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総務省を牛耳る菅首相に携帯大手は防戦一方、もはや焦点は料金の引き下げ幅?

総務省を牛耳る菅首相に携帯大手は防戦一方、もはや焦点は料金の引き下げ幅?

携帯通信各社は政策の行方に気をもむ日々が続く

携帯通信大手各社に“厳冬”が迫っている。通信料金引き下げに執念を燃やす菅義偉氏が首相に就いたことで、通信市場の競争環境を見直す機運が高まることは必至だ。総務省は今春から市場動向の分析などを行う有識者会議「競争ルールの検証に関するワーキンググループ(WG)」を開き、9月に報告書案をまとめたが、これは一里塚にすぎない。2021年以降もWGは開催される見通しで、携帯各社は議論の行方を注視する日々が続く。(斎藤弘和)

「わが国の料金は、国際的にみると依然として高位な水準」―。WGの報告書案には、こう記されている。

総務省は6月、世界の主要6都市におけるシェア1位の事業者について、3月時点のスマートフォン利用料金を比較。月間データ使用量が20ギガバイト(ギガは10億)の大口利用者に関しては、東京のNTTドコモが最高値だったとの結果をまとめた。2ギガバイトまたは5ギガバイトの利用者は、米国ニューヨーク市における米ベライゾン・ワイヤレスに次いで東京のドコモが2番目に高額だった。

18年度の調査では2ギガバイトと5ギガバイトも東京がニューヨークを抑えて最も高かった。だがドコモは19年6月に新料金プランを開始し、携帯通信料を最大4割引き下げたことが20年6月の調査結果に反映されている。それでも総務省は日本の料金が国際的に高い水準のままだと総括した。

ただ、この調査は各国の料金を単純に比較した様相が色濃く、通信品質の高さを自負する国内携帯通信大手にとっては素直に受け入れがたい。ドコモの吉沢和弘社長は「料金には付随する価値がある。通信速度やエリアの広さ、アフターフォローといった価値に納得して使って頂くのが本来。他との比較で高い、というだけではない」と訴えた。

その後、総務省は携帯通信業界の主張に配慮した様子がうかがえる。7月末開催のWGでは、調査会社ICT総研(東京都千代田区)の見解を紹介した。これによると、日本のダウンロード通信速度は6カ国の中で2番目に速い。料金が中位レベルなのに対し、通信速度は2位であるため「料金の割に通信品質が高い」という。

WGの報告書案にも今後の方向性として、「通信料金水準については、通信品質などと併せて分析すべきだとの指摘があり、諸外国や民間における手法の研究を進めるべきだ」と明記した。携帯通信大手は今後もサービス品質を堅持できれば、発言力の向上につながりうる。

業界の意見が受け入れられた形跡は、同番号移行制度(MNP)に関する議論の経緯からもみてとれる。

携帯通信会社を変更する際に従来の電話番号をそのまま使えるMNPをめぐっては、WGが手数料のあり方を問題視してきた。MNPが導入された06年当初の利用者負担料金は2000円だったものの、現在は3000円。携帯通信大手3社のMNP手数料収入は推計で年間159億円に上る。手数料が高いと消費者が他社への乗り換えをためらう可能性も考えられ、競争を阻害する要因の一つとみなされてきた。

7月までのWGで総務省は「海外では多くの国がMNPについて利用者負担料金を求めていない」と指摘しており、日本でもそうなる可能性が浮上していた。一方、宮内謙ソフトバンク社長は8月4日の決算会見でMNP手数料の考え方を問われ「総務省から話があり議論中だが、販売店やコールセンターに一定のコストがかかっているので、その機能を使う場合は有料がいい」と述べた。

結局、WGは8月下旬、消費者がウェブサイトでMNP手続きをする場合は無料に、店舗や電話で行う場合は1000円以下にする方針をまとめた。総務省は年内にMNPガイドラインの改正手続きに着手し、21年には新ガイドラインの運用が始まるとみられる。

ここまでの話は、携帯通信業界にとって想定の範囲内だったかもしれない。だが9月、菅氏が自民党総裁選への立候補を決め、携帯通信料の値下げに繰り返し言及した。MNP手数料の見直し程度では全く満足できないと言わんばかりだった。

特に物議を醸したのは、総裁選直前の13日、通信料金が十分に下がらない場合の話として「(携帯通信会社が国に支払う)電波利用料の見直しはやらざるを得ない」と述べたことだ。携帯通信大手の関係者はこの発言を「本当に驚いた」と振り返った上で「それをやると(自社のコストが増えて)携帯通信料は値下げではなく、値上げになる」と指摘した。今後、各社の猛反発が予想される。

菅首相就任で携帯料金への値下げ圧力強化は必至だ

電波利用料の行方は置くとしても、市場競争の促進に向けた新たな論点が出てくる可能性は高い。総務省の担当者は、WGは来年以降も続くと解説した上で「今までよりも競争環境の整備を急がねばならない。個人的には、年明け早々に議論を本格化する必要性を感じる」と話す。携帯通信大手各社は落ち着かない冬を過ごすことになりそうだ。

総務相、1割超の値下げ可能

武田良太総務相は、携帯電話料金の引き下げについて「健全な市場競争が果たされれば1割以上の値下げが可能」との考えを示した。菅義偉首相から料金引き下げの実現に向けた改革を進めるよう指示されたことを受けたものだ。「(引き下げ率の)ゴールは示していない」(武田総務相)と前置きした上で、大手3社の寡占状態にある携帯市場にメスを入れる姿勢を改めて示した。

日刊工業新聞2020年9月21日

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