SDGsが後押し!町工場の「時期尚早」を始めるきっかけに

雑誌『工場管理』連載 町工場でSDGsはじめました 第7回

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 最近、仕事や生活の場で「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく見聞きするようになった。“持続可能な開発目標”と訳されるSDGsは、近年、企業にとって経営戦略上の重要目標となりつつある。生産現場においても例外ではないが、現場にとっての意義や価値は十分に理解されているとはいいがたい。本連載では、とある町工場の夕陽丘製作所のエピソードを通じて、SDGsとは何かから、取り組むプロセス、ポイントを解説していく。

主な登場人物
萬代総務部長:古町工場長の指示でSDGs担当者に。52歳。
古町工場長:取引先の役員からの話でSDGsに興味を抱く。59歳。
燕さん:経理部。工場で最もSDGsに精通する25歳。
妙高生産部係長:生産部の若きリーダー。30歳。

夕陽丘製作所のSDGs推進チームは生産部に続いて総務部とミーティングを行い、SDGsの具体的な活動について検討を始めた。

 燕「生産部はSDGsを参考にエネルギーの削減、水使用の改善、化学物質管理について目標を考えます」
 萬代「総務部は目標というよりも、具体的な取組みを検討してみたよ。まず、太陽光発電システムを設置しようと思う。うちの工場で太陽光パネルの部品をつくっておきながら、自分たちでは使っていなかったからね」
 燕「ゴール7のターゲット『再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大』に合致しますね。太陽光パネルが設置されていると、工場の外からも『SDGsに取り組んでいる会社』ってわかりますね」
 萬代「営業車にはデジタルタコグラフ※をつけるつもりだ。前から導入を考えていたけど、ゴール3のターゲットに『道路交通事故の死者を半減』があって、この際だから前向きに採用を検討する」
 燕「従業員が安全運転を心がけるようになるので、乱暴な運転を目撃されて会社の評判が悪くなることも防げますね」
 萬代「ゴール12のターゲットで『廃棄物の発生防止や削減、再利用で廃棄物の発生を大幅に削減』があるよね。ごみは分別さえすれば大丈夫と考えていた。しかし、廃棄物の発生そのものを減らさないとダメなんじゃないかと総務部で議論になった」
 燕「従業員にマイバッグやマイボトルを配布するんですか?」
 萬代「それだけじゃなく、製造の廃棄物をもっと減らせないか、生産部とも協議するよ」

次回、SDGs推進チームは古町工場長と工場共通のテーマについて話し合う。

※車両の速度超過、急発進、急停車、アイドリングなどを記録する装置

<解説 「時期尚早」「すでに実践済み」は禁物。できることを再点検しよう>

前回、SDGsを活用すると現状の活動をレベルアップさせる余地が発見できると説明しました。今回は主に新しい取組みについて説明します。「うちの会社にはまだ早い」と、これまで二の足を踏んでいた取組みも、SDGsを参考に検討すると推進に前向きになれます。

太陽光発電システムを例にすると、日照や建物の強度などの制約で設置できない工場もありますが、「コストが高い」という理由で設置を見送っていた場合もあります。しかし現在は、コストを抑えて導入できる方法が増えています(写真)。

低コストで太陽光発電システム導入が可能に (写真はイメージ)

たとえば、「PPAモデル」(第三者所有とも呼ばれる)です。詳しい説明は省きますが、太陽光パネルを設置しても設備費用は払わず、使った電気の分だけサービス料を支払うような契約形態です。工場は初期費用を負担せず、発電した電気を利用できます。出雲東郷電機(島根県出雲市)は、PPAを提供するNTTファシリティーズと契約しました(2019年8月26日付リリース)。

太陽光発電に限らず、以前は「ハードルが高い」と思っていたことが、最近は取り組みやすい状況に変わっているものがあると思います。せっかく社内でSDGsを推進するなら、過去の経緯や既成概念を忘れ、採用に向けて再調査してみてください。

また、複数の効果を検討することも重要。太陽光発電導入の目的は「SDGs達成のため」だけでしょうか。夕陽丘製作所の場合、自社の部品が採用された太陽光パネルの利用で自社製品をPRできます。また、太陽光パネルの設置によって「SDGsに取り組む会社」と社外に説明しやすくなります。

デジタルタコグラフの導入では、交通事故の防止だけでなく、乱暴な運転による会社の評判悪化を防ぐ効果も期待できます。SDGsの取組み全般にいえますが、1つのメリットだけを考えず、複数の効果・目的を見つけられれば社内で推進しやすくなります。また、交通事故のように意外な目標もSDGsに掲げられています。思わぬ発見はないか、ターゲットを十分に確認しましょう。

最後に活動のレベルアップについての補足です。例として、夕陽丘製作所では廃棄物に目が向けられましたが、「すでに実践しているから大丈夫」と思い込んでいることはありませんか。分別し、法律を守って産業廃棄物を排出しているから安心と思っていると、レベルアップの余地を見逃してしまいます。法令で求められた社内制度があると安心してしまいますが、もっと上のレベルを目指す余地はないのか、SDGsを参考に点検してみてください。

ポイント
●過去の経緯・思い込みを忘れ、取組みを検討する
●複数のメリット・目的を検討する
●法令を遵守した社内制度がすでにあっても、それで十分か、レベルアップの余地を探る

松木 喬(まつき たかし)
日刊工業新聞社 第二産業部 記者、編集委員
2009 年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。現在、日刊工業新聞「SDGs面」(毎週金曜)の取材・編集を担当。主な著書に『SDGs 経営“社会課題解決”が企業を成長させる』(日刊工業新聞社)。新潟県出身。

工場管理 2020年7月特別増大号  Vol.66 No.9
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 特集2では、BCP(事業継続計画)を解説。新型コロナなど感染症の流行、スマート工場化でリスクが高まるサイバー攻撃など、従来のBCPの考え方が通用しないケースも増えており、さまざまな可能性を想定した柔軟なBCPの策定が求められる。新時代に考慮すべき生産現場のリスクを整理し、BCP策定のポイントを紹介する。


雑誌名:工場管理 2020年7月特別増大号
判型:B5判
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※第8回は7月25日頃公開予定

COMMENT

松木喬
編集局第二産業部
編集委員

環境省が新宿御苑の電気を再生可能エネルギー由来に切り替えたと発表していました。電気代は前と遜色なかったそうです。「再生エネは高い」と思っていたら、小規模な事業所なら今の電気代と同等まで値下がりしました。テレビ会議にしても、カメラやマイクが必要と思い込んでいたら、パソコンやスマホがあればできるようになりました。SDGsをきっかけに見直してみると「うちの会社でもできる」ことが見つかるかもしれません。

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