孫さんは、はやる気持ちを抑えながらトヨタ社長を出迎えた

章男社長も覚悟を決めた

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 ソフトバンクグループ(SBG)の基本戦略は「群戦略」。2017年にサウジアラビアの政府系ファンドなどと発足した10兆円規模のファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を中核に、各種サービスで世界トップのベンチャー企業などに20―40%を出資しファミリー企業群を形成、相乗効果を生む。

 数多い先進技術の中でも、人工知能(AI)はSBG会長兼社長の孫正義が「人類史上最大の革命。すべての産業を再定義する」との認識で力を注ぐ。米ウーバー・テクノロジーズなどのライドシェア(相乗り)大手もこの範疇(はんちゅう)だ。

 そして孫は「モビリティAI群戦略」という表現を持ち出し、モビリティー(移動)関連のAI企業への投資の充実ぶりをアピールする。そこにはライドシェアや、16年に約3兆3000億円で買収した半導体設計の英アームのほか、画像認識・処理や自動運転、マップ、リース・レンタル、物流などの有力企業が含まれる。

 ソフトバンク副社長の宮川潤一は最近のSBGの動きを「今までの通信会社のソフトバンクとはイメージが違う」と説明する。トヨタ自動車は通信会社大手のKDDIの第2位株主で関係も密。だが、SBGとの提携は立ち位置が異なる。宮川は「異色な組み合わせ。しかしながら、日本連合で世界に打って出ようというつもりで握手した」と狙いを語る。

 自動車業界には異業種も参入するなど世界的に競争が激化しており、トヨタはSBGの力が必要だと判断した。これは過去のトヨタとSBGの関係性と大きく異なる。

 トヨタとSBGが設立する共同出資会社「モネテクノロジーズ」は、乗り物のサービス化「MaaS(マース)」のプラットフォーマーを目指す。自動車メーカーとライドシェア企業などとの間で、次世代MaaS車両のサービス企画や営業、車両リース、運営代行を担う。この「第三の事業体」の必要性を両社が共有した。

 提携に向けてはトヨタ社長の豊田章男から孫に会いに行った。豊田が孫を訪れるのは2度目だ。1度目は約20年前で豊田は課長、トヨタ副社長の友山茂樹は係長だった。当時2人はインターネットを使いトヨタ販売店で中古車の在庫確認や商談ができる「ガズー・ドット・コム」を立ち上げ、新車にも利用しようと奔走していた。

 その頃、孫はトヨタにある提案をした。それは、インターネット新車見積もりサービスの国内のトヨタ販売店への導入だ。ガズーを育成中で、血気盛んだった豊田は、友山とともに孫の元に出向いて提案を断った。

 当時の「ガックリした」気分と大きく異なり、孫は今回、はやる気持ちを抑えながら豊田を出迎えた。

「水と水を合わせても水」


 「誰しもが想像するけど、組まないだろうなと思っていた組み合わせ」。クルマへの造詣が深く、日本自動車工業会(自工会)のアンバサダーも務めるタレントのマツコ・デラックスは、10月上旬のイベントでトヨタとSBGの移動サービス事業での提携について率直な感想を漏らした。両社の交流は、これまでほとんどなかった。

 豊田は「水と水を合わせても水」と、得意分野が違うもの同士が提携する意義を強調。孫は「そういう時代がきた。人工知能(AI)を突き詰めて、モビリティー(移動)を突き詰めると時代が両社を引き合わせた」と解説する。

 「モネテクノロジーズ」は、システム系やAI系の出向者約30人で始動する見込み。プラットフォーマーとしてライドシェア(相乗り)などの事業者や自治体にサービスを提供する。移動型のコンビニエンスストアやオフィス、フードデリバリー、病院送迎を過疎地などで導入していく。

 まず、既存車両をスマートフォンなどを使って呼び出すオンデマンドモビリティーサービスを展開。2020年代半ばには、トヨタが開発中のMaaS専用の自動運転機能付き電気自動車(EV)「eパレット」の活用を想定する。モネの社長に就任するソフトバンク副社長の宮川潤一は「規制緩和を待ちながら、来るべき自動運転の時代に向かって下地をつくっていく」という。

 「今回の提携の最終的な姿は、eパレットを実用化するところにある。23年には商用化に向けた開発を進める」とトヨタ副社長の友山茂樹は語る。

 イメージ先行のeパレットの出口戦略として、今回の提携はばっちりはまる。孫は自動運転車を「半導体の塊」と捉えて、当初はコストが大幅に高くなることから筆頭株主となっている世界のライドシェア大手が最大顧客になると踏む。さらに「第2弾、第3弾のより深い、広い提携が進むことを願う」と意欲的だ。

 他社でもホンダと提携した米ゼネラル・モーターズ(GM)はライドシェア大手の米リフトにも出資し、独フォルクスワーゲン(VW)は今夏に子会社MOIA(モイア)でライドシェアを始めるなど動きは活発だ。

 自動運転やライドシェアの進展について愛知県内の部品メーカー幹部は「生産台数や部品の売り上げはどうなるのか。中長期的には自然な流れなので、動向をみながら対応していくしかない」と身構える。

 「対立軸をつくってはいけない」と日頃から語る豊田。SBGとの連合で「まだ見ぬ未来のモビリティー社会を現実のものとする」と覚悟を決めた。
eパレットをバックにプレゼンする豊田社長

 (敬称略)

日刊工業新聞2018年10月15日、10月16日

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