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内科医はなぜ片足がまひした人でも乗れる自転車を作ったのか?

内科医はなぜ片足がまひした人でも乗れる自転車を作ったのか?

IchiGooが開発したパラサイクル

障がい者用自転車普及へ 行動範囲広げ生活に楽しみを

自治医科大学発ベンチャー「IchiGoo(イチグー)」は、片足にまひのある人でも乗れる自転車「パラサイクル」の普及に乗り出す。開発したのは、生物の体内組織を生きたまま観察できる「生体イメージング」の技術で注目された西村智教授(同社取締役最高技術責任者〈CTO〉)。ハイテクからローテクまで、モノづくりにたけた異色の医学部教授に起業の経緯を聞いた。

―ミクロ世界の映像化に続き、今度はモビリティー分野の企画ですね。
「内科医を経て基礎研究へ、なぜ心臓が動くかを探る中で計測機や顕微鏡の改造を手がけるようになり、ほとんどのカメラメーカーと付き合いが広がった。ただ企業と大学の関係を対等に、そして知的財産権で勝負したいという思いに至りベンチャーを立ち上げた。そこでは相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサーや顕微鏡から離れ、すぐ形にできる乗り物の製品化を考えた」

―パラサイクルとはどんな製品ですか。
「普通は脚に障害があれば自転車に乗れないと考える。こうした人の行動範囲を広げ、生活を楽しんでもらうのが目的だ。ただ片足にまひがあると、まずは自転車を跨(また)ぐことが困難。そこで車高を低くし、スタンドも手で跳ね上げるようにした。またフロントギアは大きさの違う2枚を組み合わせて、リアギアのバネとともに弱いほうの脚力を補う仕組みだ。練習は必要だが2輪車は走りだすと安定する。こぎ続けることでまひのある足も筋トレできる」

―介護支援に対する考えは。
「自分も難病で左足にまひが残った。通常の車いすでは活動が制限されたため自分用の車いすを作り、フルマラソンは2時間台で走破。さらに自作の自転車で毎日20キロメートル走り続けた。今では歩くこともできる。一般的に介護用品は安全第一の考えが過剰に思える。個々の症状に合わせた『ほどほどの無理』が、機能回復に有効なこともある」

―研究室は工具や部材であふれています。
「家の中に電動工具や轆轤(ろくろ)などがあふれる環境で育ち、パソコンの製作など自然とモノづくりに熱中した。今も誰かが必要としているものを想像して作る。それが案外受け入れられたのだろう」

【記者の目/ニューノーマル時代に新風】
「高いから大事に使えという考えは、子どもの探究心を奪ってしまう」という西村教授は、高価な二光子顕微鏡ですら、ためらいなく分解し改造する。3輪の車いすにモーターを取り付けて、電気自動車の製作にも取り組む。そんな自由で柔軟な発想は、ニューノーマル(新常態)の時代に新しい風を吹かせるかもしれない。(東北・北海道総局長・菊地高司)

日刊工業新聞2020年7月28日

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