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創業40年超のデザイン会社提案“世界最強の坪効率”店舗の実力

連載・店舗進化論(2)
創業40年超のデザイン会社提案“世界最強の坪効率”店舗の実力

京成電鉄上野駅の構内、ATMコーナーの一角(左手)に設置されたミセデモ

 「狭小スペースで無制限に商品を扱える店舗」―。店舗の企画・デザインを手がけるタッグ(東京都千代田区)の湯本健司代表取締役の脳裏をアイデアがよぎった。2017年春、デジタル技術を活用した新しい店舗の形を議論していたときだ。広告や販売促進などに関わるアイデアが集まる展示会の出展に向けてあと3週間。新しいコンセプトの提案を目指していた。

 小売業の店舗では当時、人手不足が顕在化し始めていた。湯本代表取締役は「仮に店舗のスペースが小さくなれば、その分接客スタッフは少なくて済む。我々は店舗の企画やデザインを長く手がけており、小売業の現場の課題を肌で感じていたことで(その課題を解決し得る店舗を狭小化する)アイデアが浮かんだのかもしれない」と振り返る。

 タッグは3月、東京都台東区の京成電鉄上野駅の構内に「世界最強の坪効率」をうたった「MISE‐demo(ミセデモ)」を設置した。展示会で提案したアイデアを事業化した。わずか1.3㎡の店舗は、商品のサンプルを飾るショーケースやタッチパネルなどで構成する。アニメキャラクターの商品を販売しており、利用者はタッチパネルを操作することで多様な商品の購入できる。購入した商品は自宅などに配送される。デジタル技術を活用して狭小スペースで無制限の商品を販売できる店舗を実現した形だ。ミセデモは私鉄3路線の駅構内や空港施設などでも設置する計画が進む。不特定多数の人が行きかう場所の小さな空きスペースを生かせる新型店舗として広がろうとしている。

購入から決済まで完了


 ミセデモはタッグが空きスペースを借り、タッチパネルなどで構成する什器を設置した上で小売業などから出店を募る。ミセデモは原則、インターネットに接続しており、出店者は商品情報を無制限に掲載でき、それらの商品を扱う既存の電子商取引(EC)サイトと連携できる。掲載する商品はインターネット上の管理画面でリアルタイムに入れ替えられ、タッチパネルの画面を通じて遠隔から接客することも可能だ。

ミセデモはタッチパネルとショーケースなどで構成する

 利用者はタッチパネルを操作して商品を購入でき、商品の紹介画面に掲載された2次元コード「QRコード」を自前のスマホで読み取ることなどにより決済まで完了できる。

 出店料は京成上野駅の場合、2週間につき15万円。不特定多数の人に商品をアピールできる場所に、割安で出店できる仕組みとして反響は上々で、すでに4カ月先まで出店者が決まっているという。湯本代表取締役は「リアルの店舗は消費者に元々の関心事以外への気付きを与える力がある。出店者にとってミセデモはそれを割安に実現できる価値ある仕組みだ」と強調する。

2、3歩進んで1歩下がる


 ミセデモの開発には、デジタル技術に対するそれまでの取り組みが影響した。その一つが16年頃に事業化した次世代ECシステム「VRコマース」だ。店舗の空間をウェブブラウザ上に高精細で再現し、利用者はマウスを操作して店舗空間を移動したり、空間内に陳列された商品を購入したりできる。

 このシステムは元々、店舗のデザインコンペで自社の提案をよりよく見せる手段として開発した。あるコンペの主催者にその技術自体を評価されたことが、サービス化に乗り出すきっかけになった。ただ、VRコマースは「一部の企業で利用されているものの、多くの企業からは『2―3歩先の世界観』(のため、まだ一般に受け入れられにくい)と言われた」(湯本代表取締役)。そこで「完全にデジタルのVRコマースの世界から1歩下がり、デジタルとリアルを融合した店舗を考えた結果が『ミセデモ』だった」(同)という。

 今後は駅構内のほか、商業施設やサービスエリアなどを狙って新設する。関東で100台以上の設置を目指す。より安価に誰もが気軽に出店できる仕組みも整える。具体的には1台1企業の出店ではなく、商品1個単位で販売できるようにする。

 湯本代表取締役は「月500円で1商品を出店できるミセデモを展開したい。例えば地方の伝統工芸品などを取り扱ったミセデモを空港に設置することで、訪日外国人などに地方にたくさんあるよい商品を訴求するきっかけが作れる」と力を込める。
(文=葭本隆太)
タッグの湯本健司代表取締役


連載・店舗進化論


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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
タッグは、創業41年で東京メトロの駅構内の売店などのデザインを手がけた実績を持っています。文中登場の「VRコマース」は仮想空間で陳列された商品にズームすると値札が見えるほど高精彩で驚きました。湯本代表取締役が「デザイン会社は顧客を驚かせるのが喜び」と話していたのが印象的でした。ミセデモは小売業界に驚きを与えるような成果を上げられるか注目されます。

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