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ゴーン後継「西川広人」という男

調達からナンバー2に上り詰めたコストカッターの分身
強力なリーダーシップで日産自動車をけん引してきたカルロス・ゴーン氏が社長を退任することになった。後任はここ数年、ゴーン氏の右腕として実務を取り仕切ってきた西川(さいかわ)広人副会長兼共同CEO。

 西川氏は調達部門が長く、コスト削減で日産の再建を支えた。13年にはチーフコンペティティブオフィサー(CCO)に就き、ナンバー2まで一気に駆け上がった。2015年末のルノー議決権問題をめぐって、日産側の代表として仏政府との交渉に臨み、日産の経営の独立性を勝ち取った功績も持つ。

西川氏の考える日産の未来とは?


 「(つながる車などは)ワンパターンだった業界にとって不慣れな潮流。だが変化をチャンスにして主導権を握る実力はある」。最高経営責任者(CEO)のカルロス・ゴーンと並ぶトップの座にある共同CEOの西川広人はこう言い切る。

 大量に作って大量に売るというこれまでの単純なビジネスモデルは転換を迫られ、自動車産業の先行きは読みにくい。各地で普及するライドシェア(相乗り)も、どの程度のスピードと規模で拡大し需要構造にどんな影響をもたらすのか、専門家でも見方が分かれるところだ。「多様なシナリオを前提にした選択肢を準備して機敏に実行する判断力が求められる」と西川は気を緩めない。

 新分野はITや通信、サービスなど異業種が入り交じる混戦模様だ。日産は米マイクロソフトや米航空宇宙局(NASA)などと組んだ。「餅は餅屋。業界の枠を超えたアライアンスの巧拙がますます重要になる」(西川)と異業種連携を加速する。

 日産には同業とのアライアンスで一定の成功を収めた自負がある。ルノーと資本提携して18年。共同購買や開発の協業・分担でシナジーを引き出し、日産はかつての危機を脱して成長軌道に乗った。

 ダイムラークライスラー(当時)は企業文化の相違から合併解消を余儀なくされ、当時はルノー日産連合の先行きを疑問視する向きもあった。しかし今、西川は「合併ではなく対等の精神で互いに成長するという今までにない試みが成功した」と確信する。2016年秋に傘下に収めた三菱自とのシナジー創出も、信頼を軸にしたルノーとのアライアンスの経験を生かす。

 17年3月期は営業利益率と世界シェア8%を目指す中期計画「パワー88」の最終年度。西川は「前半に生産能力を増強した結果、事業の効率面で課題が残る」と現状分析する。17年3月期見通しは営業利益率が6・6%、世界シェアが6・3%で、計画達成は容易ではない。しかし「次期中期計画に向けて事業効率を高める基盤はできている」と前を向く。

 今の日産はトヨタ、VWと肩を並べ「規模で他社とハンディキャップがなく次のステージにいける」(西川)状態だ。ただ新分野の台頭に加え、トランプ米新政権の発足など事業環境には不透明感が漂う。逆境を乗り越えてきた日産は新たな大波を乗り越えられるのか―。真価が問われている。
(敬称略)
日刊工業新聞2017年2月24日「深層断面」から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
自動車担当の時の西川さんの印象は超ドライな鉄仮面な人。調達部門ということもあってめったに表に出てこず、サプライヤーからの声もあまり芳しいものではなかった。当時は志賀COO、三菱自の副社長になった開発担当の山下副社長(当時)、そして西川氏というほぼ同じ世代の3人がライバルとして競っていた印象。最近お会いしていないが、経営者として懐の深さのようなものが出てきたのだろうか。

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