電子部品か素材かそれとも…“5G特需”を掴むのは誰だ

スマホ・車載など裾野広く

 2019年に高速・大容量の第5世代通信(5G)のプレサービスが開始するのに合わせ、電子部品や素材などの関連業界では受注合戦が始まった。スマートフォンだけでなく、基地局やデータセンターなど裾野は広い。米中貿易摩擦の影響で世界経済の行方に不透明感が強まる中、5G向けの旺盛な需要を取り込むべく、各社の期待は高まる。

デジタルデータ爆発の波


「5G関連需要は想定より立ち上がりが早い」―。

 1月30日に19年3月期連結業績予想を売上高、営業利益ともに上方修正したアンリツの浜田宏一社長はそう指摘する。5Gの旺盛な開発需要を背景に、5G開発で先行する米国と韓国を中心にチップセットや携帯端末の計測器注文が伸び、業績を押し上げた。

 5G関連メーカーはチップセットで米クアルコムやインテル、韓国サムスン電子、端末でサムスンなど米韓に集中しており、彼らの注文をいかに獲得できるかが勝負だ。5G関連の計測器を開発した社はアンリツともう1社しかなく、注文を分け合っている状態だ。

 米韓に続き、中国や日本での5G開発もこれから本格化する。米アップルのスマホ減速や米中貿易摩擦の影響も、浜田社長は「別次元の話」と否定。新技術だからこそ、タイミング良く製品投入できる研究開発体制を構築していたことが追い風を受ける要因になった。

 日本電産も、5Gで“デジタルデータ爆発の波”が到来すると期待する。情報量の増大により、冷却やハードディスク駆動装置(HDD)などでモーターが使われるデータセンターの数量が高まる。ビジネスチャンス拡大に備え、18年末には台湾の放熱部品メーカーを買収。冷却に必要な熱管理技術を高めて、データセンター用モーター需要を取り込む。5Gは、これからの成長のカギとなる「“ホット”な話題だ」(吉本浩之社長)。

 村田製作所や京セラも5Gに起因する市場拡大が加速すると見る。IoT(モノのインターネット)化との相乗効果で、電子化の裾野が広がるからだ。米中貿易摩擦が懸念材料だが、京セラの谷本秀夫社長は、「5Gや先進運転支援システム(ADAS)、IoTで設備投資を大きく減速するつもりはない」と断言する。

太陽誘電のMLCC(太陽誘電提供)

 TDKは、フリップチップ実装機「AFM―15シリーズ」に、半導体チップを業界最速の0・65秒で基板に取り付けられる新タイプを投入。5G対応のスマホでは、半導体を乗せるデバイスが増えることから、これに対応した。太陽誘電も今後の5G需要も見越し、約150億円を投じて新潟県内の子会社の敷地内に、積層セラミックコンデンサー(MLCC)生産の新棟を新たに建設する。福田智光上席執行役員は、スマホの5G対応が進めば「部品需要はそれなりに伸びていくだろう」と期待する。

 三菱電機は、通信基地局で使う高周波デバイスを生産する。基地局の5G対応に合わせ、19年度中にも新型デバイスの生産体制を拡充する。同デバイスの半導体材料には、5G用の周波数帯の特性に適した窒化ガリウム(GaN)を採用し、高性能化を狙う。

 現在、基地局で使う高周波デバイスの半導体材料にはシリコンを使うのが一般的。だが5Gでは、現在の4Gより高い周波数帯が割り当てられる予定。そのため高周波出力のGaNを採用しないと、設備の小型化や省電力化が困難になる。

 同社はかつて自社の携帯電話向けに、ガリウムヒ素(GaAs)製の高周波デバイスを供給していた。GaAsはGaNと同じく化合物半導体の技術だ。このため、既存の生産ラインをGaN用にも活用できるという。同社高周波光デバイス製作所(兵庫県伊丹市)の渡辺斉所長は、「設備投資を極力抑えて、収益性を重視する」と方針を示す。

 富士キメラ総研は、23年における世界での5G対応基地局の市場は4兆1880億円、スマホなどの5G対応機器の市場は26兆1400億円とそれぞれ予測している。

クラウドは本格普及で大きな商機


 「クラウドでの運用が普通になる」とAWSジャパンの長崎社長

 「多端末接続」「大容量通信」などを強みとする5Gは、クラウド事業者にとっても大きな商機だ。クラウドサービス世界最大手の、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)も、来る5G時代に期待する。

 AWS日本法人であるAWSジャパン(東京都品川区)の長崎忠雄社長は、5G普及とクラウドの需要は「連動する」と断言。多くの端末がインターネットに接続すれば、大容量のデータを処理・蓄積することが必要だからだ。

 こうしたデータは「従来のオンプレミス(自社保有)で運用するのではなく、低コストで柔軟に設計できるクラウドでの運用が『普通』になる」(同)と説明する。

「クラウドでの運用が普通になる」とAWSジャパンの長崎社長

 米アマゾン・ドット・コム子会社のAWSは、今やネット通販とともにアマゾンの業績を牽引する稼ぎ頭だ。5Gの普及が全世界で本格化すれば、アマゾンの業績をさらに盤石なものにするかもしれない。

高周波信号対応、追い風に


 5Gで使うギガヘルツ帯(ギガは10億)の高周波信号対応では伝送損失を抑える低誘電率、低誘電正接の基板材料などが求められており、住友化学のスーパーエンジニアリング樹脂の液晶ポリマー(LCP)が脚光を浴びる。5Gで必要な電気特性や高温多湿下の使用に向く低吸水性を有しており、高周波基板材料として次世代通信の追い風に乗る。

 三菱ガス化学が世界トップシェアの半導体パッケージ材料のBT積層板も期待が膨らむ。低コスト、耐熱性に加えて電気特性に優れ、90年代から半導体パッケージとしての地位を盤石なものにした。

 AGCは5G向けの合成石英ガラスアンテナを開発した。車載用や室内外用アンテナとしての実用化を目指し、19年からサンプル出荷を始める。電気信号の伝送損失が小さい高純度の合成石英ガラスを使ううえ、金属のアンテナパターンに微細なメッシュ加工を施した。パターンは透明に極めて近くなり、見える場所に置いても景観を損なわず、視界の遮りも最小限に抑えられる。

 5G向けではアンテナのほか、プリント基板材料にも力を注ぐ。同社の島村琢哉社長は「次世代高速通信関連で25年に600億円以上の売上高が期待できる」と展望を示す。

 一方、半導体シリコンウエハーメーカーのSUMCOの橋本真幸会長は、「5Gなどに対応するため、データセンターをどんどん作らないといけない(状況になる)」と、需要の高まりを予想。21年以降、シリコンウエハーは不足すると見ており、追加投資を視野に、取引先との販売価格是正を進めている。

 素材各社は5G向けの需要を見込み、関連製品の増産に取り組む。信越化学工業は光ファイバー用プリフォーム(前駆体)や半導体の製造工程で使うフォトマスクブランクスの設備投資を進めている。日立化成は台湾にプリント配線板用の高機能積層材料の工場を建設しており、20年に稼働予定だ。

SUMCOの橋本会長は需要の高まりを予想

(文=特別取材班)

日刊工業新聞2019年2月11日

  

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