GAFAに対抗する「オールトヨタおやじの会」

変革期こそ原点回帰、人材育成・現場力を柱に

元町工場(愛知県豊田市)の組立ライン

 変革を迫られる自動車業界で各社が生き残りをかけた深謀遠慮を巡らす中、トヨタ自動車は原点回帰を戦略軸の一つに据えた。人材育成による「人間力」と原価改善による「競争力」の強化が柱だ。トヨタの歴史そのものである二つのテーマは、新時代に何をもたらすか。豊田章男社長の「トヨタらしさを取り戻す」という大号令のもと、その動きを加速している。

 「もう一度トヨタの強みを取り戻すには、創業期に立ち返り全員が変化の時代を戦い抜くプロになる必要がある」―。人事担当の河合満副社長は7日の決算会見で、こう宣言した。

 景気低迷などで同業他社が苦戦する中、トヨタの2019年4―9月期連結決算は売上高と純利益が過去最高を更新する好調ぶり。

 一方、河合副社長による「大変革時代の人づくり」と題されたスピーチには、好業績に慢心せず、常に危機感を持ち競争力を高めてほしいとの社内向けのメッセージが込められている。

 河合副社長は、本社が企画・意思決定して現場で遂行するなど「(企業の)拡大期の教育や人事制度は、大きく見直す必要がある」と指摘。トヨタの本来の強みであった現場で即断即決できる人材の育成が、不十分なことを明らかにした。

10月の労使交渉では、人材育成の新たな方策として、評価基準の変更と現場主体へのシフトを掲げた。評価方法では全職種・資格に対し「人間力」と「実行力」を基準に、周囲の信頼や他者との協調などを判断要素とする。新人や若手は現場重視の配置に軸足を置き、「現場で自ら考え行動し専門性を徹底的に磨き上げてもらう」(桑田正規総務・事業本部副本部長)考えだ。

車メーカーや異業種のIT企業などと連携を加速するトヨタ。原点回帰はここでも不可欠な要素となっている。河合副社長は「アライアンスは単に会社同士が技術や情報を出し合わせるだけでなく、互いの知恵や経験を知ることで相乗効果を生み出す」と話す。長年の現場経験で得た実感が、その根底にある。

互いの連携が競争力につながった事例として挙げたのが、トヨタグループで18年に立ち上げた「オールトヨタおやじの会」だ。

現場のベテラン技術者である“おやじ”が、電話1本で協力できる関係性を構築。今では現場の設備で不具合が出た際など、すぐに動き出せる体制になっているという。「アライアンスには、まず『この会社、あの人と一緒にやりたい』と選んでもらえる人間力が必要。自ら挑戦してやり抜く人を作り、強化することが大きな競争力になる」(河合副社長)。

トヨタの原点回帰の神髄とも言えるのは、トヨタ生産方式(TPS)による原価低減だ。新時代を生き抜くには、莫大(ばくだい)な投資が必要。トヨタ幹部は、トヨタがベンチマークする米巨大IT4社「GAFA」に対抗するには「2兆円の利益でもまだまだ足りない」と漏らす。その原資を生み出すのは工場だ。生産現場の力を高めることこそが、未来への投資と競争力に直結する。

豊田章男社長は「『TPS』と『原価を作り込む力』こそがトヨタにしかないオリジナルの競争力だ」と言い切る。「仲間づくり」で広がった連携先の強みも取り入れながら、時代の変化にぶれない競争力を磨き上げる。
(取材=名古屋・長塚崇寛、政年佐貴恵)

日刊工業新聞2019年11月8日

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