トヨタが一足早く生産正常化にめど、強さの秘密はどこにある?
トヨタ自動車が、サプライチェーン(部品供給網)の強さを発揮している。新型コロナウイルスの影響で、日本でも稼働停止や生産調整を余儀なくされる工場がある中、トヨタは国内工場の正常稼働維持にめどをつけた。一時的に稼働を落としていた中国の工場でも、生産は通常時に戻りつつある。東日本大震災を機に策定した事業継続計画(BCP)の徹底と、国内を中心とした強固なサプライチェーンが、その生産を支えている。
「これを最終報とします」。4日、トヨタはサプライヤーに対しこう通達した。新型コロナの感染が拡大する中、緊急措置として国内工場の稼働状況を伝える定期報告を毎週行っていた。中国の生産状況は依然、不透明さが漂うが、緊急事態の終息を一時、宣言した格好だ。
トヨタは震災を機に強固なBCPを策定。サプライヤーに対しても「かなり厳しい要求があり、常にチェックされている」(トヨタグループ首脳)という。今では、ほぼ全ての品番で代替生産できる体制を整えている。
今回の新型コロナウイルスでは、トヨタは中国・武漢市が閉鎖された1月下旬頃から、サプライヤーに対し中国からの調達品目を調査。同時に大手部品メーカーを中心に、代替生産の検討も始めた。
例えばアイシン精機やジェイテクトが国内工場などで、中国で手がける部品の代替生産を実施。出社できない従業員がおり不安定な状況は続くが、逼迫(ひっぱく)した状況からは脱した。トヨタグループ首脳は「在庫を持たない生産のため、日頃から厳しい生産管理ができていることも要因の一つ」と指摘する。
トヨタのサプライチェーンの強みは、その連携体制にもある。サプライヤーが供給不安に陥った際はサプライヤー同士の協力はもちろん、トヨタが主導して主要サプライヤーの中で似た技術や設備を持つ別のメーカーをつなぐ。ある部品メーカー幹部は「有事の際に供給を止めないための最善策を直ちに考え、実行する“トヨタイズム”が、我々にも染みついている」と説明する。
今回は強さを見せつけたトヨタのサプライチェーンだが、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の時代にも強さを維持できるかは不透明だ。「電動化により部品点数が2分の1から3分の1になる」(駆動部品メーカー幹部)。各社は次の一手を模索するが、中小サプライヤーからは「生産に関する情報開示も含めてトヨタが閉鎖的になってきている」「中国での価格競争に毎年の原価低減が厳しくのしかかり、撤退も選択肢の一つだ」など、将来のサプライチェーンについて不安の声も聞かれる。
CASE時代でも強固なサプライチェーンを構築できるかは、トヨタが「モビリティカンパニー」へ変革する上での重要テーマになりそうだ。
(名古屋・政年佐貴恵)<関連記事>
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