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なぜメダルは「金・銀・銅」の順番なのか?

おすすめ本の本文抜粋「トコトンやさしい金属材料の本」

金属の三兄弟 金・銀・銅

オリンピックでは、1位から3位までの競技者に金・銀・銅のメダルが授与されます。世界的な大イベントなだけに、各国がそれぞれのメダル数を競い合うのもオリンピックならではの醍醐味ですね。ところで、どうして、金・銀・銅がオリンピックメダルに使用されて、その順番が金・銀・銅なのでしょうか? その理由について考えてみます。
 1つ目の理由は、人類の金・銀・銅との出会いにあります。人類が金・銀・銅に出会った時期は、いずれも古代でおおよそ紀元前数千年と言われています。人類が早くから金・銀・銅に出会うことができた理由は、いずれも純金属に近い、自然金、自然銀、自然銅として地球上に存在するためと思われます。人類が後に手にする鉱石から金属を抽出する製錬技術を経ることなく、人類は金・銀・銅を手にすることができたのです。
 2つ目の理由は、その色調と輝きにあります。数ある金属の中で、色調を有する金属は金と銅のみで、特に、金の輝きは、富の象徴とされてきました。銀は、数多くの金属と同様に銀白色ですが、光の反射率が高いため、特に優れた輝きを有しています。

イラスト:榊原唯幸

3つ目の理由は、加工性の良さにあります。金・銀・銅を装飾品に加工する場合、溶かしたり、叩いて変形させて形作る必要があります。金・銀・銅の融点は、いずれも1000℃前後なので、当時の熱源で比較的容易に溶解することができたと推測されます。また、いずれの金属の結晶構造も面心立方構造で、延性が豊かで塑性加工しやすい特徴があります。
 最後の理由は、希少性にあります。地殻濃度は、金が0.0011ppm、銀が0.07ppm、銅が55ppmであり、汎用的に使用される鉄の4万1000ppmやアルミニウムの8万2000ppmと比較すると、その少なさをイメージできると思います。
 以上のように、オリンピックメダルに金・銀・銅が使用されて、その順番が金・銀・銅となっている理由は、①人類との出会い②色調と輝き③加工性の良さ④希少性からと推測されます。

書籍紹介
今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい金属材料の本
吉村泰治 著、A5判、160ページ、税込1,650円

私達の身の周りには金属製品が溢れているが、金属を意識する機会は少ない。本書では、金属の歴史から金属の種類、その加工方法、応用事例、そして金属材料の将来について、幅広く平易な内容で解説。ものづくりの視点から金属材料を捉える。

著者紹介
吉村泰治(よしむら やすはる)
●略歴
1968年生まれ。1994年3月 芝浦工業大学大学院工学研究科金属工学専攻修了、1994年4月 YKK株式会社入社、2004年9月 東北大学工学研究課博士後期課程材料物性学専攻修了、2016年4月 YKK株式会社 執行役員 工機技術本部 基盤技術開発部 部長。博士(工学)、技術士(金属部門)

●著書
『銅のはなし』技報堂出版、2019年8月
『パパは金属博士!』技報堂出版、2012年4月
「生活を支える金属 いろはにほへと」大河出版(『月刊ツールエンジニア』に2013年4月から隔月連載)

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目次抜粋(全67項目)

第1章 金属とは
活用の始まりは、ほぼ純粋な自然金属「人類と金属の出会い」/金属結合がもたらす3つの特徴「化学結合とは」

第2章 金属材料の種類 ―鉄鋼―
最も多く生産され、使用されている金属「鉄鋼」/軟鋼を中心とした構造用鋼「普通鋼」

第3章 金属材料の種類 ―非鉄金属―
鉄鋼以外の金属とその合金「非鉄金属」/人類が最初に手にした非鉄金属の代表「銅および銅合金」

第4章 金属材料の評価・試験方法
金属の硬さを調べる試験「硬さ試験」/引張荷重負荷時の変形挙動を求める試験「引張試験」

第5章 加工プロセス
形状と機能を付与して金属製品に仕上げる「加工プロセス」/溶解炉で融点以上に加熱して溶かす「溶解加工」

第6章 表面処理プロセス
金属表面に装飾や機能を付与する「表面処理加工」/金属表面の素地とは異なる付着物を除去する「前処理」

第7章
材質以外にも分類できる「構造材料と機能材料」/エンジンの燃費向上とCO2排出量削減が課題「航空機」

第8章 金属材料のこれから
金属資源が少ない日本の貴重な資源確保手段「リサイクル」/人工知能を用いた材料開発「マテリアルズ・インフォマティクス

コラム
錆びない金属ステンレス鋼。実は錆びています!
金属の三兄弟 金・銀・銅

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