参入など各社の動きを追った。(取材=編集委員・松沢紗枝)

加賀電子 EMS事業を強化

加賀電子は、EMS(電子機器製造受託サービス)事業を強化している。製造受託だけでなく、企画・開発・設計から、販売やアフターサービスなど一元的に対応できる。製造は、基板実装がメインで多品種小ロットに対応する。生産拠点は基本的には土地や建物は賃貸。内装は標準化し、投資額を抑えている。さらに「生産設備の内製化を進め、コストを下げる」(門良一社長)とする。

海外だけでなく国内にも生産拠点を構えるため、2019年に十和田パイオニア(現加賀EMS十和田)を買収した。傘下の富士通エレクトロニクスや、エクセルにEMS事業の知見を習得させるとともに、両社の販路を使って、海外での同事業の強化も狙う。

また、加賀電子はユーロテックジャパン(和歌山県白浜町)と提携し、米ベル製のヘリコプタービジネスを開始した。ヘリの調達から販売、保守の一貫体制を構築する。ヘリに搭載する通信機器の販売でのシナジーと、安定的な保守料収益を見込む。今後、大規模災害に対する地方自治体の「防災ヘリ」整備の需要の拡大を期待する。これまでに4機を販売し、21年3月期には2機を受注している。

サンワテクノス 調達網の最適化提供

サンワテクノスはエンジニアリング事業と、調達網最適化などを支援するグローバルSCM事業を新たな柱として育成する。両事業を通じて「より効率的で競争力のあるモノづくりを支援する」(田中裕之社長)考え。

エンジ事業は自社が取り扱うFA(工場自動化)機器などの商材を販売するだけでなく、これらを最適に組み合わせて、生産システムとして提供する。

グローバルSCM事業は、自社の物流網を活用した海外での最適な生産や調達を支援する。365日24時間対応の香港物流センターを中心に世界26拠点のネットワークを駆使して調達の集約や購買代行、開発購買の支援サービスを提供する。調達の窓口一本化による発注・納期管理業務の簡素化や通関業務の代行、新規サプライヤーの開拓などを行う。

菱電商事 農業一元的に支援

菱電商事は、13年度からサービス提供を軸にしたビジネスモデルを確立している。人工知能(AI)を使い監視カメラ映像から特定のシーンを抜き出して自動保存するシステムなど六つのサービスを展開している。そのほかスマートアグリとヘルスケアといった異業種事業も展開する。

自社で植物工場を新たに設置。ホウレンソウなどといった軸野菜の生産を実証する(実証中のコンテナ内)

スマートアグリ事業は9月までに、植物工場設置支援などを手がけるファームシップ(東京都中央区)と共同出資会社を設立して展開を加速する。植物工場の設計から施工、さらに生産や販売など農業に関する事業を一元的に支援できる体制を整えている。

農業自体にも参入する。自社で植物工場を新たに設置して、野菜や果物を栽培し、販売まで手がける。長さ20フィートのコンテナを利用して、ホウレンソウなどといった軸野菜やハーブ、ワサビ、果物などの生産の実証を行う。「付加価値の高い作物で勝負する」(正垣信雄社長)としている。

ヘルスケア事業は健康診断施設と連携した特定保健指導サービスを提供している。今後は、画像データを活用した新たなサービスを展開する。

「特色」競争力を左右

エレクトロニクス技術商社はその名のとおり、半導体や電子部品、FA機器などを販売するのが主力事業。加賀電子では2020年3月期連結の全売上高4436億円のうち、電子部品事業は2929億円と66%を占める。これに対して、新たなに伸ばそうとするEMS事業は933億円と21%に留まる。22年3月期までに同事業の売上高を1400億円に伸ばす意向。

主に自動車や通信関連業界で採用される半導体や電子部品の販売は、これらの顧客業界の動向や、貿易摩擦など外部環境の変化で業績を左右される。また電子部品専業商社は数百社以上あるとされ、どう企業としての特色を打ち出すかが競争力を左右する。

こうした課題の解決に向け、エレクトロニクス技術商社は商社機能だけに依存しない、新たなビジネスモデルの確立を急ぐ。


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日刊工業新聞2020年8月11日

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