iPhoneも限界…長期保有で腐る「スマホ経済」
国内メーカーも戦略見直し必死
スマートフォン市場の伸び悩みが鮮明になってきた。保有率が頭打ちのうえ、高価格化路線も限界。性能の大幅な向上も期待できない。ユーザーは1台の端末を長期保有する傾向にあり、買い替えサイクルは伸び続ける。米アップルは業績を下方修正するなど影響が顕在化しており、日本の携帯会社や電子部品メーカーも戦略の見直しを迫られる。
リンゴは腐りかけているのか―。1月2日にアップルが業績を下方修正し、「アップル・ショック」が世界に広がったことは記憶に新しい。下方修正はスマホ「iPhone(アイフォーン)」を2007年に発売以来初めてなだけに、成長の限界を指摘する声が大きくなっている。
同月29日に発表した18年10―12月期の売上高は843億ドル(約9兆2000億円)。前年同期比4・5%減で減収幅はここ10年で最大となった。主力のiPhoneの売上高は519億ドルで同14・9%減と、減速感は隠せない。
米中貿易摩擦を背景にした中国での販売不振に加え、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は、「バッテリーを安価で効率的に交換することで、旧モデルのiPhoneをさらに長持ちさせることになった」と買い替えサイクルの長期化を原因として挙げる。
調査会社の米IDCが1月に発表した18年世界スマホ出荷台数シェアによると、1位は韓国サムスン電子の20・8%。アップルは14・9%で2位を堅守したが、3位の中国・華為技術(ファーウェイ)が14・7%に迫る。アップルの出荷量が2億880万台だったのに対し、ファーウェイは2億600万台と猛追。18年10―12月期に限ると、アップルは前年同期比11・5%減に対してファーウェイは同43・9%増と明暗は分かれる。
スマホ全体の出荷台数も18年は前年比4・1%減の14億490万台と2年連続で前年を割り込み、スマホ市場は踊り場を迎えた。半導体メーカー関係者は、「アップルは価格が高い上に真新しさがない。生産計画は慎重に見ていた」と指摘する。
アップルの伸び悩みの背景には、製品サイクルが2年程度と他のスマホメーカーに比べて長い点もある。モデル数が少なく、1機種あたりの台数を多くすることでコストダウンを享受できたが、開発途中での修正が難しく、新機能をふんだんに盛り込める体制ではない。市場が成長するにつれ、他社との差別化が難しくなる。
ファーウェイなどは開発期間は半年から1年。モデルチェンジのたびに機能面を見直して、市場が成熟する中でも新たな技術を投入しやすい。アップルが減速する中でも他メーカーがシェアを伸ばす理由のひとつだろう。
アップルの新機種の中でも、安価なモデルの方が売れ行きが堅調なこともかじ取りを難しくする。価格を下げれば、ブランドが毀損(きそん)する。現行の戦略を貫けば台数は漸減する。1台当たりの販売量は依然大きいが、価格と量を部品メーカーへの求心力としていただけに、関係の変化が訪れる時期かもしれない。
アップルはiPhoneの販売は不振なものの、それ以外の収益は伸びている。特に音楽配信などサービス分野は前年同期比同19・1%増の108億ドルと過去最高。株価もサービス分野の業績を評価して、決算発表後は上昇局面にある。
クックCEOが世界で稼働する14億台のデバイスを武器にあげたように、インターネット上で大量の情報を扱う「プラットフォーマー」としての地位は健在だが、ハードの伸び悩みが顕在化した中、ビジネスモデルの再構築は不可避だ。
世界的なスマホ市場縮小の影響は国内携帯各社にも及んでいる。KDDIの18年10―12月期のスマホ販売台数は、前年同期比30万台減の191万台に留まった。同社の高橋誠社長は、「ユーザーの流動性が落ち、NTTドコモやソフトバンクからのMNP(同番号移行制度)も弱含みだ。機種変更も数が出ていない」と明かす。「19年1―3月期に競争をしかけ(他社からの乗り換えなどの)流動性を活性化する」(同)とするものの、具体的策はまだ出ていない。
NTTドコモの18年10―12月期のスマホ販売台数も同26万5000台減の316万3000台。スマホ単体の販売台数を公表していないソフトバンクは、通信端末全体で同21万台減の273万台だった。
こうした中、スマホ市場にさらなる逆風が吹く。通信料金と端末料金を分けて提供する「完全分離」を政府が強く要請しており、各社が投入するとみられるからだ。
ユーザーにとって月々の通信料金は下がる一方、端末料金自体は上がる。ソフトバンクの宮内謙社長は「高い端末が全く売れなくなる」と懸念する。NTTドコモの吉沢和弘社長は「端末の購入補助が全くないのはありえない」としながらも、購入補助を縮小していく方針とみられる。
高価格帯のスマホをどう売り、他社からの乗り換えをどう促すのか―。各社は消費者の購買意欲をくすぐる策を考えることが求められる。
スマホの長期保有などによる市場の頭打ちは日本の電子部品・素材メーカーにも影響を与えている。
村田製作所は中華圏でのスマホの生産台数調整やハイエンドスマホの需要減により、18年10―12月のコンデンサーなどの受注高が前年同期と比べて減少。スマホの需要予想数値は慎重にみていたが、実績数は「さらに下の数値だった」(竹村善人取締役)。
京セラもスマホ向け部品の受注が18年末に急落した。19年1―3月期の部品需要の見通しは、「当初の予想よりも下回る」(谷本秀夫社長)見込みで、4月以降の動向も消極的だ。例年は春から夏ごろにスマホ関連の需要が復調するが、「前年度上期のような状態に戻ることはないのでは」(同)とみる。
TDKは電池分野についてスマホ向けを縮小し、小型機器市場や中レベルのパワーセル市場向けの開拓に力を入れる。液晶用バックライトやカメラ用アクチュエーターを供給するミネベアミツミは、スマホ需要が減速することを織り込み、スマート照明器具ブランド「SALIOT(サリオ)」の強化など、事業の多角化を進める。
ハイエンドスマホ向けにコネクターを供給するヒロセ電機は、スマホ向けビジネスから産業機器や車載向けビジネスにシフトを始めた。
日東電工は、スマホの有機ELディスプレー向けの偏光板など、高付加価値製品の出荷量が減少。武内徹最高財務責任者(CFO)は、「スマホメーカーの淘汰(とうた)が進み、寡占化が進んだ。消費者からみれば商品の選択肢が減るため、買い控えを招いている可能性がある」と分析する。買い替え期間の長期化が進めば、「19年も厳しい1年になりそう」と武内CFOは覚悟する。
(文=特別取材班)
ハード伸び悩み アップル・ショックで顕在化
リンゴは腐りかけているのか―。1月2日にアップルが業績を下方修正し、「アップル・ショック」が世界に広がったことは記憶に新しい。下方修正はスマホ「iPhone(アイフォーン)」を2007年に発売以来初めてなだけに、成長の限界を指摘する声が大きくなっている。
同月29日に発表した18年10―12月期の売上高は843億ドル(約9兆2000億円)。前年同期比4・5%減で減収幅はここ10年で最大となった。主力のiPhoneの売上高は519億ドルで同14・9%減と、減速感は隠せない。
米中貿易摩擦を背景にした中国での販売不振に加え、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は、「バッテリーを安価で効率的に交換することで、旧モデルのiPhoneをさらに長持ちさせることになった」と買い替えサイクルの長期化を原因として挙げる。
調査会社の米IDCが1月に発表した18年世界スマホ出荷台数シェアによると、1位は韓国サムスン電子の20・8%。アップルは14・9%で2位を堅守したが、3位の中国・華為技術(ファーウェイ)が14・7%に迫る。アップルの出荷量が2億880万台だったのに対し、ファーウェイは2億600万台と猛追。18年10―12月期に限ると、アップルは前年同期比11・5%減に対してファーウェイは同43・9%増と明暗は分かれる。
スマホ全体の出荷台数も18年は前年比4・1%減の14億490万台と2年連続で前年を割り込み、スマホ市場は踊り場を迎えた。半導体メーカー関係者は、「アップルは価格が高い上に真新しさがない。生産計画は慎重に見ていた」と指摘する。
アップルの伸び悩みの背景には、製品サイクルが2年程度と他のスマホメーカーに比べて長い点もある。モデル数が少なく、1機種あたりの台数を多くすることでコストダウンを享受できたが、開発途中での修正が難しく、新機能をふんだんに盛り込める体制ではない。市場が成長するにつれ、他社との差別化が難しくなる。
ファーウェイなどは開発期間は半年から1年。モデルチェンジのたびに機能面を見直して、市場が成熟する中でも新たな技術を投入しやすい。アップルが減速する中でも他メーカーがシェアを伸ばす理由のひとつだろう。
アップルの新機種の中でも、安価なモデルの方が売れ行きが堅調なこともかじ取りを難しくする。価格を下げれば、ブランドが毀損(きそん)する。現行の戦略を貫けば台数は漸減する。1台当たりの販売量は依然大きいが、価格と量を部品メーカーへの求心力としていただけに、関係の変化が訪れる時期かもしれない。
アップルはiPhoneの販売は不振なものの、それ以外の収益は伸びている。特に音楽配信などサービス分野は前年同期比同19・1%増の108億ドルと過去最高。株価もサービス分野の業績を評価して、決算発表後は上昇局面にある。
クックCEOが世界で稼働する14億台のデバイスを武器にあげたように、インターネット上で大量の情報を扱う「プラットフォーマー」としての地位は健在だが、ハードの伸び悩みが顕在化した中、ビジネスモデルの再構築は不可避だ。
国内各社にも影響 「完全分離」で売りにくく
世界的なスマホ市場縮小の影響は国内携帯各社にも及んでいる。KDDIの18年10―12月期のスマホ販売台数は、前年同期比30万台減の191万台に留まった。同社の高橋誠社長は、「ユーザーの流動性が落ち、NTTドコモやソフトバンクからのMNP(同番号移行制度)も弱含みだ。機種変更も数が出ていない」と明かす。「19年1―3月期に競争をしかけ(他社からの乗り換えなどの)流動性を活性化する」(同)とするものの、具体的策はまだ出ていない。
NTTドコモの18年10―12月期のスマホ販売台数も同26万5000台減の316万3000台。スマホ単体の販売台数を公表していないソフトバンクは、通信端末全体で同21万台減の273万台だった。
こうした中、スマホ市場にさらなる逆風が吹く。通信料金と端末料金を分けて提供する「完全分離」を政府が強く要請しており、各社が投入するとみられるからだ。
ユーザーにとって月々の通信料金は下がる一方、端末料金自体は上がる。ソフトバンクの宮内謙社長は「高い端末が全く売れなくなる」と懸念する。NTTドコモの吉沢和弘社長は「端末の購入補助が全くないのはありえない」としながらも、購入補助を縮小していく方針とみられる。
高価格帯のスマホをどう売り、他社からの乗り換えをどう促すのか―。各社は消費者の購買意欲をくすぐる策を考えることが求められる。
部品・素材への余波 ビジネス多角化で対応
スマホの長期保有などによる市場の頭打ちは日本の電子部品・素材メーカーにも影響を与えている。
村田製作所は中華圏でのスマホの生産台数調整やハイエンドスマホの需要減により、18年10―12月のコンデンサーなどの受注高が前年同期と比べて減少。スマホの需要予想数値は慎重にみていたが、実績数は「さらに下の数値だった」(竹村善人取締役)。
京セラもスマホ向け部品の受注が18年末に急落した。19年1―3月期の部品需要の見通しは、「当初の予想よりも下回る」(谷本秀夫社長)見込みで、4月以降の動向も消極的だ。例年は春から夏ごろにスマホ関連の需要が復調するが、「前年度上期のような状態に戻ることはないのでは」(同)とみる。
TDKは電池分野についてスマホ向けを縮小し、小型機器市場や中レベルのパワーセル市場向けの開拓に力を入れる。液晶用バックライトやカメラ用アクチュエーターを供給するミネベアミツミは、スマホ需要が減速することを織り込み、スマート照明器具ブランド「SALIOT(サリオ)」の強化など、事業の多角化を進める。
ハイエンドスマホ向けにコネクターを供給するヒロセ電機は、スマホ向けビジネスから産業機器や車載向けビジネスにシフトを始めた。
日東電工は、スマホの有機ELディスプレー向けの偏光板など、高付加価値製品の出荷量が減少。武内徹最高財務責任者(CFO)は、「スマホメーカーの淘汰(とうた)が進み、寡占化が進んだ。消費者からみれば商品の選択肢が減るため、買い控えを招いている可能性がある」と分析する。買い替え期間の長期化が進めば、「19年も厳しい1年になりそう」と武内CFOは覚悟する。
(文=特別取材班)
日刊工業新聞2019年2月8日