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「自家用車を手放してもよい」中国8割、自動車サービス化の普及速度

年25%成長予測も各地域に温度差、「CASE」と両にらみ
「自家用車を手放してもよい」中国8割、自動車サービス化の普及速度

日産とDeNAの自動運転車を使った配車サービス「イージーライド」

 乗り物を使ったサービス「MaaS(マース)」の勃興期が近づいている。調査会社のまとめによれば、2030年までにMaaSの市場規模は年平均成長率(CAGR)25%で成長し、米国と中国、欧州を合わせて1兆4000億ドル(155兆円)に達すると想定する。自動車関連企業はCASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)への適応を進めつつ、MaaSの普及にも備える必要がありそうだ。

 MaaSをめぐっては、トヨタ自動車とソフトバンクグループが18年度内に移動サービス事業を担う共同出資会社を設立する。日産自動車はディー・エヌ・エー(DeNA)と無人自動運転車を使う配車サービスを開発する予定。ホンダは異業種ではなく、同業の米ゼネラル・モーターズ(GM)と手を組み、無人ライドシェア(相乗り)サービスを19年以降に始める。

 MaaSなどのモビリティーサービスは利益面で自動車を単品で販売するビジネスを上回るとされる。MaaSの台頭により、従来の部品事業やアフターサービスなどの市場で得られる利益の割合が現在の71%から30年には41%とほぼ半減するとの試算もある。そうした期待と危機感が各社の提携を促している。

 調査会社のPwCコンサルティング(東京都千代田区)の戦略コンサルティング部門のStrategy&(ストラテジーアンド)のまとめによれば、地域別のMaaS市場は30年に米国は約28兆円、中国が約73兆円、欧州は約50兆円に達する見通し。

 PwCは中国が伸びる要因として「技術だけでなく、政策による変革の速さ」を挙げる。MaaSの拡大とその対応は、日本や欧米では政府として製造業の雇用や交通輸送システムの統制権など失うものが多い。一方で、中国はスモッグの削減や先進技術における優位性など得るものが多い。そのため、反動が少ない中国はよりドラスチックな政策を打ち出せる。

 加えて、中国は国民がMaaSに対して期待や関心が高い。価格競争力があり、即応型の配車サービスが可能な自動運転車が利用できる場合、「自家用車を手放してもよい」とする人の割合は中国が79%。米・中・欧3地域の中で最も高く、米国は38%、欧州は47%にとどまっている。

 今後、中国だけでなく、世界中でMaaSの市場が拡大するためには、配車のスピードやシームレスであることなど、サービスの完成度がカギを握る。

 00年以降に社会人となった「ミレニアル世代」はこれまでの世代と比べて、車の保有や利用に対する執着が弱いとされるが「統合された移動体験であれば、ストレスを感じない」(PwC)という。さらに同世代は世界人口の50%以上を占めているため、受け入れられれば普及が進む可能性が高い。

 もうひとつカギとなるのはCASEへの対応だ。MaaSを実現する上で、自動運転や情報端末との連携、高効率なマッチング、航続距離などの課題をクリアする必要がある。

 実際、MaaS市場が拡大する前に、自動運転車は25年以降、電気自動車(EV)は20年以降にそれぞれ急増する見通しだ。自動車がCASEの適応を進めた先に、MaaSを実現できる未来が待っている。
               

(文=渡辺光太)
日刊工業新聞2019年1月4日

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