スピード勝負のDX、チームトヨタはTPS仕込みの「アジャイル開発」で乗り切る
【移動サービス】
自動車業界に押し寄せるデジタルトランスフォーメーション(DX)の波は、車や移動のあり方そのものを変えようとしている。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)とMaaS(乗り物のサービス化)の進展で、車や住宅、インフラ、人がつながり、クラウドを介してサービスを受ける世界が到来する。
今や競合は車メーカーに限らず、米国や中国の大手IT企業、米ウーバー・テクノロジーズのような新興企業にまで広がる。デジタルでビジネス革新を起こしてきた彼らのスピードに乗り遅れれば「生きるか死ぬか」の変革期を勝ち抜けない。
危機感が高まる業界では近年、ソフトウエア開発を加速する新たな手法の採用が進んでいる。顧客の要望を聞きながら少人数のチームで短期間の開発を繰り返し、走りながら考える。そうして実用化までの期間を短縮する「アジャイル開発」だ。
【新しい価値】
デンソーは従来の延長ではないゼロから価値を作り上げる組織が必要だと、2017年に同手法でMaaS開発を行う専門組織「デジタルイノベーション室」を新設。当初2人でスタートした組織は3カ月後には10人弱に増え、今では100人程度にまで成長。顧客も含めたチームで構成し、累計で20数件のプロジェクトを手がける。すでに営業車管理サービスなどを実用化したという。
トヨタ自動車や、トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI―AD)もアジャイル開発を採用した。各社が狙うのはソフトウエア開発の短期化だけではなさそうだ。アジャイルの思想を定着させて他の業務にも応用することで、企業変革への効果も期待できる。
【変わらぬ安全】
車のサービスの部分はスマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)のように、都度改良する未来が待ち受ける。一方で「安全・安心は絶対に変えてはいけない部分」(豊田章男トヨタ社長)。ハードウエアの作り込みは変わらず堅持しなければならない。デンソーの成迫剛志デジタルイノベーション室長は「その二つの接点を持てるのがデンソーの強みだ」と断言する。
実はアジャイル開発はトヨタのDNAである「トヨタ生産方式」(TPS)の思想を基にしており、トヨタとは切っても切れない関係だ。ムダの排除や見える化、カイゼンといったTPSの要素をソフトウエア開発に持ち込んだ。成迫室長がアジャイルを提案した際、デンソーの役員からは「ずっと前から我々がやっていることじゃないか」と声が挙がったという。根付くDNAにDXを取り込み、革新の力に変えることが問われている。