「GAFA」に危機感抱くNTT社長、“ショック療法”で通信産業の変革狙う

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会見で澤田NTT社長(左)と吉沢NTTドコモ社長は変革の必要性を強調した

携帯料金引き下げ進展

NTTがNTTドコモの完全子会社化に踏み切ることで予想されるのは、携帯通信料金引き下げの進展と、NTTグループの海外展開加速だ。ドコモの主力は国内通信事業だが、一層の値下げでいや応なしに収益源の多様化を迫られる。NTTの決断は内向きなドコモへの“ショック療法”とも解釈できるが、重要なのは実効性だ。国内事業変革にアクセルを踏みつつ、長期の技術戦略・海外展開を進められるか。(斎藤弘和)

澤田NTT社長、GAFAに危機感

「(変化する)市場環境の中でドコモがもう(国内携帯通信業界の)3番手になり、(米IT大手4社の)GAFAのような海外の強い会社が出てきている。この危機感が一番だ」。NTTの澤田純社長は、29日の会見でドコモの完全子会社化を決めた背景をこう説明した。

ドコモは国内携帯通信事業が政府の値下げ圧力にさらされており、2019年6月開始の新料金プランで通信料を最大4割引き下げたため収益性が悪化。スマートフォンをはじめとする端末販売も、19年10月の改正電気通信事業法施行に伴い値引きが制限された影響で低迷にあえぐ。

電子商取引(EC)や金融といった非通信事業の成長は道半ばで、海外展開も限定的だ。この結果、20年3月期連結決算は減収営業減益に終わり、KDDIとソフトバンクの後塵(こうじん)を拝している。

澤田NTT社長は、以前からドコモにもどかしさを感じていた様子がある。ドコモは18年10月、19年度から携帯通信料を2―4割程度下げると発表。ドコモにとっては苦渋の決断だったはずだが、澤田社長は18年11月の会見で「値下げにより競争力が強化され、良いサービスを提供する。競合他社の顧客にドコモへ移ってもらうような作戦を練る」と前向きだった。

「減収分についてはコストダウンやデジタルマーケティング領域の売り上げ増で利益の前倒しを図ってもらいたい」とも述べていたが、これまでに十分な結果が出ているとは言いにくい。ただ完全子会社化でドコモの経営体力が強化されれば、結果として値下げの余地が生まれる。

ドコモと競合する携帯大手の関係者は「ドコモの値下げが加速するだろう。そうなれば政府に貸しも作れる」とみる。今月、携帯通信料金のさらなる引き下げに意欲を燃やす菅義偉氏が首相に就任しており、料金面で早めに譲歩しておくことが長い目で見れば得策になる可能性はある。

KDDIは高橋誠社長が今月、「(政府の)要請を真摯(しんし)に受け止め、対応方針を検討する」と述べた。ソフトバンクもドコモやKDDIの動きに追随せざるを得ないだろう。業界全体が消耗戦に突入する中、ドコモが存在感を高められるか注目される。

5Gオープン化に布石 「O―RAN」拍車

他方、NTTがドコモを完全子会社化するのは、長期的な視点で技術戦略や海外展開を強化する狙いがあることも見逃せない。

NTTはグループで5Gに総力を結集する

ドコモは海外の通信事業者などと連携し、第5世代通信(5G)をはじめとする無線ネットワークのオープン化や高度化を目指す「O―RANアライアンス」を推進してきた。基地局などの通信インフラでは中国・華為技術(ファーウェイ)など海外企業数社の存在感が大きいものの、オープン化で日本勢の商機が拡大すると期待されている。

しかし、ドコモの海外事業は従来、「ほとんど失敗している」(NTT幹部)。過去には米AT&Tワイヤレスや、インドのタタ・グループの案件で苦汁をなめた。O―RANを長期的な成功に導けるかは不安も大きい。

そこでNTTは布石を打ってきた。技術戦略や国際標準化担当の副社長を務めてきた井伊基之氏を20年6月、ドコモの副社長に任命。12月1日付で社長に就く。NTT役職員の間では井伊氏が新規事業のノウハウや国際情勢などに明るいとの評価があり、O―RANをはじめとする海外展開のけん引役として期待されている。

NTTにとってO―RAN普及のカギを握るドコモの完全子会社化は、自社のグローバル化への節目になると言えそうだ。それは日本の情報通信産業の発展にもつながりうる。ドコモの吉沢和弘社長も「変革により次世代ネットワークを早期に実現し、わが国の国際競争力向上に貢献する」と決意を示す。

NTTはこうしたビジョンをドコモの役職員に浸透させ、意欲を一層向上する取り組みも求められる。ドコモはこれまで通信品質の維持向上に腐心し、日本の携帯通信業界を先導してきた。そうした良さを維持しつつ、改善を要する点は迅速に対処していけるのか。かじ取りが問われる。

日刊工業新聞2020年9月30日

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