【動画あり】トヨタが作る実証都市、美しいデザインの向こうに乗り越える課題は大きい

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コネクテッド・シティのデザイン(同社公式サイトより)

トヨタ自動車があらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクテッド・シティ」を静岡県に設ける。実際に人が住む環境の中で、自動運転やMaaS(乗り物のサービス化)などのモビリティーの新潮流を取り入れる。さらに「車」とは違う居住領域にもロボットやセンサーを導入し、生活全体に関わる新しいビジネスモデルを確立する。データに基づく広範囲なサービスを提供できるかが企業の成長を左右する局面となりつつある。

「技術を使って、新しい都市と生活を楽しむ新しい“道”を織っていきたい」。米ラスベガスで世界最大規模の家電・IT見本市「CES」が開幕する前日の6日(日本時間7日)、会見した豊田章男トヨタ社長は実証都市構想の狙いをこう強調した。

2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本の東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に広大な実証の場を建設する。将来的には約70万平方メートルの範囲で街を作る。21年に着工する予定だ。街中には自動運転機能を搭載した箱形の電気自動車(EV)「eパレット」などが走り、歩行者と低速モビリティーが共存する道路や公園歩道を設けるなど、快適な交通環境を整備する。

住宅では室内用ロボットを検証するほか、センサー、人工知能(AI)活用による健康状態の確認や生活の質(QOL)の向上を図る。トヨタが事業の拡大を進めるMaaSでは、車を移動だけではないサービスの手段と捉える。今後は住宅など、車の領域以外から取得したさまざまなデータをいかに取得できるかが勝負となる。トヨタだけでは完結できないことから、参加企業も募る。豊田社長は「このプロジェクトはトヨタだけではなく、皆にとって有益なものだと信じている」と話す。

トヨタは、スマートシティーも手がけるパナソニックと住宅事業を統合し、共同出資会社「プライムライフテクノロジーズ」が1月に発足。トヨタとパナソニックは車載用電池事業の統合も決めており、エネルギーから住宅、街づくりまでをトータルでカバーできる。パナソニックが参画企業の1社に名を連ねる公算は大きい。

街の名前は網の目のように道が織り込まれ合う街の姿から英語で「織る」を意味する「ウェーブ」を取り、「Woven City(ウーブン・シティー)」と名付けた。当初はトヨタ従業員や実証に参加する企業の関係者ら2000人程度が街に住む。都市設計には米グーグル新本社などの設計にも関わったデンマーク出身の建築家ビャルケ・インゲルス氏が務める。

トヨタは18年のCESで「モビリティカンパニー」への変革を宣言。以降、eパレットやMaaS事業を手がけるソフトバンクとの共同出資会社設立などを実現してきた。19年には「モビリティサービスプラットフォーマー」として技術からハードウエア、サービスまで「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の各分野でプラットフォームを提供する方針を示した。

自動運転やAIといった技術の向上はもちろん、人々の暮らしと、そこに関わる移動をシームレスにつなぎサービスを実現するには、日常生活にまつわるデータをいかに集めるかがカギとなる。その解がコネクテッド・シティだ。豊田社長は「ゼロから街を作り上げる機会は、非常に小さな規模であったとしても千載一遇のチャンスだ」と力を込める。

一方、今回の決定の背景には海外の競合との開発競争の激化がある。米国ではグーグル系のウェイモが、18年末にアリゾナ州で自動運転タクシーのサービスを始めた。公道での走行試験も着実に積み重ね、走行距離は1000万マイル以上にも及ぶとされる。19年11月には自動運転タクシーの無人化に踏み切った。トヨタ関係者は「北米は徹底的に自動運転にシフトしてきている」と指摘する。

また中国でも政府のかけ声の下、開発競争が加速。トヨタ関係者は「中国のスピード感は驚異的だ」と危機感を示す。例えばIT大手の百度(バイドゥ)は、トヨタも参画する自動運転の開発連合「アポロ計画」を率いる。同社は湖南省などと提携し、スマートシティー整備に着手。同省では19年に完全自動運転タクシーの試験サービスを始めた。他にも滴滴出行やポニー・エーアイなど、自動運転開発会社が次々と立ち上がっている。

日本も政府が特区戦略を推し進めるなど基盤は整いつつあるが、規制などに阻まれ「先進国の中で日本が進んでいるかというと、必ずしもそうではない」(自動車メーカー関係者)。トヨタが独自でコネクテッド・シティに参入するのには、開発した技術を導入、実証、検証するサイクルを加速させる狙いがみえる。豊田社長は常々「道がクルマを作る」とのポリシーを大切にしている。トヨタが新たに作る“道”が、どのようなサービスやモビリティーを作り上げるのか注目される。

プロジェクトはトヨタだけではなく、皆にとって有益なものだ…と豊田トヨタ社長
(米ラスベガス=日下宗大、名古屋・政年佐貴恵)

日刊工業新聞2020年1月8日

COMMENT

中西孝樹
ナカニシ自動車産業リサーチ
代表

トヨタの狙いはスマートシティに対応したデータベース、OS、AIのプラットフォーム作りにあるだろう。流行りのスマートシティ構想はIT企業が主導するケースが多い。モビリティの変革を中核に人々の暮らしが変わるとしたら、自動車メーカーの視点から街づくりを進める意義は大きい。これは世界規模のプロジェクトに匹敵する有力な実証実験となるだろう。 プレス発表後の現地メディア向けラウンドテーブルでは、暮らす人々のプライバシー、データセキュリティ、自動運転と歩行者の交差(混在)リスク、人体実験にならないかなど、比較的慎重なスタンスに立った関心や質問が多かったことが印象的。美しいデザインの向こうには乗り越える課題が大きいことも事実だ。

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