AIよりまずエクセルを使いこなせ!ワークマンのデータに基づく意思決定習慣
経済産業省の調査では、2023年に約13万人の先端IT人材が確保できるものの、約4万8000人が不足するという。データサイエンティストは今なおその需要は高く、企業の間で激しい奪い合いが繰り広げられている。
人工知能(AI)時代を下支えする先端IT人材の増加は歓迎すべきことである。だが危惧もある。データサイエンティストの数だけ増やしても、経営に対してインパクトを与えることはできない。
データサイエンティストはもちろん機械学習などビッグデータの取り扱いには慣れている。ところが現場の経営課題を理解し、解決策の提案までできる人材はほとんどいない。肝心の経営課題を解決できなければ、AI活用はかけ声に終わる。
組織にはデータサイエンティストだけではなく、業務に精通し、データサイエンティストほどではないがデータを駆使してトップラインを伸ばしたり、コスト削減をしたりすることができる人材が必要なのだ。
昨今、バズワードともなっているDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるには、このタイプの人材が不可欠である。
どこから手を付けるべきか。元NTTドコモ執行役員で、大阪大学教授の栄藤稔氏は「組織をデジタルでインクルージョンすることが重要」と指摘し、参考例として、作業服小売り大手ワークマンの取り組みを挙げる。
筆者との対話の中で栄藤氏は「(ワークマンを見学して)頭を殴られた気分になった」と衝撃を語った。
本業の作業服での増収増益を見込み、アウトドアウエアを扱う新業態「WORKMAN Plus」も立ち上げるなど、ワークマンは快進撃を続けている。そんな同社の取り組みで注目すべき点は社長、部長も含め、ほぼすべての社員がITを使いこなしているところにある。
ITを使うと言っても、高度なツールではない。ワークマンが使っているのは、最も普及している表計算ソフトの一つ、米マイクロソフトの表計算ソフト「エクセル」だ。
どんな製品を開発すべきか、どの店舗にどれだけ配置すべきか、店舗内のどこにどんな商品を陳列すべきか、いつどれだけ発注すべきか。これらの問いに社員一人ひとりが向き合い、エクセルを駆使して分析し、解決策を出して実行する。データに基づくサプライチェーン・マネジメントの最適化がワークマンの強みなのだ。
最先端のAI技術を導入すれば魔法のように業績が上がると期待するのは間違いだ。そもそも現場には、高度なAIを活用するほどのビッグデータが存在していないことの方が多い。
AIはたしかに強力な解析ツールだが、そのベースとなるデータ、そしてデータの意味を理解する人材がいなければ、その真の価値を引き出すことはできないことをワークマンの事例は教えてくれる。
高度なAI技術の活用より前にすべきなのは、経営と現場の両方で、データに基づく意思決定の習慣を根付かせることである。
(文=園田展人 Japanアソシエートパートナー)