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“仏政府の譲歩”で透ける思惑、日産・ルノー経営統合への作戦か

日産の少数株主の理解を得るための条件
“仏政府の譲歩”で透ける思惑、日産・ルノー経営統合への作戦か

マクロン仏大統領公式ツイッターより

 日産自動車、三菱自動車、仏ルノーの関係見直しをめぐり、仏政府が譲歩の姿勢を見せ始めた。筆頭株主であるルノーへの出資比率引き下げや、日産・ルノーの相互出資比率を再調整する準備があることが明らかになった。ただルノーと日産の関係強化を狙う仏政府の基本路線は変わらないとみられる。両社の経営統合といった“ゴール”に向け歩み寄りを示すことで、日本政府も巻き込んで日産の譲歩を引き出したい思惑が見え隠れする。

 仏経済誌シャランジュは6日(現地時間)、仏政府がルノー株の保有比率を段階的に引き下げ、ゼロにする用意があると報じた。仏財務省は同報道を否定したが、8日には仏政府が日本政府に対し、ルノー株の保有比率引き下げのほか、ルノー・日産の相互出資比率を再調整する準備がある考えを伝えたことが一部報道で分かった。

 仏政府はルノーに15%出資。ルノーは日産に43・4%、日産はルノーに15%を相互出資する関係にある。日産は3社連合の提携戦略が仏政府の意向に左右されかねない点、ルノーに資本面で支配される点などを問題視しており、今回、仏政府が譲歩姿勢をみせたことは日産にとって歓迎すべき話にみえる。

 しかし手放しでは喜べない。自動車を産業政策の要に据える仏政府は3社連合が「不可逆な関係」になることを希望してきた。1月には日本政府に対し、ルノーと日産を共同持ち株会社方式を想定し経営統合させる構想を伝えた。

 仏政府がルノー株の保有比率の引き下げを準備するのは「日産の少数株主の理解を得て、株主総会で統合案を通すための条件とも考えられる」とニューホライズンキャピタルの安東泰志会長は見立てる。また仏政府はルノー新会長のジャンドミニク・スナール氏を日産の会長職に就かせたい意向を持つ。

 日産は連合のシナジー(相乗効果)創出には各社の「独立性維持が重要」(西川広人社長)との立場で、どのような形であれルノーによる支配力向上に抵抗があり、経営統合論にも否定的だ。柔軟な姿勢を見せ始めた仏政府には、自ら譲歩することで日産にも譲歩を促し、経営統合という大目標の達成を引き寄せたい意図も透ける。

 日産はコーポレートガバナンス(企業統治)改善のための専門委員会を設置済みで3月末までに提言を得る。それを基本にまとめる改善策にはルノーとの関係見直しが盛り込まれる可能性がある。中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表は「関係見直し議論では仏政府が最大のカギを握る」と指摘する。
                 
日刊工業新聞2019年2月11日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
ルノー・日産は、実質的な親子上場であることから、もともとルノーと日産の少数株主との利益相反がある。加えて、仮に経営統合しようとする場合は、仏政府がルノーに対して保有する15%の株式が問題となる。現在は15%だが、フロランジュ法によって2倍の議決権ご与えられる可能性があるからだ。仮に経営統合しようとする場合は日産の少数株主への配慮が必要だ。

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