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ゲリラ豪雨予測から電車の非常時走行…災害技術で見せつけた東芝の“総合力”

突然降り出すゲリラ豪雨を予測する―。夢の技術が確立すれば、地方自治体の防災・減災活動に役立つほか、日常生活で洗濯物が雨にぬれるのを防げる。こちらは開催の可否を予測しにくいが、2021年夏の東京五輪・パラリンピックの効率的な競技運営にも貢献しうる。

東芝インフラシステムズ(川崎市幸区)などが開発したマルチパラメーター・フェーズドアレイ気象レーダーは、ゲリラ豪雨が降り出す30―40分前に高確率での降雨予測を可能にする。取締役の春山正樹は「防衛技術を応用し、技術レベルは世界トップ級。実用レベルに達しているのは我々だけだ」と絶対の自信を見せる。

すでに国内の大学や研究機関に数台納入済みだ。現在は国土交通省などに売り込んでおり、早期の社会実装を目指す。また、産業用途への展開も視野に入れる。春山は「レーダーの出力データを生かしたサービスの可能性がある。降雨予測を基に、タクシー配車やPOS(販売時点情報管理)システムなどとの連携を検討している」と期待を寄せる。

電波を送受信するマイクロ波の半導体をはじめ、レーダーやセンサーなどのデバイスから、アンテナ、レーダーシステムまで内製する垂直統合型が事業の強みだ。「東芝グループは製品・技術が幅広く、半導体技術は本体やグループ会社から支援を受ける」と春山はオール東芝を体現する。

総合力は他の分野でも発揮されている。東芝デバイス&ストレージ(東京都港区)が投資を集中させるパワー半導体は電力制御を担い、機器の省エネルギー化に欠かせない。取締役の亀渕丈司は「ハイパワー(高耐圧)ではグループ内にユーザーを持ち、一体で開発できる」と相乗効果を認める。代表例が鉄道だ。

次世代の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体搭載のインバーター装置が、19年に運行を始めた東京メトロ・丸ノ内線の新型車両に採用された。半導体が高性能なため、インバーター装置の体積は従来比で約38%削減した。

その結果、車両床下に余裕が生まれ、災害時などの非常走行用に東芝独自のリチウムイオン二次電池「SCiB」を設置できた。「グループ内で緊密に連携し、高付加価値な製品をタイムリーに提供できる」と亀渕も総合力を強調する。SCiBは防衛関係でも現在、海上自衛隊の深海救難艇などに使われる。

総合力を生かしてライフラインを守る企業。それが東芝が果たすべき役割だ。(敬称略)

(連載取材・鈴木岳志)
日刊工業新聞2020年5月22日

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