果敢に挑む富士フィルムのDX、新型コロナに生かす
【先行して挑む】
富士フイルムはデジタルトランスフォーメーション(DX)の波をいち早くとらえ、製品・サービスや業務の変革、組織や人材の強化に挑んできた。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を活用して何かできないかと2014年頃に「ICT(情報通信技術)活用推進プロジェクト」を始動。大量データを分散処理できるインフラも整えた。
16年には事業部門とICT関連部門をつなぐ「ICT戦略推進室」を発足。加えて各部門から責任者を集め、全社的な施策を議論するデジタル変革委員会も設けた。そのテーマの一つがRPA(ソフトウエア型のロボットによる業務自動化)。エクセル作成などの手作業を、ロボットに置き換えている。
次世代AI技術の開発に向けては、富士フイルムホールディングスが18年、東京・丸の内に「Brain(s)」を開設した。アカデミアとの協業や、社内外の人材育成に挑むのが狙いで、19年には長崎市にも設置。長崎県や長崎大学と協業し、社会インフラ点検の実証実験を進める。
【人材育成】
人材育成については16年に先進研究所(神奈川県開成町)内にインフォマティクス研究所を設け、データサイエンティストを集約、育成している。情報工学系の学生を積極採用するほか、研修などで社員のITリテラシー向上を目指している。
これまで矢継ぎ早に打ち出してきたDXへの取り組みが、独創的な開発に結びつき始めた。AI活用では、すでにフォトブックや、トンネルなどのひび割れ点検支援システムといったサービスが実現している。医療分野では画像診断支援技術などを「レイリ」ブランドで展開している。
【画像から識別】
AI技術を用いた新型コロナウイルス感染症の診断支援技術の開発にも着手。富士フイルムは間質性肺炎に関し、CT(コンピューター断層撮影装置)画像から肺の病変性状を識別し、自動で分類、測定して病変を定量化、肺野の領域ごとに病変の容積や割合を表示する技術を持つ。この技術を、新型コロナ患者の経過や治療効果の判定に生かす狙いだ。
DXの取り組みについて杉本征剛執行役員チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)は「大きな課題や障害は感じていない。従業員のデジタル変革意識も高まってきており、今後も取り組みを強化し成果を出していきたい」と手応えを感じている。今後もデジタルを活用したサービスや製品の創出を目指すとともに、「RPAやITツールの組み合わせによる変革の対象業務を拡張し、社員が日常的に使えるセルフサービスBI(ビジネス・インテリジェンス)やAIを浸透させていきたい」(同)と意欲を燃やす。