コロナ禍に生きたITベンチャーのデータ重視文化
コロナ禍は企業の人材育成を大きく変えている。急速に遠隔勤務体制が整えられ、職場に集まらなくてもある程度の仕事はできるようになった。4月の入社から約3カ月間まともに出社できなかった新入社員も少なくない。遠隔勤務を前提とした育成体制や学習テーマが必要だ。遠隔勤務で先行するITベンチャーを追った。
「全社にデータを扱ったコミュニケーションを根付かせたい。部署を超えて意思決定できれば、会社にとって大きな競争力になる」と、カンム(東京都渋谷区)の知久翼最高執行責任者(COO)は強調する。同社はプリペイドアプリを開発するベンチャーだ。
従業員は約30人。毎週火曜日にデータベース言語「SQL」の勉強会を開いている。総務や経理などの部門から、職種の垣根なく参加する。
SQLはデータの分析に使う。ユーザーの反応データを分析して営業施策の効果を数値化したり、経理担当がお金の流れを確認するプログラムを自作したりと、エンジニアでない人材がデータを直接触れるようになった。
以前はエンジニアにデータ分析の技術サポートを頼んでいた。分析結果が意図と違えばやり直しだ。その度にプログラミングし直し、データを洗い直す。これが勉強会のおかげで非エンジニア職が直接データを分析できるようになった。実務担当者が自らデータを触って何度も検証できる。知久COOは「細かな意思決定もデータに基づいて考えられる」と説明する。
現在、SQLの勉強会はオンラインで続けている。参加者はビデオ会議システムで集まり、SQLの演習課題を各自で解く。知久COOは「オフィスに集まれなくても問題はない。講義の内容と演習の成果を共有できれば勉強会は続けられる」という。
そしてデータ重視の文化がコロナ禍で役に立った。コミュニケーションに制限があってもデータを基に具体的な議論ができる。遠隔勤務でも意思決定の質を落とさない。経営を支える文化になった。
(取材・小寺貴之)