社員ゼロのテックベンチャー、全員リモートで無人航行ヨットを開発

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実機を使った実証に参加するメンバー(エバーブルーテクノロジーズ提供)

専門家、自由自在に参画

エバーブルーテクノロジーズ(東京都目黒区、野間恒毅社長)は、社員数ゼロのテックベンチャーで、自動航行ヨットを開発する。2018年12月に設立され、現在はシード期にある。正規雇用の社員がいないことが特徴だ。自動航行ヨットの構想に共感したデザイナーや、エンジニアなど約50人がコミュニティーメンバーとして、開発プロジェクトに参画する。全員がリモートで作業し、オフィスも上下関係もない新しい働き方が生まれている。(小寺貴之)

「僕はまとめ役。管理らしい管理はしていない。情報はチャットツールで共有し、非同期で働ける環境を整えている」と、野間社長は自社の働き方を説明する。メンバーのほとんどが別の仕事を持っている。そのため同じ場所に集まり、同じ時間に働くことを前提としていない。

各自が都合のよい時間帯に働き、成果をツールで共有する。疑問点や課題もチャットツールで共有し、答えられる時に誰かが対応する。同じオフィスで就労時間に合わせて働くのではなく、異なる場所でリモートをベースとしている。野間社長は「ハワイやシンガポールのメンバーが参加しやすいのがこの形だった」と振り返る。

ヨットの設計もリモートだった。船体やかじなどを3人のデザイナーがそれぞれ設計し、クラウドの設計ツール上で統合。細かなすり合わせもツール上で調整した。設立時からリモートベースでプロジェクトを回してきたため、新型コロナウイルス感染症拡大による影響を受けなかった。

チャットツールでメンバーとやり取りしながらクラウド上でモデリング(エバーブルーテクノロジーズ提供)

ただ、すべての仕事がリモートで完結するわけではない。実機は人の手で組み立てる。実機でのデザイン修正もあるため、現場に集まって作業している。難しいのはヨットの航行が天候に左右される点だ。雨や風、波の高さによって海上での実証実験ができたり、できなかったりする。

現在は開発拠点を決めていない。野間社長は「各自がユニットを持ち寄り、現場で組み立てている。工房のような拠点を設けてしまうと実験する海岸が変わる度に移動が大変」と語る。1メートルクラスの試作機は神奈川県の葉山港から出発し、約7キロメートルの距離を風の力だけで自動航行した。2メートルクラスの試作機は、同県の逗子海岸で自動航行を実証している。

将来は二宮漁場(神奈川県二宮町)のしらす漁向けに、無人ヨットで海洋データを提供していく計画だ。複数の無人ヨットが海上を行き交い、海水温や魚群探知機データを集める。このデータを基に漁場を選べば、漁の空振りや燃料代を抑えられると期待される。

これまで自動航行ヨットの開発プロジェクトにかかわったメンバーは約50人。共に働くことで得る発想や、ノウハウの交換が実質的な労働の対価となっている。その対価はメンバーがプロジェクトを通じて学び取ることで得ている。野間社長は「今はギブもテイクもない。現在の延長にない挑戦ができている」と力を込める。

日刊工業新聞2020年8月26日

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

スタートアップがゼロから1を生み出すとき、定まった形の組織は要らないのかもしれません。とにかく参加者の熱量でコンセプトと技術を形にして1を生む。その後1を10に育てる努力は組織立ててやる。この会社は次の資金調達でそのステップに進むことになります。孫泰蔵さんは、よくこの会社に1億円も出したなと思います。帆船は優れた部分も多く、産業革命が起きてから蒸気船が帆船を打ち負かすまでかなりかかりました。帆船の逆襲には何年くらいかかるでしょうか。

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