SNS映えの算段もつく、楽天がVRで挑む「楽しい洋服選び」の形
楽天技研とズーティー、実証実験を進める
楽天技術研究所とズーティー(神戸市中央区)は、アバター(仮想空間上の分身キャラクター)に扮(ふん)した店員がVR(仮想現実)技術により遠隔地から接客するシステム「Vpro」の実証を進めている。姿見鏡代わりのディスプレーにVR店員が入り込み、店頭の商品と楽天市場の商品を組み合わせたスタイルを提案する。東京と神戸の店舗を結び運用性を確かめた。遠隔勤務や時短勤務などスタイリストの働き方の自由度も広げる。
「店舗の買い物もアマゾンライクになってきている。商品を取ってレジに行くだけ。本来、洋服選びはもっと楽しいはず」とズーティースタイリングラボの石川直子所長は、ため息をつく。スマートフォンですでに服を選んでいる客は、店舗では試着と支払いしかしないこともある。店のスタイリストに意見を求めることもなくなる。「店員と話すと『買わされる』と思っている方もいる。本当はスタッフと遊ぶような感覚で洋服選びを楽しんでほしい」(石川所長)という。
ズーティーは、インターネットと店舗の両方を構えるセレクトショップだ。店舗はスタイリストと客とのコミュニケーションの場。ズーティースタイリングラボも同社がスタイリング提案のために東京・北参道に構えた。スタイリストは、より細く、よりかわいく見せたい女性の相談相手になる。ただ、店舗に置ける商品の数には限界がある。服のサイズはS、M、Lの売れるものが中心になる。カラーバリエーションが20色ある商品もあり、店頭在庫の制約は悩ましい。
そこで楽天技研とVproの実証実験を進めている。実験では600商品をVR環境に用意した。姿見鏡ディスプレーに自身を映して商品を重ねて見る。体へのフィット感は店頭商品を試着して確認し、色や小物はVRで試せる。アバターはウサギの着ぐるみで、ボイスチェンジャーでアニメ声に変換した。石川所長は「キャラにして“恩着せ感”をなくした。プレッシャーを感じやすい方も楽しんでもらえる」と話す。
システム構成はシンプルだ。姿見鏡をディスプレーに置き換えれば店舗の雰囲気を壊さず導入できる。ディスプレーに客を映し、遠隔操作で働く店員アバターをVRで合成する。機器はすべて市販品で構成した。楽天市場に登録された商品写真を流用するためコンテンツ制作の負荷はない。アバターの操作はVRゲームと同様、15分もあれば慣れるという。
楽天技研の益子宗シニアマネージャー(筑波大学教授)は「店舗は撮影から表示まで遅延がほぼない。鏡のように自然に使える」と胸を張る。アバターの操作は遠隔地から動きのデータを送り、アバターは店舗のパソコンで描画する。データ量を抑え、通信状況によらず安定して稼働する。
技術的にはディスプレーの色調を変えて、暖色系の照明や太陽光での色を再現したり、背景を旅行先やホテルのシーンと組み合わせたりできる。画像処理系のVRアプリでできることはほぼ試せるため、服を買う前にSNS映えするか算段がつく。東京―神戸間の遠隔接客に成功し、次は多店舗の遠隔接客を実証する。ネットとリアルの融合が深まっている。
(文=小寺貴之)
「店舗の買い物もアマゾンライクになってきている。商品を取ってレジに行くだけ。本来、洋服選びはもっと楽しいはず」とズーティースタイリングラボの石川直子所長は、ため息をつく。スマートフォンですでに服を選んでいる客は、店舗では試着と支払いしかしないこともある。店のスタイリストに意見を求めることもなくなる。「店員と話すと『買わされる』と思っている方もいる。本当はスタッフと遊ぶような感覚で洋服選びを楽しんでほしい」(石川所長)という。
ズーティーは、インターネットと店舗の両方を構えるセレクトショップだ。店舗はスタイリストと客とのコミュニケーションの場。ズーティースタイリングラボも同社がスタイリング提案のために東京・北参道に構えた。スタイリストは、より細く、よりかわいく見せたい女性の相談相手になる。ただ、店舗に置ける商品の数には限界がある。服のサイズはS、M、Lの売れるものが中心になる。カラーバリエーションが20色ある商品もあり、店頭在庫の制約は悩ましい。
そこで楽天技研とVproの実証実験を進めている。実験では600商品をVR環境に用意した。姿見鏡ディスプレーに自身を映して商品を重ねて見る。体へのフィット感は店頭商品を試着して確認し、色や小物はVRで試せる。アバターはウサギの着ぐるみで、ボイスチェンジャーでアニメ声に変換した。石川所長は「キャラにして“恩着せ感”をなくした。プレッシャーを感じやすい方も楽しんでもらえる」と話す。
システム構成はシンプルだ。姿見鏡をディスプレーに置き換えれば店舗の雰囲気を壊さず導入できる。ディスプレーに客を映し、遠隔操作で働く店員アバターをVRで合成する。機器はすべて市販品で構成した。楽天市場に登録された商品写真を流用するためコンテンツ制作の負荷はない。アバターの操作はVRゲームと同様、15分もあれば慣れるという。
楽天技研の益子宗シニアマネージャー(筑波大学教授)は「店舗は撮影から表示まで遅延がほぼない。鏡のように自然に使える」と胸を張る。アバターの操作は遠隔地から動きのデータを送り、アバターは店舗のパソコンで描画する。データ量を抑え、通信状況によらず安定して稼働する。
技術的にはディスプレーの色調を変えて、暖色系の照明や太陽光での色を再現したり、背景を旅行先やホテルのシーンと組み合わせたりできる。画像処理系のVRアプリでできることはほぼ試せるため、服を買う前にSNS映えするか算段がつく。東京―神戸間の遠隔接客に成功し、次は多店舗の遠隔接客を実証する。ネットとリアルの融合が深まっている。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2019年5月23日