「周波数の壁」を操る東芝、海外原発撤退で見えてきた電力事業の未来
東芝は4月20日から5月6日まで国内グループ全拠点を異例の長期休業にした。新型コロナウイルス感染拡大防止が目的だが、一部の社会インフラ事業では例外もあった。
東芝エネルギーシステムズ(川崎市幸区)は飛沫(ひまつ)防止パーティション設置や共有部の消毒、感染者発生時の影響度把握のために製造品目の見える化などの対策を講じた上で、大型連休中も工場の操業を続けた。
「90年以上にわたって40カ国以上の国・地域にタービンや技術を提供しており、2017年12月に累計出荷容量が2億キロワットに到達した」と東芝エネルギーシステムズ取締役常務の小西崇夫は電力安定供給への責任を強く感じる。日本とインドの工場からのタービン累計出荷(火力・地熱・原子力・産業向け含む)は20年4月時点で国内1476機、海外539機の実績を持つ。
東芝社長の車谷暢昭は「世界的な潮流は『脱炭素化』にある。現状は再生可能エネルギーだけで世界のエネルギー需要を賄えないのは明白であり、最大限の安全性を確保しながら原子力発電と再生可能エネルギーの共存を目指す必要がある」と訴える。海外原発建設事業からは撤退したものの、国内で原発再稼働に向けた安全対策工事や廃炉、汚染水対策の最前線で今も貢献している。
今後の主な成長領域は再生エネと電力流通システムの2本柱だ。再生エネでは小規模からメガソーラーまで国内2700カ所以上の太陽光発電システム納入実績がある。
一方、発電量にムラがある再生エネの導入が進む中で需給バランスを安定化させるために、東京電力と東北電力のような隣接の電力系統同士で接続して電力を調整する「連系」が重要になる。
19年3月末に運転を始めた北海道と本州間をつなぐ連系設備には、交流・直流の電力変換を行う東芝の交直変換設備が使われている。片側が停電しても逆側から電力を供給して復旧させる「自励式」を採用。18年9月の北海道胆振東部地震後に起こった道内の大規模停電のような事態は今後防げるようになる。
東芝エネルギーシステムズ取締役の斎藤幸司は「電力のバランスを保つ手段として期待される新たなエネルギーサービスであるVPP(仮想発電所)の事業にも現在、積極的に展開している」と意気込む。再生エネや蓄電池、電気自動車などの分散電源をIoT(モノのインターネット)技術で束ねるVPPはまさに東芝の腕の見せどころだ。(敬称略)