【東京五輪】本当に来年開催できる?大会簡素化、ワクチン・治療薬の動向は?

  • 0
  • 1
会談でグータッチする小池都知事(左)と森組織委会長(右)(6日)

1年後の2021年7月23日、東京五輪・パラリンピック(東京2020大会)が開幕する。新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する中、1年の延期と簡素化を余儀なくされる異例の大会。治療薬とワクチンの普及に時間がかかる中で、簡素化と延期に伴う追加費用の検討、誰がどの程度負担するのかなど難題が待ち構える。(取材・米今真一郎、宇田川智大、安藤光恵、安川結野)

1年後、歴史的大会に

6日、安倍晋三首相は、前日の東京都知事選挙に再選したばかりの小池百合子知事と面会、勝利を祝福した。その席で「来年の大会を成功させるためにも感染症に打ち勝たなければならない」と話した。

五輪シンボルモニュメント

会談に先立つ1日、安倍首相は、自民党2020年オリンピック・パラリンピック東京大会実施本部の遠藤利明本部長(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副会長)から、1年後の東京大会の成功に向けた決議文を受け取った際に「世界が新型コロナに打ち勝った証として大会を開催するため、感染拡大の抑止に力を尽くさなければならない」と述べた。

小池知事も新型コロナに打ち勝つ大会、との発言をこれまで度々している。新型コロナで延期や計画修正を迫られた大会だからこそ、“新型コロナに打ち勝った意味で歴史に残る東京大会”というのがテーマ。追加費用負担や大会収入の減少が見込まれる中で開催の大義となっている。

組織委は17日、国際オリンピック委員会(IOC)総会で競技日程と会場の確保・維持を報告した。8月8日までの17日間、ほぼ1年スライドさせる形で史上最多の33競技339種目を実施する。同日、会見した森喜朗組織委会長は「大きな評価をいただいた」と手応えを語った。

来年の五輪開催を静かに待つ国立競技場(東京都新宿区)

国・都・組織委、感染対策タッグ

今後のテーマは、200項目を超える大会の簡素化だ。同日の会見で、武藤敏郎事務総長は「例えば大会関係者の参加者数が削減可能かどうかを含め、あらゆる分野において検討中」とした。「できるだけ選手は守っていきたい」とする一方で、「選手以外の人(関係者)が日本に来る人数」の制限に触れた。

これは関係者だけでなく、観客数の制限にもつながる。現時点での組織委の収入計画のうち、チケット売り上げは900億円。この計画修正が余儀なくされる。また、簡素化の中で、収入計画の最大である国内スポンサー(3480億円)は守らなければならない。 会場や会場設備を大会前後の一定期間押さえる費用など20年に開催していればかからなかった追加費用は3000億円ともされる。予算で不測の事態のためにみている予備費用は合計470億円。簡素化を踏まえた追加コストの全体像は今秋以降に示す予定だ。さらに難題は費用分担の問題。武藤事務総長は「追加コストがどれくらいになるか、ある程度把握できないと誰がどう負担するかには至らない」と述べた。

国立競技場竣工式では安倍首相(左)らが出席(19年12月=東京都提供)

追加コストの計算や費用分担の議論の前に、大前提として新型コロナ対策がある。国と都、組織委の3者を中心とする会議体で秋に検討を始める計画だ。そこでは「国がイニシアチブを取って」(武藤事務総長)出入国の管理、検査と治療体制の整備・充実、宿泊、輸送に関する対策などが検討される見込みだ。

治療薬・ワクチンは…

新型コロナは今後数年にわたって流行するなど事態の長期化が予測される。安全な大会の開催に向け、治療薬・ワクチンがカギだ。

厚生労働省は5月、海外での承認実績をもとに国内での使用を認める「特例承認」という仕組みで、米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」を新型コロナの治療薬として承認。さらに抗炎症薬「デキサメタゾン」を新型コロナ診療のガイドラインに追加した。他にも、富士フイルム富山化学(東京都中央区)の抗インフルエンザ薬「アビガン」や、中外製薬の関節リウマチ治療薬「アクテムラ」の臨床試験が実施中だ。

ワクチンの開発も急ピッチで進む。英アストラゼネカは、感染症を引き起こさないウイルスに新型コロナのデオキシリボ核酸(DNA)を入れた「DNAワクチン」の開発を進める。すでに英国で最も実用化に近い第3相臨床試験が実施され、9月にも実用化を目指す。日本でも近く臨床試験を始める予定だ。

私はこう見る

通常開催に変わる景気対策難しい 関西大学名誉教授・宮本勝浩氏

3月時点で、東京五輪・パラリンピックの新型コロナの影響による経済損失は延期なら約6400億円、中止なら約4兆5000億円と試算していた。今ならさらに膨らむかもしれない。

ただ、東京都は2017年の試算で経済効果が約32兆円としていたが、通常開催でレガシー(遺産)効果を考慮しても難しい数字だった。過去最大の経済効果といわれる08年の北京五輪で約10兆円。他国の事例も踏まえると通常開催で約8兆円とみていた。当初の半分の観客動員ができれば3兆―4兆円と一定の経済効果が期待できるが現在の感染状況では半数の入場も難しいだろう。

また、外国では強制力や罰則のない自粛などの要請は対策と受け止められておらず、開催できるか懸念されている。外国人は罰金や拘留など直接の不利益がないと従わないため、開催時の対応も課題となる。開催を目指すなら強制力のある「コロナ対策」が必要だ。今後、日本がうまく抑え込んでも全ての国が選手団を送り出せる状況かという懸念も残る。言葉の壁など医療機関がどこまで外国人に対応できるかという問題もある。規模縮小でもやってほしいが、現状は厳しいと言わざるを得ない。

五輪の通常開催に代わるレベルの景気対策は難しい。大きな経済効果は人を集めないと生まれないが、それ自体が難しいのが現状だ。少しでもカバーするにはインターネットでいかに物を販売するか、消費者の喜ぶアイデアを配信するビジネスを確立するかがカギとなる。(談)

最大2兆円の需要先送り ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト・矢嶋康次氏

簡素化しての開催については、ワクチンがまだできていない現状で、開催できる形式が想像できない。20年から21年の開催へと1年延期されたことにより、需要が出て来るはずだった観光やサービス、グッズの製造販売など最大2兆円の需要が21年度に先送りされた。さらなる延期があった場合は、これが次年度に先送りされることになる。

中止になった場合は、この2兆円が損失となる。経済への起爆剤としては、五輪以上の起爆剤はない。(談)

国民のマインド心配 第一生命経済研究所首席エコノミスト・永浜利広氏

簡素化の形としては入場者数の制限、最悪は無観客での開催だろう。経済効果としては、もともと開催年の国内総生産(GDP)押し上げ額を1兆7000億円とみている。無観客ならば4000億円、入場制限ならばこの間の額とみる。中止の場合、日本国民のマインドが落ちることもあり、マイナス効果が増し、1兆7000億円以上の損失となる。起爆剤はワクチンや治療薬の普及。感染への恐怖感がなくなるだけで単年で10兆円以上の効果が生まれる。(談)

日刊工業新聞2020年7月23日

関連する記事はこちら

特集