「扇情的な鏡」で感情の操作が可能に?

おすすめ本の本文抜粋「トコトンやさしいVRの本」(廣瀬通考 監修)

 人は「悲しいから泣く」のか「泣くから悲しい」のかと いう命題に対して、「泣くから悲しくなるようだ」と いうことが心理学の研究から明らかになってきました。 例えば、末梢起源説では、心臓の動悸や筋肉の動き の変化など、外部からの刺激によって身体に反射的に起きる変化を知覚することが感情の経験につながるとしています。

 また、擬似的に作り出した身体的な変化によっても、 感情や感情と関連する主観的な体験を変化させられ ることがわかっています。 過去の実験では、自分のも のとは異なる虚偽の心拍音を自身の心拍音であるか のように聞かせることで、写真に写る人物の魅力度 を操作できることがわかりました。

 研究者の立場からいえば本意ではありませんが、「バ ーチャルリアリティは騙しの技術」という人もいるくらいで、偽の身体感覚を作るのはVRの得意とすると ころです。こうした感情と身体の逆説的な関係性から、VRを使って感情の生起と関連する身体感覚を作り 出すことで、感情を操作できる可能性があります。

 こうした考えのもとに作成されたVRシステムが「扇 情 的 な 鏡 」で す(写真)。 表 情 を 変 化 さ せ る 画 像 処 理 技術を用いて、覗き込む人物の表情を「笑った顔」や「悲 しい顔」に加工して鏡を模したディスプレイ上に映し出 します。 すると、自身の表情が笑顔に見えるとポジ ティブ感情が、悲しい顔に見えるとネガティブ感情が 増加することがわかりました。 それに加え、自身の 身に着けているものの好き嫌いや、実際の表情にまで 影響を与えられることがわかりました。

 感情を操作すると聞くと危ない技術に思えるかも しれません。一方で、冷静な判断ができるように気持 ちを落ち着けたり、失敗して落ち込んでいた気分を 盛り上げてくれたりと、自分の心とうまく付き合っ ていくためのツールとして、こうした技術が活用され ることを期待します。(第6章「VRの可能性」p138-139より)

まとめ
●身体的変化が感情に影響する
●偽の身体感覚で感情を操作する
●笑顔の自分を見るとポジティブになる


書籍紹介
「トコトンやさしいVRの本」
廣瀬通考・監修、東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター・編
A5判、税込み1620円、日刊工業新聞社発行

様々な分野で注目されるVR技術を、基礎知識から応用まで一冊に収めました。とってもやさしい入門書!

~目次(抜粋、全66トピック)~
第1章 VRって何だろう
VRとは 「重要なのは情報のループ」
ARってなに? 「リアルとバーチャルの中間」
VRとAR 「異なる現実世界との距離感」

第2章 VRと五感の科学
知覚と認知の多様性への対応 「大脳と小脳の役割と協調」
感覚は脳内で組み合わさる 「感覚の分類」
感覚の強さはどのように変化する? 「物理量と感覚量」
臨場感を高める方法は? 「視野角が最重要」
触覚は騙されやすい 「人間の感覚は完全なセンサではない」
影響し合う五感 「クロスモーダル現象の応用」

第3章 VRが可能にする新しいインタラクション
身体の動きをトレースする技術 「身体型インタラクション」
実空間の「範囲」という制約を取り除く 「リダイレクションの技術」
アバタはどうやって動くの? 「モーションキャプチャの仕組み」
アバタを通じた自己表現 「バーチャル身体がもたらす新しい可能性」

第4章 時間と空間を超える
遠隔地点を意のままに体験できるシステム 「テレイグジスタンスとテレプレゼンス」
時間を操作する撮影技術 「マシンガンカメラの世界」
ライフログとVR 「人生の記録・心の記録」
時を遡るタイムマシン 「位置情報と時間軸」

第5章 VRの周辺技術
VRとAI 「VR世界の自動生成」
VRとロボット 「主観的視点と客観的視点」

第6章 VRの可能性
医学教育・ 看護教育とVR 「体験型の講義と実習」
デジタル・ミュージアム 「収蔵品を見て触って学べる仕組み」
製品設計とVR 「デジタルエンジニアリング」
超高齢社会とVR 「心身への活性効果」
若い研究者の登竜門 「VRコンテスト」

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日刊工業新聞社出版局

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
04月28日
この記事のファシリテーター

平成元年生まれのVR。誕生から30年が経過し、ゲームを発端に普及が加速しています。人間の感覚、VR技術、応用分野など、現段階でのVRを体系的に捉えているので、「VRを知る」には最適な一冊です。(担当編集者・土坂裕子)

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