「社内の空気は変わってきた」トヨタから初受注でホンダ系大手サプライヤーが得た果実

ケーヒン、開発効率で成果出始める。売上高7000億円へ第一歩

 売上高を倍増の7000億円に―。ホンダ系大手サプライヤーのケーヒンは2030年度をゴールとする長期ビジョンで野心的な目標を掲げる。その実現に向け、4輪の電動化対応や、ホンダ以外の自動車メーカーに受注を広げる「他販拡大」のテコ入れを打ち出した。6月には前社長の横田千年が相田圭一にバトンを渡した。新体制の下、ケーヒンは新事業の着実な成長と次世代への種まきに取り組む新ステージに入った。

 6月21日、都内で開いた株主総会。この日をもって社長を退任する横田が最後のあいさつで明らかにしたのが、ケーヒンとして初めてトヨタ自動車向けで部品を受注したことだった。横田は「自動車は部品が1個でも足りないと生産が止まる。量産メーカーとして信頼を得たということだ。社員らも喜んでいる」と話した。他販拡大を進める中で最大手の自動車グループの新規受注で花道を飾った。

 ケーヒンはホンダが約41%の株式を持つホンダ系サプライヤーとして2輪・4輪の制御系部品を得意とする。横田がホンダの米国生産担当の常務執行役員からケーヒンの社長に転じたのが16年。ホンダとの取引は売上高の8割以上を占める。

 ホンダとの深い取引関係に裏打ちされた事業の安定感はあるが、じくじたる思いも感じていた。「ホンダは販売台数を伸ばしているのに、当社の売上高は伸びていない」。

 ケーヒンの売り上げは3000億円台で停滞する。ホンダが新型車を開発する際、ケーヒンはホンダと一緒に部品を開発して受注する。しかし新型車の一部改良を機に受注を失うパターンが多い。「性能は良いが価格が高くなってしまう」と横田は振り返る。

 「社内の空気は変わってきた」。ケーヒンの事業統括本部長で代表取締役専務執行役員の阿部智也はこう話す。ケーヒンとして初めてトヨタ自動車向けの部品受注を獲得できたのは、開発の効率化などの施策が徐々に成果として表れ始めている証左と実感している。

 主要取引先のホンダ以外の自動車メーカーに受注を広げる「他販拡大」を強化しているケーヒン。阿部は「他社向けにあまり手もつけていなかった」と吐露する。ほぼすべての経営資源をホンダ向けに注ぎ込んでいただけに、ホンダ以外の拡販を進めるために効率化して他販に取り組む資源を生み出した。

 激しさが増す自動車業界の競争の中で生き残るために、ケーヒンも開発業務の効率化に本腰を入れ始めた。例えば、開発本部長で取締役常務執行役員の伊藤康利は「新しい製品を取り扱うにあたって技術の評価の仕方を変えた」と話す。

 従来は開発である程度形ができあがった後、製品の評価をしていた。だが、伊藤は「悪いモノを出さないことの確認は重要だが、新しい製品を開発するのに手遅れになる場合もある」とし、開発の前段階でどんな仕様にするかなどの議論を進めていくことで開発の効率化につなげた。

 営業面でも効率化の手応えが出ているようだ。営業担当の上席執行役員の島田育宜は「対応のスピードが速まり、開発と営業の一体感があると評価される」と胸を張る。

 現在、ホンダ以外の国内外18社から多くの引き合いがあるが、島田は「我々と顧客にとって効率の良い仕事をうまく合致させたい」と高収益につながる案件を選別する考え。

 2輪と4輪の部品を扱うケーヒンならではの強みもシナジーにつなげる。アジアではガソリン系部品に注力し、2輪事業でのスケールメリットを生かしながら4輪事業の競争力を高める。中国では電動化製品を中心に地場メーカーへの提案も強化する。社長の相田圭一は6月の就任から積極的に顧客へのあいさつ回りもしており、島田は「さらに発展できる動きができるはず」と力を込める。

 生産本部長で代表取締役専務執行役員の今野元一朗も、「開発と生産も一体で取り組んでいる。トヨタの仕事をいただくにあたってさまざまなことを勉強してきた。

 人や物の動きも含めて工程数を減らしていく」とさまざまな需要に対応できる新たな生産ラインの構想も見据える。新たな受注や効率化策の具現化でコスト競争力も高まってきた。ホンダ系サプライヤーとしての進化が姿を表しつつある。
(敬称略)
                 

日刊工業新聞2019年8月6日の記事に加筆

  

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