ニュースイッチ

AIが生産計画を立案!製造現場に来たDXの波

AIが生産計画を立案!製造現場に来たDXの波

日立製作所がニチレイフーズに提供した「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス」

システム構築(SI)事業者の自動化ソリューションが製造業で実稼働し始めた。背景にあるのは「デジタル変革(DX)」の波。必要なデータをIoT(モノのインターネット)などで集め、人工知能(AI)で分析して経営に役立てる。ここにきて新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた事業継続計画(BCP)の観点も加わる。これらの対応にはデジタルを活用した取り組みが不可欠。今後一段と自動化ニーズが加速しそうだ。(川口拓洋)

最適化 需要変化に即応

日立製作所は、生産計画を人手から自動化システムへ置き換えられる「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス」を提供している。熟練者がさまざまな制約条件を踏まえながら策定していた計画立案をAIが行う。冷凍食品メーカーのニチレイフーズが活用。国内4拠点の食品工場に導入し、計画立案業務の時間を10分の1に短縮した。

これまで生産計画や要員計画は業務を熟知している熟練者が工場、ライン、生産品目や設備、納期、コストのほか作業者のスキルや勤務シフトなどの制約条件と過去計画履歴やノウハウに基づき立案していた。ニチレイフーズの場合では一つの工場につき最大16兆通りの組み合わせがあるという。

日立は機械学習と数理最適化(制約条件から最適解を見つける)技術を組み合わせ同サービスを構築する。熟練者の計画パターンを見える化、数値化、解析するほか、現場の各種データとかけ合わせることで実現した。

ニチレイフーズは同システムで生産・要員計画の従時間短縮が可能となっただけでなく、需要変化に即応する生産体制の構築と業務効率の向上などにつなげる。今後は国内11工場や海外工場へ順次展開・拡大する方針だ。

日立は同サービスをIoTプラットフォーム(基盤)「ルマーダ」のソリューションとして展開している。顧客のニーズに合わせクラウドやオンプレミス(自社設備)で構築する。特定のインプットからアウトプットを生成する計画業務に特化しているため業界や業種の限定はない。「鉄鋼や非鉄、石油、食品、陶業、化学向けに実績がある」(インダストリー事業統括本部事業戦略統括本部)とさらなる展開を目指す。

多数の制約条件 熟練ノウハウも自動処理

NTTデータは、キリンビールの濾過工程計画策定をAIで実現するシステムを提供する。キリンビールの福岡工場(福岡県朝倉市)に導入し、これまで1回当たり6時間半かかっていた計画策定を55分に短縮した。

濾過計画業務は、2週間―1カ月先のビールの製造計画に対して、工場内の製品タンクの貯酒量を元に貯蔵タンクから出る量と濾過して貯蔵する量を計画する。貯蔵タンクや濾過機、製造するビールの銘柄、使用した濾過機の洗浄に掛かる時間など多数の制約条件がある。これまではビール工場の熟練担当者がエクセルと紙を使い計画していた。

自動化システムでは、NTTデータセキスイシステムズ(大阪市北区)が持つ「制約プログラミング」を活用。機械学習やディープラーニング(深層学習)など膨大なデータから特徴を学習して答えを導くAIではなく、問題を制約の集合として記述することでコンピューターが制約を満たす回答を見つける技法を活用する。

NTTデータとキリンビールは、福岡工場のシステムを標準化して横浜工場(横浜市鶴見区)、滋賀工場(滋賀県多賀町)に展開。3工場合わせてシステム導入前に比べ年間で最大約2500時間の作業時間削減を見込む。20年中にはキリンビールの全9工場へ展開する。

現システムは「制約プログラミング」への帳票入力などでRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)を活用するが、将来的に統合業務パッケージ(ERP)との連携による計画の自動立案や制御システムとの連携により計画から実行までの全自動化を見据える。

「製造業の自動化はDXの流れ。競争力強化や人手不足対応のニーズは増えている」と話すのは同プロジェクトのシステム開発責任者で製造ITイノベーション事業本部第二製造事業部の金森幸治課長。

人間の脳内にあったルールを見える化し、システムに落とし込み、修正するというサイクルを回すことで、製造業とITという一見“言語”が異なるように見える領域の自動化実現に結びつけている。

IDCジャパン(東京都千代田区)が20年3月にまとめた「AIシステムに関する企業ユーザー調査」によると、AIシステムを全体的に利用している企業は前年比3・7ポイント増の16%だった。AIシステム利用企業に利用目的を聞いた質問では、品質管理が15%と最多。以下、ITオートメーション(13・4%)、高度なプロセスオートメーション、自動顧客サービスエージェントが10%だった。

一方、企業のAIシステム導入時の課題では、IT環境が複雑と答えた企業が同2・8ポイント増の17%、スキルと人材が不足が同7・3ポイント増の11・5%に増えている。

デジタル変革が工場や物流全体に広がる中、最新AIシステムを導入し続けられる人材育成が不可欠と言えそうだ。

【続きは日刊工業新聞電子版で】

編集部のおすすめ