水道用鋳鉄管でコレラから人々を救いたい!クボタ創業者の精神「コロナ時代」に活きる
1890年に久保田権四郎が鋳物メーカーとして創業したクボタ。国内初の水道用鋳鉄管を製造した権四郎の思いは、水の安全供給で、当時まん延したコレラから人々を救うことだった。そして今、世界は新型コロナウイルス感染症に直面する。今年創業130年を迎えたクボタが使命に掲げるのは「食料・水・環境」への貢献。広く社会に貢献する創業の精神を引き継ぎつつ、社長の北尾裕一はそこに「イノベーション」を加えて、グローバル成長への針路を描く。
大阪・難波のクボタ本社。本社ビル入り口横に1957年に建立された権四郎翁の像が鎮座する。その目線は生誕地である因島(広島県尾道市)の方角とされる。権四郎が見据えていたのは輸入製品が多かった水道用鉄管の量産化。コレラなど感染症を防ぐためだ。権四郎が当時見た景色にオーバーラップする形で、社会貢献への思いを一段と強くするのが、20年1月1日付で社長に就いた北尾だ。
1920年頃には鉄管で国内トップシェアに立った権四郎。挫折しながらも、あきらめずに挑戦した姿勢に「新しい工法で鋳鉄管をつくった。いわば社会課題解決に向けたイノベーションを起こした」と北尾は評する。
創業130年の2020年に起きたコロナ禍。コレラに立ち向かった創業当時となぞらえ、北尾は「因縁といえば因縁なのかも知れない」と、巡り合わせをこう表現する。使命の食料・水・環境への貢献について、「現在のクボタの事業はエッセンシャルビジネス。社会を支える仕事をすることに感謝しなければならない」と強調する。
草創期からの鋳物、鉄管から農業機械のトラクターなどが礎となり、高度成長に伴う社会発展期には水処理施設、小型建設機械と事業の多角化を遂げた。00年代以降は農機の生産拠点開設など海外進出の加速で、19年12月期時点の海外売上高比率は67・4%とグローバルメーカーとしての存在感を高めてきた。
北尾が意識するのは製品にプラスするイノベーションを通じた、トータルソリューションの提供だ。副社長時代の19年、新たな領域で事業創出を目指す新組織「イノベーションセンター」を日欧に設立。初代センター所長として、オープンイノベーションの加速に道筋を付けた。すでに米などで農業関連のスタートアップとの連携も始まり、将来の実りが期待される。その上で「事業全体を通じて命を支えるプラットフォーマーになろう」と社内で号令を掛ける。
新型コロナで当面の身近な目標だった連結売上高2兆円到達は小休止。それでも、その目標はあくまで通過点だ。クボタが手がける機械、水環境での製品・サービスは世界の人々の暮らしを支えるもの。真摯(しんし)に事業に向き合う姿こそ逆境をはね返す原動力になる。
コロナ禍を乗り越えて、次の飛躍を目指すクボタの挑戦を追う。