25年度までに320カ所導入の水素ステーション、肝心のFCVの普及は?
燃料電池車(FCV)に水素を充填する水素ステーションの新設が進んでいる。新型コロナウイルスの影響で一部工事の遅れなどがあったが、2020年度末までに計画の160カ所に近い設置数が見込まれる。25年度までには倍の320カ所を計画。FCバスの導入拡大に伴い、大型車も受け入れ可能なステーションも増え始めた。(編集委員・川口哲郎)
ENEOSは8月25日、JERAの大井火力発電所(東京都品川区)の敷地内にFCバスに対応した水素ステーションを開所した。塩田智夫執行役員水素事業推進部長は「時間当たり600ノルマル立方メートルの充填能力は日本最大級」と説明する。1時間当たりFCV10台、FCバス6台の水素充填が可能だ。
都市ガス改質型の水素製造装置を有したオンサイト方式で、首都圏にあるオフサイト方式の水素ステーションに水素を供給する役割も担う。同社は水素ステーションを全国43カ所に展開。21年開催予定の東京五輪・パラリンピックでは、晴海選手村地区に建設中も含めて7カ所の水素ステーションで大会車両のFCV100台に水素を供給する予定だ。
東京ガスが1月に開所した豊洲水素ステーション(東京都江東区)もオンサイト方式の拠点で、FCバスの運行拡大に伴い利用数を伸ばしている。高稼働時には1日にFCバス30台以上、週に140台以上の水素充填を行う。カーボンニュートラルの都市ガスを使用しているのも特色で、英蘭シェルグループから液化天然ガス(LNG)を調達する際、天然ガスの採掘から燃料に至るまでの工程で発生する二酸化炭素(CO2)をCO2クレジットで相殺している。
豊洲水素ステーションの燃料費は1キログラム当たり1600円と、他の拠点が提供する同1100円程度に比べて高い。FCバス向けの安定供給を重視するためだ。ただ、高価格の設定にしても「利益を取れるレベルではない。採算を合わせるには設備のスペックダウンが必要」(石倉威文水素ソリューショングループグループマネージャー)と明かす。
水素ステーションは水素をタンクの容積内に圧縮して貯める。豊洲水素ステーションでは水素の貯蔵庫に40メガパスカルの蓄圧器17本、82メガパスカルの蓄圧器6本を備える。82メガパスカルで圧縮した水素を充填した蓄圧器は、高圧に耐えるために分厚く丈夫にしなければならない。42メガパスカルの蓄圧器と素材も異なり、価格も1ケタ高くなる。「40メガパスカルの規格ならば圧縮器、蓄圧器、配管などあらゆる設備が安くなる」(古田博貴水素ソリューショングループ課長)という。
水素ステーションの運営は利用が増えれば採算が折り合うが、FCVは6月時点で3770台と普及途上だ。市場の拡大で水素価格が下がり、FCVの燃料費低減につながれば普及が加速する可能性もある。富士経済は30年度に国内の水素関連市場が19年度比34・2倍の3963億円に拡大すると予測。水素発電の本格導入などを見込んだ試算だ。水素ステーション事業の自立は環境の変化にかかっている。