祖業の“ミシン”手放すアイシン精機の覚悟
「危機感の表れだ」(伊勢社長)
家庭用ミシン、ベッド事業から撤退することを決めたアイシン精機。ミシンは1946年から手がける祖業で、ベッドは66年に「トヨタベッド」として販売を始めた歴史ある事業。赤字が続いていることや、主力の自動車部品事業との相乗効果が見込めないことなどから撤退を決めた。他社への事業譲渡の可能性も探る。同社は経営体質強化の目的で事業再編を進めている。不採算事業からの撤退で体質改善を加速する。
ミシンの国内販売は4月に、ベッドは本年度中に販売を停止する。ミシンとベッド事業の売上高は計40億円程。それぞれ約130人、約100人の人員は自動車事業などに再配置する。ベッドは安城工場(愛知県安城市)で、ミシンは同工場と中国の生産子会社で生産していた。
伊勢清貴社長は「創業以来の事業だが、激しい時代の変化の中で撤退は不可欠だった。これだけの意思決定をしたことは、危機感の表れだ」と話す。
アイシン精機・伊勢清貴社長インタビュー
―バーチャルカンパニー(VC)制の意義をどう受け止めていますか。
「カンパニー制はトヨタ自動車時代にも経験していたが、アイシン精機のはそれとは異なる。従来の分社化で小さく分かれすぎた事業をある単位で固めて、ムダの削減や経営資源のシフト、選択と集中を行うための体制だと認識している。自然な動きで違和感はない」
―就任前からVC制がスタートしていました。
「VC制の策定は伊原保守前社長時代のものだが、方針を変えるのではなく、もっとスピードアップさせる方向を明確に示した。就任時に策定した行動指針の一つに『あらゆる壁を打ち破る』という文言があるが、その大きな柱がVCだ」
―自動車以外の異業種も巻き込んだ競争に備え、競合各社が投資を活発化しています。
「我々もCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に対応できる企業行動に変える。そのためには筋肉質にしなければならない。この二つを同時に実現するのが喫緊の使命だ。例えば、同じ土地にいるのに別の社長が就いていた熊本県の子会社2社では、1月1日付けで社長職を統合した。グループ同士の社長や役員の統合もムダを省く一つの手段だ。国内外でどんどん進める」
―生産面での効率化策は。
「アイシンはさまざまな部品を国内外で作っており、これまでは個社で生産性を追求してきた。右肩上がりで台数が伸びている時代なら数を稼ぐ点で貢献したが、今は量を追うのではなくムダを省き効率化していく局面だ。同じ部品を作っている工場の生産性を『見える化』し、最も優れた工程を他工場に移植する。2018年10月にようやく全体の見える化ができた。横串を刺してグループ連携を進める」
―見える化とは。
「同じ部品を作る工場の全工程について生産性や廃棄率などを数字にし、2-3カ月ごとにチェックして改善する。良い工程や作業は映像に撮って横展開に生かす。映像は海外にも応用しやすい」
―本社機能や管理部門もそれぞれの会社に存在します。
「重複を減らして最も効率化したい部分だ。すでに米国などで顕在化しているが、今後は人の採用も簡単にはいかないだろう。いかに人手をかけず、固定費を減らすかが大切になる。試験研究費や設備投資は先行投資なのでやらねばならない。それ以外の固定費をどう減らすかが、経営の大きなテーマだ」
―これまでは専業化で事業スピードを高めてきました。VC化で鈍る懸念は。
「意思決定の仕方は意識して設計しており、複雑にはなっていない。例えばパワートレーンは重点分野で特に気を配る必要のある事業だが、1週間に1回程度は会合を開き意思決定している。優先度を決めれば、経営スピードは決して意思決定の方法だけに影響されるものではない。それよりも、この1年アイシンを見てきてムダの方が気になっている。これまでは細分化しすぎた面がある。VC化による取捨選択の効果の方が大きいのではないか」
―電子部品から車体まで広範な製品領域を抱えます。選択と集中をどう進めますか。
「本当に競争力があるのか。それが全てだ。今は競争力がなくても将来性があるなら力を入れねばならないが、そのどちらでもなければ再編しないといけない。市場で1位、2位の製品に集中する」
―注力領域は。
「CASEが大きなテーマだ。18年から本格的に経営資源のシフトや、工場の組み替えなども実施している。アイシンの特徴が生かせる所に集中する。特に電動化は重点分野で、手放す気はない。モーターやそれに適したユニット、ギア、電動ブレーキや電動オイルポンプなど、電動化に関わる周辺部品は全て手がけている。アイシンとして方向性をそろえてやっていく」
ミシンの国内販売は4月に、ベッドは本年度中に販売を停止する。ミシンとベッド事業の売上高は計40億円程。それぞれ約130人、約100人の人員は自動車事業などに再配置する。ベッドは安城工場(愛知県安城市)で、ミシンは同工場と中国の生産子会社で生産していた。
伊勢清貴社長は「創業以来の事業だが、激しい時代の変化の中で撤退は不可欠だった。これだけの意思決定をしたことは、危機感の表れだ」と話す。
日刊工業新聞2019年4月29日
「市場で1位、2位の製品に集中する」
アイシン精機・伊勢清貴社長インタビュー
―バーチャルカンパニー(VC)制の意義をどう受け止めていますか。
「カンパニー制はトヨタ自動車時代にも経験していたが、アイシン精機のはそれとは異なる。従来の分社化で小さく分かれすぎた事業をある単位で固めて、ムダの削減や経営資源のシフト、選択と集中を行うための体制だと認識している。自然な動きで違和感はない」
―就任前からVC制がスタートしていました。
「VC制の策定は伊原保守前社長時代のものだが、方針を変えるのではなく、もっとスピードアップさせる方向を明確に示した。就任時に策定した行動指針の一つに『あらゆる壁を打ち破る』という文言があるが、その大きな柱がVCだ」
―自動車以外の異業種も巻き込んだ競争に備え、競合各社が投資を活発化しています。
「我々もCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に対応できる企業行動に変える。そのためには筋肉質にしなければならない。この二つを同時に実現するのが喫緊の使命だ。例えば、同じ土地にいるのに別の社長が就いていた熊本県の子会社2社では、1月1日付けで社長職を統合した。グループ同士の社長や役員の統合もムダを省く一つの手段だ。国内外でどんどん進める」
―生産面での効率化策は。
「アイシンはさまざまな部品を国内外で作っており、これまでは個社で生産性を追求してきた。右肩上がりで台数が伸びている時代なら数を稼ぐ点で貢献したが、今は量を追うのではなくムダを省き効率化していく局面だ。同じ部品を作っている工場の生産性を『見える化』し、最も優れた工程を他工場に移植する。2018年10月にようやく全体の見える化ができた。横串を刺してグループ連携を進める」
―見える化とは。
「同じ部品を作る工場の全工程について生産性や廃棄率などを数字にし、2-3カ月ごとにチェックして改善する。良い工程や作業は映像に撮って横展開に生かす。映像は海外にも応用しやすい」
―本社機能や管理部門もそれぞれの会社に存在します。
「重複を減らして最も効率化したい部分だ。すでに米国などで顕在化しているが、今後は人の採用も簡単にはいかないだろう。いかに人手をかけず、固定費を減らすかが大切になる。試験研究費や設備投資は先行投資なのでやらねばならない。それ以外の固定費をどう減らすかが、経営の大きなテーマだ」
―これまでは専業化で事業スピードを高めてきました。VC化で鈍る懸念は。
「意思決定の仕方は意識して設計しており、複雑にはなっていない。例えばパワートレーンは重点分野で特に気を配る必要のある事業だが、1週間に1回程度は会合を開き意思決定している。優先度を決めれば、経営スピードは決して意思決定の方法だけに影響されるものではない。それよりも、この1年アイシンを見てきてムダの方が気になっている。これまでは細分化しすぎた面がある。VC化による取捨選択の効果の方が大きいのではないか」
―電子部品から車体まで広範な製品領域を抱えます。選択と集中をどう進めますか。
「本当に競争力があるのか。それが全てだ。今は競争力がなくても将来性があるなら力を入れねばならないが、そのどちらでもなければ再編しないといけない。市場で1位、2位の製品に集中する」
―注力領域は。
「CASEが大きなテーマだ。18年から本格的に経営資源のシフトや、工場の組み替えなども実施している。アイシンの特徴が生かせる所に集中する。特に電動化は重点分野で、手放す気はない。モーターやそれに適したユニット、ギア、電動ブレーキや電動オイルポンプなど、電動化に関わる周辺部品は全て手がけている。アイシンとして方向性をそろえてやっていく」
日刊工業新聞2019年3月28日
日刊工業新聞2019年4月29日