国産手術支援ロボットは米「ダヴィンチ」の牙城崩せるか?

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メディカロイドの「hinotori サージカルロボットシステム」

川崎重工業とシスメックスの共同出資会社メディカロイド(神戸市中央区)が、国産初の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」を市場投入する。川重の産業用ロボット技術と、検体検査機器をグローバル展開するシスメックスのネットワークを融合。外国製が席巻する医療用ロボット市場にメスを入れる。競争力を発揮し世界に羽ばたく。(大阪・中野恵美子)

海外勢の独占状態に挑戦

「医師免許を持っていた漫画家、手塚治虫氏の『火の鳥』から命名した。命と向き合う医療従事者をサポートしたい」―。シスメックス取締役専務執行役員で、メディカロイドの浅野薫社長はhinotoriに込めた思いをこう打ち明ける。

医療用ロボットへの挑戦―。産業用ロボットでは日本勢が世界シェアの半分以上を占めるが、医療用ロボットでは外国勢が独占状態にある。長年交友関係にあった浅野社長と川重のロボット事業責任者だった橋本康彦社長(メディカロイド会長)が現状を打破したいとの思いで意気投合。2013年8月にメディカロイドを設立。15年の開発着手から約5年を経て、厚生労働省から手術支援ロボットで国産第1号となる製造販売承認を得た。

hinotoriは執刀医がロボットの動きを制御する「サージョンコックピット」、患者に手術を行う「オペレーションユニット」などから成る。最大の特徴は4本のアームが干渉を抑えながらコンパクトに動く点だ。

手術室には執刀医に加え、複数のスタッフが手術をサポートする。アームの関節数を増やすことで、アーム同士やスタッフの動きを干渉しない構造とした。サージョンコックピットは臓器を高精細かつ立体的に映し出す。手術の状況をリアルタイムに遠隔から管理でき、異常発生時の早期対応につなげる。

9月に発売し、21年4月から販売を本格化する。泌尿器科から婦人科などへ適応症を拡大するほか、22―23年には欧米での販売を見据える。また、手術台との連携など製品ポートフォリオやロボットによる自律化機能を拡充。ビッグデータ(大量データ)を活用し、手術の効率化提案や若手医師への医療技術の伝承支援に結びつける。提携するオプティムと人工知能(AI)活用でも連携する。

川重の明石工場(兵庫県明石市)で製造し、数年後には神戸市内で他の製造拠点確保に向けた協議を進める。30年度に1000億円の売上高を見込む。

高い医療技術―患者負担軽減

手術支援ロボットは従来の開腹手術に比べ低侵襲で患者の負担を軽減できるのが特徴だ。同じく低侵襲の腹腔(ふくくう)鏡下手術は、内視鏡映像を見ながら手術器具を操作するため、高い医療技術が必要とされる。その解決策として手術支援ロボットによる外科手術の導入が広がっている。日本能率協会総合研究所(東京都港区)の調査では、24年度の手術支援ロボット市場は、21年度予測比1・4倍の約270億円にのぼると試算されている。

hinotoriを使った模擬手術

手術支援ロボットの先駆けとなった米インテュイティブ・サージカル製「ダヴィンチ」は1999年の発売以降、世界最大のシェアを持つ。同社によると世界で約5000台が稼働し、600万人以上の患者が手術を受けた。国内では12年の保険収載後、泌尿器科領域を中心にダヴィンチが急速に普及。18年には消化器外科、呼吸器外科などにも保険収載が広がった。現在、国内で約300台が稼働していると言われる。

ダヴィンチは多方向へ自由に関節を動かすことができ、手の動きに対して鉗子(かんし)の動きを縮小させるモーションコントロール機能などを備える。だが、国内で使用する医師からは「視覚への依存度が高く触覚がうまく伝わらないほか、長い腕が干渉しやすい」という課題が挙がる。

「ダヴィンチ」と差別化 新興勢力が続々参入

ダヴィンチは12年の保険収載以降、導入が加速(兵庫医科大学病院)

その中、ダヴィンチへの差別化として新興勢力の参入が相次ぐ。米グーグルと米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、手術支援ロボットを開発するベンチャー企業「ヴァーブ・サージカル」を立ち上げた。ロボット活用やデータ解析を柱とする「デジタル手術プラットフォーム(基盤)」の確立を掲げる。国内勢ではリバーフィールド(東京都新宿区)が、小型軽量で低コストな手術支援ロボットを開発し、22年中の発売を目指している。空気圧駆動とすることにより、モーター駆動のダヴィンチに比べて約半額となる1億円以下での導入が可能になるという。

医師の視点で開発 操作の習熟度向上カギ

メディカロイドはロボット技術以外の価値も強みだ。橋本会長は「川重の顧客密着型スタイルを適用し、技術者が医師の視点を理解しながら開発してきた」と振り返る。例えばサージョンコックピットは、医師の体形や姿勢に合わせてのぞき込む機器の位置や角度を調整できる。長時間にわたる手術の疲れを軽減できるよう独自に設計した

医療現場にとって、導入にかかる初期投資や保守コストがネックとなる。浅野社長は「販売スキームに応じ、適正価格で提供する」と語るにとどめ、hinotoriの価格帯の詳細は明らかにしていない。ただ「エンジニアが速やかに細かい対応ができる」(浅野社長)のは国産ならではの利点だ。

会見に川重とシスメックスのトップも参加(11日)

手術支援ロボットは、手術時間の短縮や省力化でメリットを生むが、立ち上げまでに一定時間を要するため、1日にできる手術件数が限られる。

兵庫医科大学病院上部消化管外科の篠原尚主任教授は「普及には医師の習熟度向上がカギとなる」と説明する。開腹手術の教育は充実しているが「ロボットの経験が豊富な指導医は少数だ」とする。

メディカロイドは今秋、神戸大学に「トレーニングセンター」を開設できるよう協議を進めている。同センターでは、メディカロイドが学会の承認を得た上で医師に技能習得の認証を与える。

高齢化の進展で複数の疾患を抱える患者が増加している。術後の予後が良くないケースも多く、低侵襲治療のニーズはより高まる。若手医師への教育機会を整備し医療技術を底上げすることが欠かせない。手術支援ロボットの価値を最大化した上で、医療従事者への情報提供や教育環境の整備といったソフト面の充実が求められる。

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