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コロナ禍でも奮闘する飲食ベンチャー、「俺のフレンチ」デリバリーはアイデアから3週間で

コロナ禍でも奮闘する飲食ベンチャー、「俺のフレンチ」デリバリーはアイデアから3週間で

新型コロナの影響。飲食店街の昼時、会社員がテークアウトに並ぶ

コロナ禍でも奮闘する飲食系ベンチャー企業が注目されている。政府の緊急事態宣言を受けた長期の外出自粛で外食産業は甚大な影響を受けた。多くの飲食店がテークアウト(持ち帰り)やデリバリー(出前)に取り組み、支援するサービスも活況だ。宣言が解除された今も、店内飲食の復調には時間がかかる見通しで、テークアウト・デリバリー需要の拡大が見込まれる。「新しい生活様式」を支えるベンチャーを追った。(小寺貴之)

「2月から4月で取扱高が10倍に増えた。飲食店からの要請が多く、新規受け付けを止めないよう必死に応えている」と、menu(東京都千代田区)の佐藤裕一執行役員はうれしい悲鳴を上げる。

同社は飲食店のテークアウトやデリバリーアプリを展開する。テークアウトは全国で対応。4月からは東京23区内主要エリアでデリバリーサービスの本格展開を開始した。

サービスを自前で立ち上げようと配達クルーアプリなどのインフラを整えていたところでコロナ禍に直面。飲食店からの登録依頼が殺到、4月は5000店舗が新規登録した。

デリバリー拡大(イメージ=menu提供)

同サービスでは飲食店に設置する注文管理端末やサービス利用料などが無料。飲食店は手軽にサービスを始めることが可能だ。

menuはデリバリー代を利用者から得るが、決済時のクレジットカード手数料はmenuが負担。menuではコロナ禍の長期化を見越して、2年ほどは無料対応を続ける構えだ。佐藤執行役員は「(デリバリー需要の)急増に対応しきれず、飲食店の新規登録を止めたデリバリーサービスもある。だがいま飲食店を支えられなければ存在意義を失う」と奔走する。まずは店舗数など規模の拡大を追求し、将来のプラットフォーム型ビジネスにつなげる。

日本フードデリバリー(東京都渋谷区)は、飲食店チェーンを手掛ける、俺の(東京都中央区)と組んでフランス料理のフルコースのデリバリーを始めた。「俺のフレンチ」の7品のコースやワインセットなどを届ける。ご褒美需要や記念日など、レストランの食事を自宅で楽しみたい人に向け提案する。まずはフランス料理でサービスを立ち上げ、「俺のイタリアン」などブランドを広げていく。

俺のフレンチデリバリー(俺の提供)

日本フードデリバリーは法人向けのデリバリーサービスが主力だ。会議やロケの弁当、パーティー料理のケータリングなどを展開してきた。コロナ禍が収束しても、企業などが人を集める大規模イベントの開催は難しいと想定する。石川聡社長は「アイデア出しから約3週間と、短期間でサービスを開始できた。蓄積してきた膨大な料理プランのデータや配送方法を生かせた」と振り返る。

多くの飲食店にとって政府の緊急事態宣言が解除され、段階的に日常を取り戻していく回復期は経営が難しい。流行の「第2波」に警戒しながらも、現場を離れていたスタッフを呼び戻し、店舗に客を集める。いつでも事業を縮小する覚悟をしながら、人員や食材、店舗を整える。コロナ禍で痛んだ飲食店には大きな負担だ。

そこで厨房(ちゅうぼう)をシェアリングする「ゴーストレストラン」が注目されている。元々、接客用の店舗を持たず、デリバリー中心のレストランだが、一般の飲食店での調理や配送の負荷をシェアした厨房に分散できる。店内飲食とテークアウト、デリバリーを並立することが容易になる。

日本フードデリバリーの石川社長は「法人向けデリバリーでは珍しくない業態だが、コロナ禍で広く認知された」と説明する。セントラルキッチンで集中的に調理し、複数のブランドを展開するサービスは既にある。業界としてはノウハウがあり、挑戦しやすい業態といえる。飲食店では、接客スタッフや家賃など店舗にかかるコストを抜き、食材や料理人など調理に関わるコストだけならテークアウトやデリバリーでも採算が取れる事業者は少なくない。

menuの佐藤執行役員は「コロナ禍で、お店で食べるという前提を外して業態や収支の検討が始まった。試みに手応えのあった事業者も多く、今後新しい業態が広がる」と展望する。

店舗で満足度データ取得 中食含めリピート管理

飲食をめぐるライフスタイルの変化に大きな影響を受けるのが、飲食店検索を中心としたグルメアプリだ。飲食店への送客の多くを担ってきたが、消費者の検索行動やレビューの評価ポイントが変わり、広告モデルが揺らいでいる。

グルメアプリは飲食スタイルの変化で事業モデル刷新(menu提供)

グルメアプリ全体ではユーザー数がコロナ後に半分以下に減ったという指摘もある。そんな状況で、SARAH(東京都台東区)はコロナ禍のマイナス影響が小さかった1社だ。高橋洋太社長も「当社のユーザー数は微減から横ばいと影響を抑えられた」と胸をなで下ろす。

SARAHのアプリは店舗単位でなく、料理メニューごとにレビューを集める仕組みだ。

例えばポテトサラダに対してマヨネーズ多めのしっとり系や、リンゴの入ったさっぱり系など料理単位の細かなデータが得られる。飲食店からの広告収入ではなく、ビッグデータ(大量データ)を食品会社に提供して売り上げを立ててきた。

グルメ検索アプリも今後は、テークアウトやデリバリーなどのサービスの拡充、統合が見込まれている。消費者にとっても店内飲食とテークアウト・デリバリーが分かれていると不便だ。

高橋社長は「一度の検索で一覧できたほうが良い。中国では統合した横断検索サービスが支持されている」と説明する。

店舗は収容客数を抑えるために床面積当たりの売上高が減る。ただ料理の値上げで減収分を補うのは難しい。

「料理を食べた時の反応や表情など、デリバリーでは取れない満足度データを集め、店内飲食と中食を含めたリピート率を上げる工夫が重要になる」(高橋社長)。

SARAHでは来店客の携帯端末にメニューを表示するサービスを開始。紙のメニューよりも情報量が多く、接客頻度を抑えられるほか、閲覧データから、顧客の潜在的なニーズを把握。顧客が求める料理の提案など、付加価値向上につなげることが可能だ。

コロナ禍で外食産業の受けたダメージは甚大だ。だが収束後に向けた取り組みも確実に進んでいる。

小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 レストランでどっちの料理を頼もうか悩んだら、片方は店内で、もう片方はテークアウトで持ち帰るようになるかもしれません。お店は食べ終わりに合わせて二品目を調理し、数時間後に食べても食品衛生上、大丈夫なように作ることが求められます。一度冷めた二品目も美味しければ、デリバリーやテークアウトの常連になるかもしれません。デリバリーは割高感がありますが、配送や厨房のシェアなどのインフラは整いつつあります。飲食店オーナーはインフラ自体は借りられるので、店舗でどんなデータや知見を集めるか、それをもとにインフラ側といかに交渉するか。新しい産業の形が生まれようとしています。

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