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「近場で長く、清潔に」。Airbnbトップが語る民泊の未来

「近場で長く、清潔に」。Airbnbトップが語る民泊の未来

民泊イメージ

予約、想定上回る回復

新型コロナウイルスの感染拡大で世界的にホームシェアリング業界は打撃を受けたが、足元では予約が急回復している。6月19日時点の国内旅行の予約は少しずつ手応えを感じつつあり、回復ペースは想定以上の速さで、正直言って驚いている。

とはいえ、旅行の形態は大きく変化している。コロナ禍で国境をまたぐ移動制限はもちろん、国内でも都道府県を越える移動の自粛要請があったからだ。近場を好む傾向が顕著になっており、日本では80キロメートル圏内、車で1時間半程度で行ける場所の需要が大きい。東京の利用者ならば熱海や箱根あたりまでに集中している。

「3密」を避けようとする気持ちは予約物件にも表れている。1部屋単位ではなく、1棟丸ごとでの予約の人気が高い。単純な数日の旅行のための利用だけでなく、長期滞在してテレワークする「ワーケーション」の用途も増えている。企業や業種によってはテレワークが常態化しており、今後、ビジネスとして有望だろう。

来年、再来年のことは分からないが、「近場」「3密回避」「ワーケーション」が民泊の当面のトレンドになるだろう。こうした需要を見据えて、Airbnbは6月末から、国内需要を喚起する「Go Near 身近にある、特別な旅」をテーマにしたキャンペーンを始めた。新たなマーケティングの一環で夏の間、メールやホームページなどで展開する。

ホームページをリニューアルし、行きやすい近場の目的地ごとに物件を見やすく提示するなどが特徴で、これまでにない取り組みだ。新型コロナの第2波の懸念もあるだけに、柔軟なキャンセルポリシーの物件も表示しやすくするなど世の中の状況に沿った情報を提供していく。

最適な清掃方法を提示

政府が6月19日に都道府県をまたぐ移動の自粛要請を全面的に解除したことは旅行への意欲を喚起する契機になりそうだ。コロナ禍で少なかった1カ月、2カ月先を見越した予約も入り始めている。もちろん、コロナの脅威が去ったわけではない。事業を取り巻く環境が変わっただけに、我々も高い対応能力が求められる。特に世の中の衛生意識の高まりへの対応は不可欠だ。

北海道や大阪府など、自治体によっては、民泊事業者向けに新型コロナの感染拡大に備えた運営指針を策定している。施設内に体温計を用意し、宿泊客に検温や体調の申告をしてもらうよう事業者に求めるといった具体策をまとめている。

当社も衛生意識を高めるため、物件所有者向けに6月下旬から新しい日本版清掃スタンダードの作成・展開を開始した。どこをどのように除菌をすればいいのか、時代に合わせた最適な清掃方法など専門家の知見を盛り込んでいる。認証制度も設けることで、ゲストが物件を選ぶ際に衛生的な宿泊先を検索できるようになる。

在宅勤務の活用広げる

コロナと共生する時代は、さまざまな状況に柔軟に対応できる思考と対策をしっかり備えながら、民泊の利用を今後も促進したいと考えており、やれることは早急に全てやっていくつもりでいる。

新型コロナの感染拡大や東京五輪・パラリンピックの延期といった外的環境の変化は、民泊の経営に大きな影響を与えているのは間違いない。だが、当社に限れば、予約可能物件の総数は2019年11月末の約9万件から横ばいで、今後もリスティングを増やしていきたいと考えている。

ビジネスの前提が変わり、業界には逆風が吹いたが、在宅勤務での活用など新たな用途に目を向けて、認知を高めたい。民泊を多くの人に知ってもらうために大阪市と共同でリーフレットを作成した。近く市内区役所や保健所などの公的機関に設置予定だ。

「近場で長期滞在、そして清潔」。新しいニーズに応えながら、民泊の魅力をより広く知ってもらうことで、ニューノーマル(新常態)での進路を切り開きたい。

Airbnb Japan代表取締役・田邊泰之

【略歴】
たなべ・やすゆき 94年(平6)米リーハイ大卒。02年米ジョージタウン大学院経営学修士(MBA)修了。消費者向けマーケティング業務を経て、Huluの日本事業立ち上げに携わる。13年Airbnbシンガポール法人入社、14年日本法人代表取締役。大阪府出身、48歳。

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