データサイエンティスト活躍のための3つの条件とは
年俸よりも大切なこと
データサイエンティストは、機械学習やビッグデータの扱いにたけた専門家である。近年人工知能(AI)への注目度が高まるにつれ、巨額の年俸を掲げ、この新たなIT人材の獲得に躍起になっている大企業も少なくなった。
しかし筆者は、年俸をつり上げることより、もっと有効な方法があると考えている。それは、データサイエンティストにとって働きやすく、かつ力を発揮しやすい環境を整えることだ。
データサイエンティストが活躍できる場は、三つの条件をそろえておかなければならない。
一つめは、オープンな開発環境である。データサイエンティストは、最先端技術が次々と追加されるオープンソース・フレームワークを使って開発することを何よりも好む。最新論文のアーカイブなどを通じて、そのアップデート情報に接し、とにもかくにも新機能の実装を試みるのが彼らの習性だ。もし企業から「わが社のルールで認められない」と拒否されたら、彼らのやる気はそがれるに違いない。企業はルールで彼らを縛らず、自由度の高い開発環境を整えるべきだ。
二つめは、勉強会参加の自由である。勉強会などビジネスに関係ないとバカにしてはならない。彼らは自主的な学習を好む。仕事よりも勉強のほうに高いプライオリティーを置く人もいるくらいだ。
自由であるために
企業は、業務時間の一部を自主的な研究や、異業種・学術界との交流に使う自由を自社のデータサイエンティストに与えるべきである。向学心の高い外部人材との付き合いから、未公表の最新技術情報がもたらされるチャンスも拡大する。その点、企業にとってもメリットがある。
三つめは、カリスマ研究者の存在である。若く優秀なデータサイエンティストは、ずばぬけた実績と人間的魅力を持つ研究者が在籍する企業に、多くの場合、どんな高い報酬を提示する企業よりも、魅力を感じるからだ。
伝説擁する企業
筆者は以前、東京大学名誉教授で、優れたIT人材を見いだす独立行政法人情報処理推進機構(IPA)未踏IT人材発掘・育成事業統括プロジェクトマネージャの竹内郁雄氏に次のような話を聞いた。竹内氏が、東大発のスタートアップであるプリファード・ネットワークス(PFN)の西川徹社長と対談をしていたところ、西川氏が「これからゼミがはじまるのでそろそろ対談を終わりにしましょう」と切り出したらしい。竹内氏は社長がゼミに参加するのかと驚くとともに、この会社は成長すると確信したという。
PFNには岡野原大輔副社長というカリスマもいる。未踏事業出身の同氏は、データサイエンティストの間で伝説的人物として知られる。トヨタ自動車など名だたる企業との提携を重ねるPFNの躍進の背景に、データサイエンティスト活躍の土台があるのは間違いない。
(文=EY Japanアソシエートパートナー 園田展人)【対談】竹内×西川が語り合う
突出したIT人材の発掘と育成を目指して2000年に始まった経済産業省・情報処理推進機構(IPA)の未踏事業。これまでにのべ約1700人を輩出し、これをきっかけに起業したスタートアップの企業価値は総額およそ6000億円とされる。その代表格が人工知能(AI)開発で大手企業から引く手あまたの「プリファードネットワークス(PFN)」。同社の西川徹社長と、未踏事業の創設者のひとりで、現在は同事業の統括プロジェクトマネージャーである竹内郁雄東京大学名誉教授が、イノベーションをけん引する人材像について語り合う。
パソコンに興味を持ったのは小学4年生の頃。パソコンは買ってもらえなかったので、紙にソースコードを書いて遊んでいました