【考察・東芝】「日本の総合電機は日立と三菱電機の2社になる?」

社会インフラの看板は再び輝くか

 東芝の海外原子力発電事業の巨額損失問題が発覚してから1年。連結子会社で同事業を担った米ウエスチングハウス(WH)の経営破綻、半導体メモリー事業の売却決定、6000億円の増資を経て、最悪期は脱した。ただ、この1年間で東芝の経営基盤は毀損され、課題もまだ残る。

 「日本の総合電機は2社になってしまうんだね」―。さまざまなビジネスで東芝と取引してきた国内電機大手の元首脳はしみじみと語る。家電から発電機など重電機器まで手がけ「総合」の看板を掲げる電機メーカーは、東芝の脱落で日立製作所と三菱電機の2社を残すのみとなった。

 不正会計問題が発覚した2015年、東芝は海外原発、半導体メモリー事業に集中する方針を示した。この方針に沿い医療機器や家電事業を切り離して経営再建に着手した直後の16年末、原発の巨額損失問題が発覚した。

 17年3月にはWHが米連邦破産法11条を申請して経営破綻。これで15年時点のもくろみは完全に狂った。巨額損失の穴埋めのため、中核事業のはずのNAND型フラッシュメモリー事業の売却を決定。11月にはテレビ事業の売却も決めた。

 稼ぎ頭が次々となくなり、身ぐるみをはがされた東芝。15年3月期に6兆6558億円だった売上高は、18年3月期には3兆7617億円(売却するメモリー事業は除外)と4割も減る見通し。「社会インフラ事業を核に経営再建を図る」(綱川智東芝社長)戦略だが、後に残ったのが社会インフラ事業だったというのが実態に近い。

 「もともとインフラ設備の会社。堅実に生き残っていけばいい」―。東芝の社外取締役は切々と語る。東海東京調査センターの石野雅彦企業調査部シニアアナリストは「成熟した国内市場は厳しいが、アジアの新興国まで視野を広げると需要は豊富」とみる。

 東芝は1875年に電信設備メーカーとして産声を上げた「田中製造所」を源流とする。世界初のノートパソコンを世に送り出したのは約30年前、NAND型フラッシュメモリーを製品化したのは約25年前。それぞれの時代で輝きを放った製品も、142年の歴史の中では新参者だ。いま、図らずも原点回帰する東芝を前向きに評価する声はある。

 ただ社会インフラ事業の18年3月期連結の売上高は1兆2600億円で、営業利益率は3・3%の見込み。第2の柱であるエネルギー事業についても売上高は8400億円、営業利益率は0・6%に留まる見通しだ。東芝を担当する証券アナリストは「メモリーがなくなったら、まったく面白みがない会社」と厳しい。

 “社会インフラの東芝”という看板は再び輝くのか―。東芝はどう変わり、そしてどう経営再建を進めるべきなのか。
                      


IoT×蓄積ノウハウカギ


 「信頼性が世界で評価されてきた結果」―。東芝は11日、約90年間で発電に使うタービンの累計出荷容量が2億キロワットを超えたと発表した。エネルギー事業の主力拠点、京浜事業所(横浜市鶴見区)の柴垣徹所長は胸を張った。

 海外原子力発電事業の巨額損失を経て、東芝はエレベーターなどの「社会インフラ」を核に、発電機などの「エネルギー」、「半導体」、「ICT(情報通信技術)ソリューション」の四つの領域に集中して経営再建を図る方針を掲げた。

 特にインフラ設備や重電機器は、信頼性の高い製品をつくる技術力や蓄積ノウハウがものを言う部分が多く、薄型テレビなどと比べ参入障壁が高く、東芝にとって優位性を発揮できる分野だ。

 一方、収益性が低いのは課題。例えばエレベーター事業の優良子会社「東芝エレベータ」。東芝グループ内では際立つ存在だが、営業利益率は米ユナイテッド・テクノロジーズのエレベーター部門「オーチス」の約18%の「半分にも満たない」(証券アナリスト)。改善には何が必要か。

 東芝は8月、四日市工場(三重県四日市市)にデンソー幹部を迎えた。成毛康雄副社長(東芝メモリ社長を兼務)が案内役となり、半導体メモリーの製造ラインの先進の取り組みについて説明した。

 東芝は同工場にIoT(モノのインターネット)技術を導入。ビッグデータ(大量データ)を人工知能(AI)で解析し大幅な歩留まり改善を実現した。

 その成果は業種を超えて注目される。東海東京調査センターの石野雅彦企業調査部シニアアナリストは「IoTという変化の波に乗れれば、新サービスの投入などでインフラやエネルギーの成長を実現できる可能性がある」と指摘する。

 IoTビジネスを主導するのは錦織弘信執行役専務。富士通でHDD(ハードディスク駆動装置)事業を担ってきたが、同事業の売却先となった東芝に09年に転じた。「2年で富士通に戻る予定だった」(業界関係者)が、東芝に留まり、今では「ICTの思考により重電ビジネスを変えていくためのキーパーソン」(同)になった。

 錦織執行役専務は「製造業やインフラ事業をデジタル化し、東芝のビジネスを製品価値から使用価値の提供へとシフトしていく」と戦略を語る。

 柴垣京浜事業所所長も「IoTによりタービンの故障を予知し、発電を止めないサービスなどを実現したい」と呼応する。IoTを掛け合わせることで社会インフラ事業やエネルギー事業を進化させられるかが、東芝の経営再建と成長を左右する。
東芝のタービン(京浜事業所)

“ポスト綱川”、突破型?調整型?


 東芝は2017年3月期連結決算で、国内製造業で過去最大の赤字となる9656億円の当期純損失を計上した。直接的な原因は、原子力発電事業の米子会社ウエスチングハウス(WH)を通じて15年12月に実施した米建設会社の買収失敗だ。

 15年12月といえば同年2月に発覚した不正会計問題を受け、再スタートを切ったばかり。社外取締役が過半を占める取締役会を発足させるなどコーポレートガバナンス(企業統治)を強化したはずだったが、会社が傾くほどの経営の判断ミスを防げなかった。どれだけ優れた仕組みをつくっても“魂”を入れ替えるのは簡単でない。

 東芝が根底からの経営再建を実現するには何が必要か。日本航空の社外取締役を務めるなど実務経験も豊富な八田進二青山学院大教授(会計監査学)は「求められるのは新しい突破型リーダー。過去3―5年の経営を見直して非中核部門の売却など構造改革を徹底し、企業文化から変えるべきだ」と指摘する。

 現在、東芝を率いる綱川智社長は16年6月に就任した。比較的新しい医療機器部門出身で「色が付いていない立ち位置」(業界関係者)にいた。

 当時、成長事業に据えた原発と半導体メモリーの両事業の間に立つ調整役を期待され、白羽の矢が立った。自身も「私が期待されているのは、しがらみのない合理的な判断」と語っていた。

 しかし就任から半年足らずで原発の巨額損失問題が発覚。綱川社長の調整力や判断力が発揮される機会はなく、むしろメモリー事業売却では交渉の軸を定められず迷走を招いた。

 一方、「メモリー事業売却にも増資にも道筋を付けた。“乱世”の中、良くやっている」(主力行首脳)と評価する声もある。東芝は今後、「社会インフラ」を核に「エネルギー」「電子デバイス」「ICT(情報通信技術)ソリューション」の4領域の展開で経営再建を図る。

 以前より縮小したとはいえ、いまだ事業は幅広い。「今こそ全体最適を図れる調整型トップが必要ではないか」(業界関係者)との声もあがる。
 

日刊工業新聞2017年12月12日/13日/18日

後藤 信之

後藤 信之
12月23日
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東芝の社外取締役は「ここのところ東芝はトップに恵まれなかった」と語る。突破型リーダーに登板させるのか、それとも綱川社長の調整力発揮に期待をかけるか。“新生”東芝を軌道に乗せるため、トップ選びにもう失敗は許されない。

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