スマホはもう頭打ち、電子部品各社「車載」シフト加速
本格的な競争が始まった
電子部品各社の主戦場がスマートフォンから車載へと急速に移り変わっている。世界のスマホ市場が伸び悩む中、自動車市場では環境対応や先進運転支援システム(ADAS)などの普及により、部品搭載点数は今後も増加が確実。各社は付加価値の高い製品の開発や生産設備体制の拡大、用途展開などを急いでおり、本格的な競争が始まった。
調査会社の米IDCによると、2019年の世界のスマホ出荷台数は前年比0・8%減の13億9490万台で3年連続の減少となる見通し。同社は第5世代通信(5G)対応や画面を折り畳めるスマホが投入されれば需要が喚起されるとし、下期(7―12月)は前年同期比2・3%増を見込む。
だが、「5G対応で『折り畳みスマホ』が公開されたが、30万円もする。一体誰が買うのか」(電子部品大手の幹部)との本音も聞かれる。
電子部品業界では直近までスマホの高機能化を受けて引き合いが高まっていた。スマホ市場の停滞感を払拭(ふっしょく)する切り札となることを期待するものの、一方でより市場が伸びている車載向けに各社力を入れ始めた。
特に注目されるのが、スマホ向けと車載向けの両方に多く使われる積層セラミックコンデンサー(MLCC)だ。MLCCは電気を蓄えたり、電流を整えたりする電子部品だ。
世界シェア首位の村田製作所の村田恒夫会長兼社長は「スマホよりも車の需要が継続して伸びる」と期待する。同社はスマホ向け需要に合わせて増産投資を進めてきたが、近年は車載向けの需要が急増している。4月から始まる3カ年の中期経営計画の中でも、旺盛な需要に対応するため年10%の増産を継続する考えだ。
TDKもMLCCの引き合いは依然として強い。「車載向けは相変わらずひっ迫している」(石黒成直社長)ため、安定供給のために生産増強を急ぐ。19年度までは継続的にある程度の規模で投資を続ける。
太陽誘電は新潟県内の子会社の敷地内に、MLCC生産の新棟を建設する。20年度内に稼働する計画。自動車の電装化や5Gの到来を目前に需要の増加を見越し、生産能力を増強し安定供給につなげる。京セラは競合メーカーと比べてMLCCのシェアは低いものの、生産能力を年率約30%引き上げて需要増に対応。21年には鹿児島の工場にMLCCの生産も担う新棟建設を検討している。
MLCCの搭載数はスマホが1台当たり約700個に対し、電装化の進展で自動車は同3000―8000個が搭載されるなど、ケタ違い。搭載数はさらに伸びていく見通しのため、各社にとって車載向け需要を確実に取り込むことが今後の成長のカギを握る。
自動車メーカーがCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)への適応を急ぐ中、電子部品大手も安全性に直結するADAS領域に視野を向ける。
村田は、静電気放電(ESD)に対する保護を業界最高水準まで高めた、車載電源向けメタル製パワーインダクター「DFE2HCAH」シリーズなどを、ADASなどに用途展開する。
部品の搭載密度の高まりに伴い、各種機器に影響を与えるESDから保護する需要があり、これに応える。民生機器向けで培ったインダクター技術を応用し、ESD対策を中心とした車載向けにした。
ロームは1個の電源集積回路(IC)で高電圧から低電圧に降圧できる技術を開発。従来は複数個が必要だったことから、実装面積の省スペース化が実現した。同技術により電源ICの差別化を進め、ADASやデジタルメーター向けなど、車載市場を深耕する計画だ。
また車載向け全般では、TDKが角度や位置などを検出して信号に変えるセンサーを強化している。自社の磁気技術を生かしたトンネル磁気抵抗素子(TMR)センサーなどの車載用センサーが対象だ。京セラは、モジュール(複合部品)だけでなくソフトウエア分野も含め、開発体制を強化する。谷本秀夫社長は「(今後は)車載向けの売上高のうち、ADAS関連のセンサーやカメラなどの比率が高まっていく」と見通す。
アルプスアルパインは、ハードウエアとソフトウエアを融合した機能デバイスを強化する目的で、アルプス電気とアルパインが経営統合した。象徴的存在として開発したのが、自動運転と手動運転の二つのモードを搭載した入出力デバイス「タッチインプットモジュール」だ。同社は高付加価値の車載向け製品を訴求していく。
日本電産は電気自動車(EV)用のインホイールモーターの開発に成功。ホイール内蔵型の駆動用電気モーターのため、車輪ごとに独立制御でき、車の設計自由度も高まる。同モーター搭載車の本格的な普及に合わせて、23年頃の量産を目指している。
中国市場の減速や機能の頭打ちなどでスマホ市場は今後も大きな伸びは期待しにくい。電子部品各社が車載市場へのシフトを加速するのは必然的な流れといえる。スマホで培った高機能や小型といった長所を生かし、市場に食い込めるか。各社の独自の成長戦略が重要になってくる。
(文=山谷逸平、京都・日下宗大)
民生市場はこれまでスマホ向けが最大市場だったが、スマホ普及が頭打ちとなった。今後は台数の伸びより、データ量やパワーエレクトロニクス分野におけるエネルギーの効率性という二つの方向性に焦点が移っていくだろう。
自動車はこの2点が結集している。ADASやコネクテッドカー(つながる車)は膨大な量のデータを使う。電子化があらゆる自動車領域に流れ込んでいる。
電子部品各社はこれに見合う製品開発が必要だ。車は大まかなロードマップが決まっており、安心して研究開発ができる。
技術が採用されれば投資もでき、比較的無駄のない投資が可能だ。キャッシュフローが回りやすい。車載向けにシフトする動きは19年度も継続するだろう。
需給ひっ迫-MLCC生産能力拡大
調査会社の米IDCによると、2019年の世界のスマホ出荷台数は前年比0・8%減の13億9490万台で3年連続の減少となる見通し。同社は第5世代通信(5G)対応や画面を折り畳めるスマホが投入されれば需要が喚起されるとし、下期(7―12月)は前年同期比2・3%増を見込む。
だが、「5G対応で『折り畳みスマホ』が公開されたが、30万円もする。一体誰が買うのか」(電子部品大手の幹部)との本音も聞かれる。
電子部品業界では直近までスマホの高機能化を受けて引き合いが高まっていた。スマホ市場の停滞感を払拭(ふっしょく)する切り札となることを期待するものの、一方でより市場が伸びている車載向けに各社力を入れ始めた。
特に注目されるのが、スマホ向けと車載向けの両方に多く使われる積層セラミックコンデンサー(MLCC)だ。MLCCは電気を蓄えたり、電流を整えたりする電子部品だ。
世界シェア首位の村田製作所の村田恒夫会長兼社長は「スマホよりも車の需要が継続して伸びる」と期待する。同社はスマホ向け需要に合わせて増産投資を進めてきたが、近年は車載向けの需要が急増している。4月から始まる3カ年の中期経営計画の中でも、旺盛な需要に対応するため年10%の増産を継続する考えだ。
TDKもMLCCの引き合いは依然として強い。「車載向けは相変わらずひっ迫している」(石黒成直社長)ため、安定供給のために生産増強を急ぐ。19年度までは継続的にある程度の規模で投資を続ける。
太陽誘電は新潟県内の子会社の敷地内に、MLCC生産の新棟を建設する。20年度内に稼働する計画。自動車の電装化や5Gの到来を目前に需要の増加を見越し、生産能力を増強し安定供給につなげる。京セラは競合メーカーと比べてMLCCのシェアは低いものの、生産能力を年率約30%引き上げて需要増に対応。21年には鹿児島の工場にMLCCの生産も担う新棟建設を検討している。
MLCCの搭載数はスマホが1台当たり約700個に対し、電装化の進展で自動車は同3000―8000個が搭載されるなど、ケタ違い。搭載数はさらに伸びていく見通しのため、各社にとって車載向け需要を確実に取り込むことが今後の成長のカギを握る。
得意技生かす-センサー・EVモーター…“クルマ大変革”が商機
自動車メーカーがCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)への適応を急ぐ中、電子部品大手も安全性に直結するADAS領域に視野を向ける。
村田は、静電気放電(ESD)に対する保護を業界最高水準まで高めた、車載電源向けメタル製パワーインダクター「DFE2HCAH」シリーズなどを、ADASなどに用途展開する。
部品の搭載密度の高まりに伴い、各種機器に影響を与えるESDから保護する需要があり、これに応える。民生機器向けで培ったインダクター技術を応用し、ESD対策を中心とした車載向けにした。
ロームは1個の電源集積回路(IC)で高電圧から低電圧に降圧できる技術を開発。従来は複数個が必要だったことから、実装面積の省スペース化が実現した。同技術により電源ICの差別化を進め、ADASやデジタルメーター向けなど、車載市場を深耕する計画だ。
また車載向け全般では、TDKが角度や位置などを検出して信号に変えるセンサーを強化している。自社の磁気技術を生かしたトンネル磁気抵抗素子(TMR)センサーなどの車載用センサーが対象だ。京セラは、モジュール(複合部品)だけでなくソフトウエア分野も含め、開発体制を強化する。谷本秀夫社長は「(今後は)車載向けの売上高のうち、ADAS関連のセンサーやカメラなどの比率が高まっていく」と見通す。
アルプスアルパインは、ハードウエアとソフトウエアを融合した機能デバイスを強化する目的で、アルプス電気とアルパインが経営統合した。象徴的存在として開発したのが、自動運転と手動運転の二つのモードを搭載した入出力デバイス「タッチインプットモジュール」だ。同社は高付加価値の車載向け製品を訴求していく。
日本電産は電気自動車(EV)用のインホイールモーターの開発に成功。ホイール内蔵型の駆動用電気モーターのため、車輪ごとに独立制御でき、車の設計自由度も高まる。同モーター搭載車の本格的な普及に合わせて、23年頃の量産を目指している。
中国市場の減速や機能の頭打ちなどでスマホ市場は今後も大きな伸びは期待しにくい。電子部品各社が車載市場へのシフトを加速するのは必然的な流れといえる。スマホで培った高機能や小型といった長所を生かし、市場に食い込めるか。各社の独自の成長戦略が重要になってくる。
(文=山谷逸平、京都・日下宗大)
私はこう見る/三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニアアナリスト・内野晃彦氏】
民生市場はこれまでスマホ向けが最大市場だったが、スマホ普及が頭打ちとなった。今後は台数の伸びより、データ量やパワーエレクトロニクス分野におけるエネルギーの効率性という二つの方向性に焦点が移っていくだろう。
自動車はこの2点が結集している。ADASやコネクテッドカー(つながる車)は膨大な量のデータを使う。電子化があらゆる自動車領域に流れ込んでいる。
電子部品各社はこれに見合う製品開発が必要だ。車は大まかなロードマップが決まっており、安心して研究開発ができる。
技術が採用されれば投資もでき、比較的無駄のない投資が可能だ。キャッシュフローが回りやすい。車載向けにシフトする動きは19年度も継続するだろう。
日刊工業新聞2019年3月22日