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新しい発想は偶然から…大ヒット玩具「∞プチプチ」生んだアイデア論

連載・発想のスイッチの入れ方#03/おもちゃクリエーター・高橋晋平

ルーティンを作ろう

 ―おもちゃ開発者としての15年間で培った今のアイデア発想法を教えてください。
 ランダム思考でとにかく質を問わずに量を出し、その中からターゲットや需要の観点で論理的に選んで答えに近づけます。例えば会議に5案提出しないといけない時はその方法で提案書を作る。その上で自分は追い詰められるとアイデアが出るので、提出期限1時間前にもアイデア出しに取り組みます。もし出たらそれも提案書に盛り込んで会議に出かけます。ただ、いざ電車に乗って向かっているときにラスト1案が出ることがよくあります。一生懸命考えた後にリラックスしているからでしょうね。ラスト1案が浮かんだら、提案書には盛り込めないので会議の冒頭に紹介します。これが私のルーティンです。

 ―アイデア作りに他人の意見をどう生かしていますか。
 意見を聞くというよりも自分が話して気持ちよくなるためにアイデアを考えている段階で最も緊張しない妻に説明します。うなずいたり笑ったりしてもらいながら無意識に話していると、別のアイデアが出ることがあります。あとはこのアイデアがいけるという段階で、外部の10人にそれが欲しいかを聞きます。このときに「アイデアが否定されたら嫌だな」と緊張していたらその時点でアイデアは弱い。否定されてもなんとも思わないのであれば勝てると思っています。3人連続で「いらない」と言われたら落ち込んで駄目だと気づくこともあるのですが。

 ―他人のアイデアでスゴいと思ったものはありますか。
 我々の会社名の「ウサギ」です。共同経営者のトーマス・ティールが考えたのですが、天才かと思いました。いざ社名を決めようと二人でアイデアを持ち寄ったとき、私はかっこいい横文字とかちょっとひねった漢字とかを出していたのですが、彼のアイデアの中に「ウサギ」があって即決しました。具体的に良いところを説明するのは野暮ですが、一つは取引先に「ウサギさん」と呼ばれるところがいい。それから会社自体が優しいイメージになってきていて、社名一つでここまで方向性が決まるのかと思っています。独立して5年経過しますが「ウサギ」よりいい作品はまだ出せてないかもしれません(笑)。

 ―一般のビジネスパーソンに対し、アイデア出しのアドバイスをください。
 アイデア出しのルーティンは一人一人違うのでそれを見つけて欲しいと思います。まず、大原則としてランダム思考で量を出すことから始めて欲しい。ただ、量の出し方は人によって違う。私は「しりとり最強説」を唱えています。しりとりで出た言葉やその言葉から連想するモノとお題を掛け合わせてアイデアを考えます。例えばお題がオモチャで、しりとりで「カラス」というワードが出た場合はカラスのオモチャや、カラスから夕焼けをイメージして夕方に帰りたくなるオモチャ、カラスはゴミを漁るからゴミを散らかしたら怒るオモチャとか。しりとりは出てくる言葉のランダムの度合いが高いので発想の幅が広がりやすい。ただ、人によっては辞書を適当に開いて言葉を選ぶでもいいし、思いつく動詞や形容詞を使ってもいい。とにかく自分が楽にたくさん早く思いつく方法を見つけて欲しいと思います。

 それから飽きずにアイデアを出し続けられるジャンルを見つけることも大事。どんな仕事も得意分野があった方がいいし、万能にアイデアを出せる人間になる必要はないと思います。私自身、アイデア出しの専門家を名乗りながら、出せない方向性がたくさんあります。

【略歴】1979年、秋田生まれ。おもちゃクリエーター。04年バンダイに入社し、国内外累計335万個を販売した「∞プチプチ」のほか「ヒューマンプレイヤー」「5秒スタジアム」「3億円」など、50点以上のおもちゃの企画開発、マーケティングに携わった。14年にウサギを設立し、オモチャ・ゲームなどの企画開発を始め、各種企業と共同での新製品・新サービスの開発に携わる。クイズ制作や執筆、講演などでも活躍中。著書に「一生仕事で困らない 企画のメモ技」(あさ出版)など。

連載・発想のスイッチの入れ方

#01 G-SHOCK・伊部菊雄(11月18日公開)
 #02 ぷよぷよ・米光一成(11月21日公開)
 #03 ∞プチプチ・高橋晋平(11月25日公開)
 #外 博報堂のアイデア発想AI(11月28日公開)
 #04 空調服・市ヶ谷弘司(12月2日公開)
 #05 ガリガリ君・鈴木政次(12月5日公開)

葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
「∞プチプチ」の生みの親である高橋晋平さん。「しりとり最強説」などアイデア発想法はもちろん面白かったのですが、それ以上に∞プチプチ誕生の経緯にあるアイデア発想後からやり遂げるまでの熱意にビジネスパーソンの一人として胸が熱くなりました。

特集・連載情報

発想のスイッチの入れ方
発想のスイッチの入れ方
ビジネスの現場においてアイデアが求められる機会は多いですが、その発想に苦慮される方も多いのではないでしょうか。ではベストセラー商品などを生み出した人たちはどのように発想したのでしょう。自身のアイデア発想法などとともに聞きました。

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